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ep24:[最終話]死んじゃうなら、その命くれない?

 春人に告白された翌日。


 彩奈が二週間ぶりに、教室に顔を見せた。


「あっ、彩奈!! なんで来てくれるなら教えてくれないのよ! めちゃくちゃ心配したんだから!!」


 明日香が彩奈の元へと駆け寄る。彩奈は照れくさそうに「ごめんね」と言うと、はにかんだ笑顔で私たちに手を振った。思っていたよりも、全然元気そうだ。そして彩奈は、明日香といくつかの会話を交わしたあと、私の元へとやってきた。


「眞白、今日一緒に帰れない?」


 きょ、今日に限って……そんな事を頭がよぎったが、私は「大丈夫だよ」と彩奈に返事をした。



***



「ねえねえ、眞白。千尋には言ったの? あの事」


「ま、まだ……お昼ごはんの時に言おうと思ってたから……」


 私たちは悠真がいなくなってからも、千尋と沙耶と三人でお昼ごはんを食べている。最初は「眞白ちゃん」呼びだった二人も、今では「眞白」と呼んでくれている。今ではすっかり、仲良し三人組だ。


「なになに? 何かあったの、眞白?」


「じ、実はね、昨日春人に告白されたの……沙耶にはね、一緒に帰れなくなるからって、先にLINEだけしたんだけど……」


 千尋は片手で口を抑え、「うそうそ!?」と満面の笑みを浮かべている。


「それでそれで!? もちろんオッケーしたってことなんだよね!?」


 恥ずかしそうに私が頷くと、二人は「おめでとー!!」と拍手までして喜んでくれた。他の席で食事をとっているグループが、何事かと振り返るくらいに。



***



 自転車置き場から自転車を取り出し、彩奈が待っている正門へと向かう。今日から一緒に帰る約束をしていた春人には、LINEでごめんと謝っておいた。


「おまたせ、彩奈」


「ううん、ごめんね急に。眞白に急ぎで話したいことがあったから」


 てっきり明日香も一緒だと思っていたが、彩奈は一人で待っていた。彩奈は徒歩、私は自転車を押しながら駅の方へと向かう。


「ほんと、学校に来てくれて安心したよ。明日香もすごく心配してたし。——それより、明日香は一緒じゃなくてよかったの?」


「うん……眞白じゃないと相談しにくいことだったから。歩きながら話すのもなんだし、マックでもよる?」


「い、いや、公園でいいかな。ほら、私あまりお金ないから」


「そっか。全然いいよ。——フフ、眞白は公園が好きなんだね」


 私じゃないと相談しにくいこと……一体、なんだろうか。


 私たちは帰路から少し逸れた公園へと移動した。



「早速なんだけどさ……私って悲しんだり、泣いたりするのが得意じゃないんだよね……笑ったり、楽しむってのは全然普通に出来るんだけど」


 ベンチに腰をかけてすぐ、彩奈が言った。彩奈は一体、何を言っているのだろうか。私には、彼女が何を伝えたいのかさっぱり分からない。


「そ、そういうのって、意識するものじゃないんじゃないかな……? 悲しい時なんて、涙も自然に出ちゃうし」


「そうだよね……でも、私は意識しても難しいの。だから、なかなか学校にも顔を出せなくって。——でもね。昨日、悠真の机が片付けられたって聞いて、そろそろ悲しんでなくても大丈夫なのかなって」


「なっ、なに言ってんの、彩奈……? 悠真が……悠真が刺された時には泣き叫んでたじゃない……」


 怒りなのか悲しみなのかは分からない。私の唇と声が、ワナワナと震えだした。


「そう、あの時の彩奈はね。でも今は無理なの。だからその……コツとかあれば、教えてくれないかなって……」


「あ、あの時の彩奈ってどういう意味……?」


「ほら、あの時の彩奈ってのは、『私のせいだ』って叫んでた時の彩奈だよ。『私のせいで、悠真が死ぬ』って。『死ぬなら私でよかったのに』って言ってた時の」


 彩奈は笑顔でそんな事を言った。この彩奈の笑顔……どこかで見たことがある……


「だから言ってあげたの。『死んじゃうなら、その命くれない?』って」


「もっ……もしかして、あなた……」


「フフ、やっと気づいてくれた? これからもよろしくね、眞白」


 彩奈は澄んだ笑顔で、私に右手を差し出してきた。






< 死んじゃうなら、その命くれない? [完]>

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