男は、何事もない顔で街を歩いている──
細身の長身、痩せこけた頬に銀色の短髪。仕立ての良いスーツには一本の折り目が鋭く入り、手はポケットに差し込まれたまま。
人々の行き交う街をただ静かに歩き、そして何事もなく交差点の信号で立ち止まる。
色のついた眼鏡が、夕陽を反射する。
──なぜ、こいつらはこんなにも醜い顔をしているのだろう?
眉間に皺を寄せ、睨みつけるように周囲を見渡す。
なぜ、ぶつかるような歩き方をわざわざ選ぶ?
我先にと道を塞ぎ、まるでこの世界に自分しか存在しないかのように振る舞う。
無能なくせに、傲慢。
饒舌なくせに、無知。
偽物の情報に汚染された「一般論」を振りかざし、悦に浸るために周囲の粗ばかり探す。
そのくせ、自らの悪臭を放つような醜態には、まるで気づいていない。
──こいつらは、なぜ生きている?
何のために存在している?
あの年寄りは、なぜ無駄に長生きしたがる?
疎まれ、嫌われ、汚物のように生を撒き散らしながら、それでもなお、生にしがみつく?
……塵。
なぜお前は、私が心血を注いだ研究を、まるで自分の成果かのように発表できる?
内容すら理解せず、ただ木偶の坊のように、私の論文を読むことができる?
──妻よ。
なぜ、その木偶の坊と共にいる?
お前まで……私を裏切るのか。
愚図、屑、くず……クズ…………
……すべて、リセットしよう。
……すべてを、灰色で塗り潰そう。
……すべての人類に──永遠の安らぎを