目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

2章 プロローグ

男は、何事もない顔で街を歩いている──


細身の長身、痩せこけた頬に銀色の短髪。仕立ての良いスーツには一本の折り目が鋭く入り、手はポケットに差し込まれたまま。

人々の行き交う街をただ静かに歩き、そして何事もなく交差点の信号で立ち止まる。


色のついた眼鏡が、夕陽を反射する。


──なぜ、こいつらはこんなにも醜い顔をしているのだろう?


眉間に皺を寄せ、睨みつけるように周囲を見渡す。

なぜ、ぶつかるような歩き方をわざわざ選ぶ?

我先にと道を塞ぎ、まるでこの世界に自分しか存在しないかのように振る舞う。


無能なくせに、傲慢。

饒舌なくせに、無知。


偽物の情報に汚染された「一般論」を振りかざし、悦に浸るために周囲の粗ばかり探す。

そのくせ、自らの悪臭を放つような醜態には、まるで気づいていない。


──こいつらは、なぜ生きている?


何のために存在している?


あの年寄りは、なぜ無駄に長生きしたがる?

疎まれ、嫌われ、汚物のように生を撒き散らしながら、それでもなお、生にしがみつく?


……塵。

なぜお前は、私が心血を注いだ研究を、まるで自分の成果かのように発表できる?


内容すら理解せず、ただ木偶の坊のように、私の論文を読むことができる?


──妻よ。

なぜ、その木偶の坊と共にいる?

お前まで……私を裏切るのか。


愚図、屑、くず……クズ…………


……すべて、リセットしよう。


……すべてを、灰色で塗り潰そう。


……すべての人類に──永遠の安らぎを

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?