────李は椅子に腰掛けながら煙草をふかす。
娘を売って欲しい……か……
……前金と言っていた、なら最低でもこの倍は出すと言う事……
……ただボロを来た娘に……?
……馬鹿馬鹿しい……ただの嫌がらせ……
俺もどうかしてる……
大きくため息を吐く。
「おい!李!鑑定結果が出たぞ」
鑑定屋の男が印刷した紙を受け取る。
紙に目を通す──
冗談だろ……。
「これは確かに本物の金だ、それも99.99%の純金……おい李、こいつ、どこで盗んだ?」
鑑定男が分析機の金貨を手に取り冗談混じりに笑う。
「盗んじゃいねぇよ……ただの……質草だ……」
そう言いながら男から金貨を奪い取ってアタッシュケースに放り込む。
「ふん……で、どうするんだ、買い取るのか?
全部で大体1500くらいだ」
鑑定屋が安く買い叩いているのが透けて見える、最低でも2000は下らないはずだ。
「いや、いい……手間かけたな……!」
そう言って代金をカウンターに置く。
「そうかい……気をつけて帰りな」
舌打ちをして代金を掴み、もう用済みとばかりに無愛想に横を向く。
李は重い金貨が入ったアタッシュケースを右手にガラス戸を押し開け店を出る。
太陽はもう西に傾いている。
周りを警戒しながら足早に人混みの中に潜り込む。
日中の人混みは裏路地よりも遥かに安全だ。
帰り道、頭の中で女の言葉を反芻する。
重いアタッシュケースが李の指に食い込む。
──ふと芽衣の顔を思い出す、俺が作った不細工なブレスレットを渡した時だ、本当に嬉しそうに笑っていた。
──はしたがね
そんな言葉が頭をよぎった──
何故か右手の鞄も心もさっきよりも軽く感じる。
途中、芽衣の好きなファストフード店でハンバーガーのセットを買う。
年に一度あるかどうかの贅沢だ。
秋の夕暮れは早い……
家に着いて扉のノブに手を掛ける──
──変だな、鍵が空いてる。
出る時は確かに鍵を閉めた筈だ──
「芽衣……今帰ったよ……」
そう言いながら恐る恐る扉を開け中に足を踏み入れる。
明かりをつけて見渡すが人の気配がしない。
天井のサーキュレーターが周る度に、何かパタパタと乾いた音が部屋に広がる。
カウンターの上に目をやると、円柱状の金属の塊の下に置かれた紙切れが風を受けて靡いている音だと気がつく。
近づいても一瞬それが何なのか脳が処理しない。
手でその塊を持ち上げると
──それが何か
──何が起きたか
──脳が瞬時に理解する
鈍く光る金属の塊──
それは、きつく束ねられた20枚の金貨──
そして床に舞い落ちた紙切れには
──『取引成立』、とだけ書かれていた。
「芽衣……」
……ばさっ、と音を立てて李の左手からファストフード店の袋が床に落ちる──