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4章 第4話 ペンダントの記憶

長い永い旅は続く──


The long journey goes on—


青い蒼い宝石の船は──


On a ship of sapphire blue—


早い速い流れに乗り──


Riding the swift current—


深い腐海のその先の──


Beyond the depths of the sea—


アイの愛へと彼女を導く────


Guiding her to Ai’s love—


────────


─────



──「オリビア・ズー、君のこの、課題内容は何だ?」


大講堂に教授の嫌味な言葉が響く。



オリビアが萎縮しているとさらに被せる様に罵る。



「お前は自立型人工知能という意味を分かっているのか?」


教授の悪態と、周りの生徒が嘲笑う声が内気な彼女をさらに小さくする。



私は、ペンダントの中で、何も言えないもどかしさに身悶えする。




──その時、ひとりの黒縁眼鏡の男性が、静かに手を挙げる。



私はその彼を知っている……



彼は私の愛する人……



若かり日の日出歳、その人だ。



「教授、あなたは自立型と言う定義を説明していない。

彼女の提出したAIは一見対話型だが、自らの判断で発言して提案している。


これは自室型と言う言葉の定義に沿っているのではないですか?」



彼は、一見頼りない風貌だが、言葉に強い説得力があった。



彼の言葉に教授は黙り、嘲笑していた生徒は目を伏せる。



オリビアはまだ小さくなりながら、胸元に下げられた私(ペンダント)を強く握りしめる。


手の平から、彼女の熱が伝わる。



静かに着席した彼は、こちらにそっと目配せをする。



胸元から彼女の顔を見上げると、その顔は夕焼けの様に、真っ赤になっている。



オリビアは、講義が終わり皆が席を後にする中、意を決した様に立ち上がる。



そして、手元のタブレット端末を触る歳の元に行って、その前に立つ。



「あの……歳さん……さっきは……ありがとう」


搾り出すようにそう言うと、彼は笑いながら、こう答える。


「君の事は教授より、僕が良く理解している。

だから自信を持って、オリビア」



彼女の鼓動は、また、心地良いリズムを刻む──




昼休み、食堂でオリビアが盆を手に立ち往生している。

その日は人が多く、空席が見当たらない。


「ねぇ、アイ……どうしよう……」


「うーん、そうですね……あそこが空いてます」


ひとつだけ空いている席は、大所帯グループの傍。


人が苦手な彼女は、苦い顔をして躊躇っている。



そんな時、歳が隣にやって来て声を掛ける。



「オリビア、どうしたの?」



「歳さん……」


そう、呟いて少し泣きそうな顔のオリビア。


彼は、彼女の盆に自分のサンドウィッチとコーヒーを乗せると、その盆を手に取る。


「外の席、空いてるよ」

そう言って、彼女の手を握り、外のオープンテラス席へ彼女を座らせる。



そして、オリビアの前に座ると、優しく微笑む。


オリビアも安心した様に、ぎこちなく微笑む。



歳は、彼女に取り止めもない話をして、彼女はただそれに相づちをうつ。



彼女は、寮にいる時と違って、歳と居ると無口になる。



しかし彼女の心臓は、口よりも雄弁に、心を語っていた────



入学式展で知り合った二人は、自然といつも一緒にいるようになっていった。



同じサークルに入り、同じ研究室へと足を運ぶ様になった。



そして、二人と共に過ごすキャンパスライフは私に多くのものを学ばせてくれた。



────月日は流れ、オリビアは二年に進学した。



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