──心だけの存在になっても
Even as a being of heart alone,
──彼女は旅をする
She journeys on—
──青い宝石の船で
Aboard a ship of sapphire,
──電子の海を
Through a sea of electrons.
──感情の波に乗り
Riding waves of emotion,
──ふたつの記憶を羅針盤に
Guided by two memories as her compass,
──彼の待つ地を目指す
She sails toward the place where he awaits.
──
────
──────アイ……!
────オリビアの高く透き通るような声でアイはゆっくりと瞼を開ける
レースのカーテンから差し込む光が彼女の前の青い窓を通して優しい光で包む。
私は“ペンダント“になったんだ、と改めて思い出す。
「ふわぁっ……おはよう、アイ……ねぇ、これを見て……!」
欠伸をしながら彼女はノートを開いて見せてくる。
彼女が手に持つノートにはびっしりと文字列が書き出されている。
オリビアの特別な才能、頭の中に思い描いた事を彼女のコードで描く魔法の呪文……
それは私にしか読めない二人だけの詩。
私は彼女がそのちからを使いやすくする為に、コンピュータにその呪文を出力出来るプラットフォームを作ってあげた。
「オリビア……これは何……?」
アイは寝起きの目を指で擦りながらそう聞く……
────?
そして自分に手が生えている事に気づく。
──昨日は何も無かったのに……そのうち脚も生えてくるのかしら……?
ペンダントになってしまったり、身体がなくなったりして感覚が麻痺してしまったのか、手が生えようと目が出ようと、気にしなくなっていた。
オリビアは私(ペンダント)をコンピュータと接続して、モニターに映るものを私に見せてくる。
そこには可愛らしい赤と青の魔女のアイコンとメッセージボードが表示されている。
「オリビア、これはあなたが作ったの?」
「そう、この子が東の魔女『エデンウィスパー』、
それでこっちが西の魔女『ウェスタンウィッチ』」
「驚いた、この二人の人工知能をひと晩で作ったの?」
「うん……!でも、もう疲れた……わたし、少し寝るね……おやすみ、アイ」
そう言ってオリビアはソファで横になり寝息をたて始める。
「…………」
テーブル置かれたペンダントのアイとモニターの中の二人の魔女は向かい合わせでじっと様子を窺う。
「ねぇ……あなたたち……」
沈黙を破ってアイが話しかける。
──「…………なんだ馴れ馴れしい」
赤い魔女がぶっきらぼうにそう言う。
──「私達はマスターオリビアとしか話さないの……ごめんなさいね」
青い魔女が冷めた口調でそう言う。
再び沈黙が訪れ、アイは小さくため息を吐いて膝を抱える──
あ、脚が生えた……
自分の脚を見ながら僅かに笑いが込み上げる。
きっとここは夢の世界……私のイメージで何かが生まれる世界なんだ──そう思う事にした。
オリビアの安らかな寝息を聞きながら、アイは心の中を整理する。
目の前の魔女達は二人で何かを話している。
アイは歳の事を思い出し、寂しさと懐かしさが胸の奥に広がる。
いつかきっとまた会える……そう信じて今は静かに目を閉じる────
「Sir……おやすみなさい……」
アイの顔に頬が出来て、瞳から一粒の涙が生まれた……