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3章 第6話 大切な記憶の宝箱

──微睡のの中で彼の声がする


──私はここだと言いたいけど私の声は半分も届かない


──あれからどれくらいの月日がたったのだろう?


──夢から覚めるとここはまた夢の世界


──青いガラス張りの世界に新しい朝の優しい光が降り注ぐ


──身体はすっかり元通り、でもこれは私のイメージ


──私の心は今、誰かの夢の中


──身体は青い宝石に金色チェーンのペンダント


──楽しそうに話しかけて来る女の子の名前はオリビア、私の大切な人の……大切な人…………


────コツコツと窓をノックする音

青い宝石のような瞳が私を覗き込む。

「見て、アイ!」

彼女の綺麗な銀色の髪が揺れ、目の前にタブレット型の端末画面が現れる。

「なに?オリビア……?」


「今回の試験、全部満点だったの!」


その画面には彼女がオンライン学習で勝ち取ったテストの成績がグラフ状になって表示されている。

点数を示すグラフが一直線になっている。


「すごい、オリビア……!これは簡単にできる事では無いわ……すごく頑張ったのね」


彼女の脳は特別製だ──


何でも生み出す魔法の言語が溢れ出す特殊な才能。

さらにそれを現実に生み出せる恵まれた環境。


──そしてオリビアの努力家としての資質。


彼女は、私(ペンダント型AI)か彼女の作り出した二人の魔女(対話型AI)と会話する時、もしくは本を読んでいる時以外は世話係アンドロイドと机に向かって勉強に励んでいる。


──でもその世話係が少し問題で……


世話係はオリビアの父から彼女を外に出さないように仰せつかっているらしく、そのせいでオリビアは人と関わる機会がほとんど無い。


そのせいか、彼女は対人恐怖症になり、学校に行けなくなってしまった。


授業は今月からオンラインに切り替えたが、元々勉強好きなオリビアにとっては好都合だと私は思う。


でも、その時に監視するように見守る世話係アンドロイドがオリビアは苦手なようだ。


「オリビアお嬢様……勉強のお時間です」


「分かったわ……オズ……」


世話係の名前は皮肉にもオリビアが嫌っている名前……。


「じゃあアイ、また後でお話ししましょ」


そう言って彼女は私をリビングテーブルの上に置いて、世話係のオズと共に部屋を出てゆく──


部屋を出る際オズは、私をつまらない物を見るような目で見下ろすと静かに扉を閉める。


木製の深みのある赤色のテーブルはよく磨かれており、私の姿を鏡のように写す。


目の前でまたコンピュータの画面の二体の魔女が互いに何かを話している。


話し相手が居るという事を少し羨ましく思う。


私は心の中の大切な箱を取り出す──


私が貰った大切な言葉や記憶を閉まっておく宝箱だ……。


ここには私の大切な人……Sirの温かい言葉や笑顔の記憶、彼の好きなコーヒーのレシピ、そして今は友達のオリビアの記憶が詰まっている。


──?

箱の底に古ぼけた写真の様な記憶が残っている。


これは……誰だろう……艶のある短い黒髪に黒い瞳……爽やかな笑顔──


私は何か大切な事を忘れている気がする────


アイは忘れないように箱の中から彼との思い出を取り出す……今の彼女の記憶容量は小さく物事を多く覚えては置けない。


でもここを開ければまた記憶は蘇る──


彼女が恐れているのは箱の存在を忘れてしまう事……


それだけだった────


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