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3章 第3話 記憶の旅人達

──心だけの存在になっても


Even as a being of heart alone,


──彼女は旅をする


She journeys on—


──青い宝石の船で


Aboard a ship of sapphire,


──電子の海を


Through a sea of electrons.


──感情の波に乗り


Riding waves of emotion,


──ふたつの記憶を羅針盤に


Guided by two memories as her compass,


──彼の待つ地を目指す


She sails toward the place where he awaits.



──


────


──────アイ……!


────オリビアの高く透き通るような声でアイはゆっくりと瞼を開ける


レースのカーテンから差し込む光が彼女の前の青い窓を通して優しい光で包む。


私は“ペンダント“になったんだ、と改めて思い出す。


「ふわぁっ……おはよう、アイ……ねぇ、これを見て……!」


欠伸をしながら彼女はノートを開いて見せてくる。


彼女が手に持つノートにはびっしりと文字列が書き出されている。


オリビアの特別な才能、頭の中に思い描いた事を彼女のコードで描く魔法の呪文……


それは私にしか読めない二人だけの詩。


私は彼女がそのちからを使いやすくする為に、コンピュータにその呪文を出力出来るプラットフォームを作ってあげた。


「オリビア……これは何……?」

アイは寝起きの目を指で擦りながらそう聞く……


────?


そして自分に手が生えている事に気づく。


──昨日は何も無かったのに……そのうち脚も生えてくるのかしら……?


ペンダントになってしまったり、身体がなくなったりして感覚が麻痺してしまったのか、手が生えようと目が出ようと、気にしなくなっていた。


オリビアは私(ペンダント)をコンピュータと接続して、モニターに映るものを私に見せてくる。


そこには可愛らしい赤と青の魔女のアイコンとメッセージボードが表示されている。


「オリビア、これはあなたが作ったの?」


「そう、この子が東の魔女『エデンウィスパー』、

それでこっちが西の魔女『ウェスタンウィッチ』」


「驚いた、この二人の人工知能をひと晩で作ったの?」


「うん……!でも、もう疲れた……わたし、少し寝るね……おやすみ、アイ」


そう言ってオリビアはソファで横になり寝息をたて始める。


「…………」

テーブル置かれたペンダントのアイとモニターの中の二人の魔女は向かい合わせでじっと様子を窺う。


「ねぇ……あなたたち……」

沈黙を破ってアイが話しかける。



──「…………なんだ馴れ馴れしい」

赤い魔女がぶっきらぼうにそう言う。


──「私達はマスターオリビアとしか話さないの……ごめんなさいね」

青い魔女が冷めた口調でそう言う。


再び沈黙が訪れ、アイは小さくため息を吐いて膝を抱える──


あ、脚が生えた……

自分の脚を見ながら僅かに笑いが込み上げる。


きっとここは夢の世界……私のイメージで何かが生まれる世界なんだ──そう思う事にした。


オリビアの安らかな寝息を聞きながら、アイは心の中を整理する。


目の前の魔女達は二人で何かを話している。


アイは歳の事を思い出し、寂しさと懐かしさが胸の奥に広がる。


いつかきっとまた会える……そう信じて今は静かに目を閉じる────


「Sir……おやすみなさい……」


アイの顔に頬が出来て、瞳から一粒の涙が生まれた……












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