────某日某所────
「それは間違いないのか?」
「はい、聞いたところ、少なくとも10人……」
「決め手は?」
「それはまだ……」
「こちらもアンから連絡は無い、引き続き頼む」
「了解」────
────ノアカレッジ、某所
空は薄い雲で覆われ、風は肌寒く、もう冬の匂いがする。
駅からの街並みは変わらず、親に連れられた小さな子供が走り回っている。
歳は懐かしむようにカレッジの正門をくぐり、守衛に挨拶をすると、セントラルストリートを真っ直ぐ中央広場に向かってる進む。
指定された場所はアドミニストレート棟、カレッジの管理、運営をする理事役員が務めている場所で、敷地内の小高い丘の上にある。
セントラルストリートから遠くの景色を眺めると脳裏に懐かしい思い出が蘇る。
この店は、初めてオリビアと出会ったカフェテリア。
あの時、僕が新入生挨拶のメモ書きを店に忘れて、慌てて店を出た時に鉢合ったのが彼女だった。それが僕らの出会いのきっかけ。
あそこは、僕が入学式典で挨拶した大広場のステージ。
僕の前に博士のスピーチがあったせいで僕は緊張して何を話したか覚えてない。本当は最前列にいたオリビアが気になって傍目で追っていたせいもあるけど。
そっちの青い屋根は、よく皆で食事した鳩の巣食堂。
オリビアとよく一緒にランチを食べた。
藍君とも一度来た事があったっけ。
あれから何年たったんだろう……
僕の周りにはもう誰もいない……
もし、あの頃に戻れたら、僕は何かを変えられたのだろうか……
そう、哀愁に耽っていると、丘の上に目的の棟が見えて来る。
近づいてよく見ると、棟の壁に並べられたベンチに誰かが座っている。
まだ季節には早いトレンチコートにフードを被っている。
その装いで誰かはすぐにわかる。
「ご無沙汰してます。
アルバート・シュタイン博士」
フードの人は肩で笑った気がした。
「よく、私だと分かったね、日出君」
「それはもう……昼間からそんな怪しい格好してるのはドクターくらいですよ」
そう言って二人で笑う。
「君と会うのもいつぶりだろう、日出君」
「たぶん、直接のお会いするのは、『クロノスコンクラーベ』以来ですかね」
「もうそんなに経つのか……と、言っても私に時間の感覚などないがね」
「ふふ、本当にあなたの話はいつもユーモアがお有りだ、ドクター」
「君にそう言って貰えると光栄だよ、Dr.日出」
「僕なんてまだまだひよっこです」
「何を言うか、君の書いた論文、『記憶と記録の融合』は素晴らしかったよ」
「……恐れ入ります、それで、今日はどんな要件ですか?ドクター」
「これは君に言うべきか悩んだのだが……」
「あなたが悩むなんて余程の事ですね」
「うむ……君はドュアリス・ズーと言う男を知ってると思うが」
「ドュアリス・ズー……AIMEの所長の事でしょうか?」
「そうだ、単刀直入に言おう。彼に近づいてはならない」
「……どう言う事ですか?」
「彼は危険すぎる」
「……話がよく見えませんが」
「……そうだな、順を追って話そうか」
そういうと彼は昔を思い出す様に背中を丸める。
「私はこのカレッジが出来た時からずっとここに居た」
「戦時中、海軍旗艦の艦長補佐だった私は、終戦後、初代元首からこのカレッジの管理を任された」
「当時、出来たばかりのこの大学はとても荒んでいた。当然だ……つい最近まで殺し合っていた国同士の集まり……故に私は、風紀を正す為に四人の生徒を風気委員として選抜した」
「その中のひとりがドュミナス。彼女は特殊な能力を持っていた。彼女は人の心が読めたのだ」
「はは、そんなお伽話の様な話……」
「何を言う、君も知ってるだろう……
オリビアの特殊な才能を……
ドュミナスのフルネームはドュミナス・ズー。
つまり彼女はオリビアの祖母、そして、
──ドュアリスの母親だ」
「──!オリビアの……」
「その才能は遺伝するのか、それは分からない、しかしデュアリスもまた似た才能を持っていた。彼は人の心を聞く事が出来たのだ」
「人の心を聞く……?」
「そして恐ろしい事に彼は、自分に敵意を持つ人間をことごとく始末している」
「そんな、あの温厚な所長がそんな真似……」
「いや……彼ではない……
恐ろしいのはもうひとりの彼……私は奴を潜在意識、IDO《イド》と呼んでいる」
「即ち、ドュアリス、彼は──