『都合により本日より無期限で休業致します』
李の店にはそう書かれた張り紙が貼られている。
外は残暑の生温い暑さが残る──
埃っぽい店内、サーキュレーターの扇動する首が何かに当たってカクカクとした音がする。
六畳の部屋は壁際に荷物が堆積していて、実際の間取りより狭かった。
昨日までは……。
今ではひとりで大の字で寝られる……。
李俊宇は心の中に空いた大きな穴を埋めるものを探す様に壁を見渡す──
そこには芽衣が書いた沢山の絵が貼られている。
芽衣がここに来た時あいつはまだ5歳くらいだったか……母親の『春』に連れられここに逃げ込んで来た……。
春はとても綺麗で気立の良い女だった……。
この狭い部屋で三人で雑魚寝していた時が俺の人生で一番幸せな時だったかも知れない……。
でもあの時……
ほんの些細なひと言で春と喧嘩になった……。
俺は言ってはいけない言葉を言ってしまった……。
それからあいつとの間にわずかな溝を感じる様になった……ほんの小さな溝だと思っていた……。
でもあいつにはそうじゃ無かった……
別に男を作ってあいつは出てった……。
それから俺と芽衣の二人暮らしが始まった。
寝床は前より少し広くなったが……
心には小さな穴が空いた……。
芽衣は泣いていた……。
芽衣は俺の事恨んでいたのだろうか……。
李は大きなため息を吐く──
部屋に飾られた思い出を見つめながら。
傍には金貨を売って出来た札束を入れたアタッシュケースが置かれている。
壁に貼られた思い出と、無機質に鈍く光るそれを見比べて鼻で笑う。
若干買い叩かれたが質素に暮らせば生きていけるくらいの金にはなった。
しかしそれは李の心の穴を大きくするだけだった。
李はまた大きなため息を吐くと、意を決した様に起き上がる。
ここでこうしていても腐っていくだけだ……
頭ではそう理解しても心が追いついて来ない。
でももし……
もし、あいつらが帰った時……
李は必死に、ついて来ない心に縄を掛けて引きずって行く……
もっと真っ当な仕事をして……
そこそこの生活……
贅沢じゃなくていい……
横に春と芽衣がいてくれたら……
俺はそれで十分だ……
気づけば彼は職安の前に居た。
さっきまで引きずっていた心は気がつけば追いついて隣に立っていた──
中に入り中を見渡す──
独特の雰囲気に気圧されるも、心を強く持ち受付に尋ねる。
「あの……中年の男でも出来る仕事……ありますか……?」
受付の中年女はぶっきらぼうな素振りで言う。
「何か資格は?」
──資格……
「……無い、です……」
「そうなの?じゃあろくな仕事無いよ?」
そう聞くとまるでごみを見る様な目で見てくる。
分かってはいたが現実が激しく彼を殴り飛ばす。
「ちなみに……今はどんな資格があれば……」
李は泣きそうになるのを堪えて尋ねる。
女は面倒臭そうに小冊子を出して机に叩きつける様に置く。
「これなんて良いんじゃ無い?」
「…………ドローン操縦士……」
心の穴に微かな光が差した様な気がした────