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1章 第1話 瞳の奥に宿るもの

───静かな室内には控えめにクラシックな音楽が流れる。


男はコーヒーを片手にタブレット端末でNEWSを見る。


ダイニングテーブルに置かれた写真立ての横ではペンダントが青い輝きを放つ。



男からは、微かな哀愁が漂う。



───静けさを破る通信音が部屋に響く


「はい、日出です」



「私に教育を依頼すると?

はい、分かりました。



それは、何処に?」



───某所、研究施設ラボラトリー



男は落ち着いた様子で案内の研究員に追従している。



「ここに来るのも久しぶりだ」


そう呟く彼の足取りは重い。



やがて、複数の研究職員に囲まれる軍服姿の少女の姿が見える。


彼女は、長い黒髪と藍色の瞳が印象的だった。


あどけなさを感じるその顔は、無表情にじっと前を見つめ、その場で静かに佇んでいる。


「……その子が例のアンドロイドの女の子かい?」


その場の責任者と思しき者に尋ねる。



「はい、『スケアクロウ』プロトタイプ1号機です」



「スケアクロウ……」


「人の記憶を持つ案山子か。

皮肉な名前だね」


男はそう呟くと少女に近づく。


そして膝に手を置き、彼女に視線を合わせる。


「初めまして。

僕は今日から君の教育を任された日出歳(ひので とし)という者だ。

君の、名前を教えてくれるかい?」


アンドロイドの少女は歳と視線を合わせ、不思議そうな顔をして口を開く。


「私に名前はまだありません。


私に、名前を付けて下さいますか?」


「名前か……」


男は少し考えて、彼女の仕様書に目を通す。


すると彼は、目を大きく見開き、近くに居た研究員に問いかける。



「ねぇ君。この仕様書に書かれた記憶の持ち主。これに間違い無いのかい?」



「はい、間違いありません、Sir」


「インストールされている記憶は、

青海藍(おうみ あい)、元陸軍所属の兵士です」



そう聞くと男は、一瞬強く拳を握り、大きなため息を吐く。



その様子をじっと見つめる純粋な瞳。



悪い、冗談だ。



男はそう思いながら、仕様書を静かにデスクに戻す。


そして、彼女の瞳を見つめながらこう告げた。



今日から君の名前は、



『アイ』だ」



彼女の瞳に一瞬戸惑いが浮かぶ。



そして、嬉しそうに微笑み、



───純粋な瞳に




鮮やかな光が、宿った────





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