───静かな室内に控えめにクラシックな音楽が流れる──
男はコーヒーを片手にタブレットの端末でNEWSを見ている──
ダイニングテーブルに置かれた写真立ての横ではペンダントが青い輝きを放ってる……。
男からは微かな哀愁が漂う──
───静けさを破る通信音が部屋に響く
「はい…日出です」
男は静かに応答する。
「私に教育を依頼すると?
はい、分かりました。
……それは何処に……?」
───某所、研究施設ラボラトリー
男は案内の研究員に追従している。
「ここに来るのも久しぶりだ……」
何故か彼の足取りは重い。
やがて複数の研究職員に囲まれる軍服姿の少女の姿が見える。
彼女は長い黒髪と藍色の瞳が印象的で、
あどけなさを感じるその顔は、無表情にじっと前を見つめ、その場で静かに佇んでいる──
「……その子が例のアンドロイドの女の子かい?」
男がその場の責任者と思しき者に尋ねる。
「はい、スケアクロウのプロトタイプ1号機です」
「スケアクロウ……人の記憶を持つ案山子か……皮肉な名前だね……」
男はその少女に近づく。
そして膝に手を置き、彼女に視線を合わせる。
「初めまして、こんにちは……。
僕は今日から君の教育を任された日出歳(ひので とし)という者だ。
君の、名前を教えてくれるかい?」
アンドロイドの少女は歳と視線を合わせ、不思議そうな顔をして口を開く。
「私に名前はまだありません……
私に、名前を付けて下さいますか?」
「……名前か……」
男は少し考えた素振りを見せて、彼女の仕様書に目を通す。
しかしその内容に我が目を疑い、近くに居た研究員に問いかける。
「ねぇ君……この子の記憶の持ち主……これは間違いではないのかい?」
「いえ、間違いありません、Sir」
「この子にインストールされている記憶は
青海藍(おうみ あい)
……元陸軍所属の兵士ですね」
死んだ彼女の記憶を持つアンドロイド……
男の心は激しく掻き乱される──
その様子をじっと見つめる純粋な瞳──
──悪い冗談だ……
と彼は思いながら仕様書をデスク置いて大きくため息を吐く──
男は彼女の瞳を見つめながらこう告げた
────
──今日から君の名前は──
『アイ』──だ」
──彼女の瞳に一瞬戸惑いが浮かぶ
──そして嬉しそうに微笑み
───幼い瞳に
鮮やかな光が宿る────