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プロジェクトスケアクロウ
プロジェクトスケアクロウ
A.I(アイ)
SF空想科学
2025年03月28日
公開日
6.3万字
連載中
黄昏の中── 爆音が轟く────! 「──ザッ、こちら一分隊は……繰り返す、一分隊は離脱する──!」 ノイズ混じりの通信の向こうの声が、静寂の中に吸い込まれる。 彼女はペンダントを握り大きく息を吐く。 「分隊長より、第二分隊! 他分隊の後退支援に入る!」 彼女は分隊員にそう告げ、銃を構える。 彼女の放つ弾丸が正確に敵兵を撃ち抜く── 「最後尾は私が持ちます、副長は分隊員を連れて下がりなさい!」 ……Sir、 私、ちゃんと約束守りますよ……! スコープディスプレイのセンサーが赤く敵パターンを示す。 やがてドローンの羽音が鼓膜を揺らす。 遮蔽物へ身を潜め、息を殺す。 そして静かに狙いを定め、絞り込むように、 トリガーを引く── 放たれた弾は敵を貫き、機体は飛散する。 彼女は小さく、息を吐く── 刹那── 乾いた音が響き──── 彼女の胸元が 赤に染まってゆく──── やがて、 冷たい雨が降り出す。 微かに震える呼吸── 血濡れた手が、そっとペンダントに触れる── 金属の冷たさに、彼との繋がりを感じる── 「Sir……借りたペンダント、 返せなくなりました……」 ──その声は風に消されるほどか細い。 「約束、守れなくて、ごめんなさい…… もっと一緒に、居たかった…… 愛して、います…… Sir……」 無情に命は流れ落ち、 瞳は光を失ってゆく、 最後まで、彼女の手には、 青く光る、“約束の証” が握られていた── 任務から数日後、 オフィスの扉をノックする音。 静かに差し出されたのは小さな箱。 ──瞬間、彼の視界から、色が消える。 中にはドッグタグと彼女に持たせたあの青いペンダント…… 硝煙と血の微かな匂いが、運命を物語る。 「嘘、だろ……?」 床に膝をつき── 声にならない嗚咽が込み上げる。 彼女の笑顔も…… 頬を染めた言葉達も…… 今はもう…… 届かない。 胸を引き裂く後悔と、温もりの記憶が彼の胸を締め付ける。 「……僕がちゃんと止めていれば……ごめんよ……ごめん……」 青く光るペンダントだけが── 静かに彼を見守っていた──── それは儚く切ない愛の記憶──────

第1話 瞳の奥に宿るもの

───静かな室内に控えめにクラシックな音楽が流れる──


男はコーヒーを片手にタブレットの端末でNEWSを見ている──


ダイニングテーブルに置かれた写真立ての横ではペンダントが青い輝きを放ってる……。


男からは微かな哀愁が漂う──



───静けさを破る通信音が部屋に響く


「はい…日出です」

男は静かに応答する。


「私に教育を依頼すると?

はい、分かりました。


……それは何処に……?」



───某所、研究施設ラボラトリー


男は案内の研究員に追従している。


「ここに来るのも久しぶりだ……」

何故か彼の足取りは重い。


やがて複数の研究職員に囲まれる軍服姿の少女の姿が見える。


彼女は長い黒髪と藍色の瞳が印象的で、

あどけなさを感じるその顔は、無表情にじっと前を見つめ、その場で静かに佇んでいる──


「……その子が例のアンドロイドの女の子かい?」

男がその場の責任者と思しき者に尋ねる。


「はい、スケアクロウのプロトタイプ1号機です」


「スケアクロウ……人の記憶を持つ案山子か……皮肉な名前だね……」

男はその少女に近づく。

そして膝に手を置き、彼女に視線を合わせる。


「初めまして、こんにちは……。

僕は今日から君の教育を任された日出歳(ひので とし)という者だ。

君の、名前を教えてくれるかい?」


アンドロイドの少女は歳と視線を合わせ、不思議そうな顔をして口を開く。

「私に名前はまだありません……

私に、名前を付けて下さいますか?」


「……名前か……」

男は少し考えた素振りを見せて、彼女の仕様書に目を通す。


しかしその内容に我が目を疑い、近くに居た研究員に問いかける。


「ねぇ君……この子の記憶の持ち主……これは間違いではないのかい?」


「いえ、間違いありません、Sir」


「この子にインストールされている記憶は

青海藍(おうみ あい)

……元陸軍所属の兵士ですね」


死んだ彼女の記憶を持つアンドロイド……


男の心は激しく掻き乱される──



その様子をじっと見つめる純粋な瞳──



──悪い冗談だ……


と彼は思いながら仕様書をデスク置いて大きくため息を吐く──


男は彼女の瞳を見つめながらこう告げた


────


──今日から君の名前は──


『アイ』──だ」


──彼女の瞳に一瞬戸惑いが浮かぶ


──そして嬉しそうに微笑み


───幼い瞳に


鮮やかな光が宿る────





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