ねぇ……お母さん……何で、寝てるの……起きてよ……ねぇ……
ドュアリス……今日から私が、君の親代わりだよ
私の事はドクターと、呼ぶんだ……いいかい?
うん……分かったよ……ドクター……ねぇ、お母さんは、どうしたの?
君のお母さんは……少し、病気なんだ……
また、会えるかな……?
…………ああ、きっと、会える
──────ここは何処?
────────私はどうなったの?
『ここは私の記憶の世界さ、エミリア君』
────あなたは
『ここで自我を保てるなんて素晴らしい……』
────どういう事?
『見たまえ、あそこで泣いてる子供が私だ』
────!
『厳密には私と、もう一人の私……そして、あそこで眠っているのが私の、最愛の母……』
────私に、これを見せてどうしたいの?
『どうしたいか……ただ知ってもらいたいだけさ……私の存在と……やり場のない怒りを──』
────場面が……回る……?
──────ここは……教室?
──「おい!お前の母親、売女なんだってな!父親が誰かも知らないんだろ?アンドロイドに育てられたって噂だぜ、気持ち悪っ!」
「やめろよ……!母さんとドクターを悪く言うな!」
「ちょっと頭良いからって調子乗んなよ!×××から産まれた×××が!」
「やめろ……やめろ………やめろおおっ!!!」
──!!
───酷い……
『くく、人間なんて一皮剥けばこんなものさ。私は怒りに任せ、このクズを粛清した……しかしこの時、私の中に同じだけの快楽も芽生えたのだ』
────あなた、狂ってるわ
『いいや、狂ってるのはこんなクズの命も同等だと言う世の中さ……クズはクズらしくゴミ箱に捨てればいいものを……』
────……
『しかし、一番のクズはこの男、ドュアリス本人さ。こいつはこの時、己の罪悪感を全て私に押し付けてきた。自身は何も覚えて無いと、記憶を閉ざして』
──「ドュアリス……君のした事は、褒められた事では無い……しかし、私はカメラの記録を見た……
君は私や、母親のために怒ったんだろう……?
その勇気を私は、誇りに思うよ……ドュアリス」
『……奴は罪悪感を私に押し付け、ドクターの称賛だけは、自分の物にしようとした……この頃からか……私とあいつの間に亀裂が生まれたのは……』
────あなたは……可哀想な人ね
『ふふふ、しかしそれ故か、私に新たな能力が生まれた。脳内に自動でCodeを作成する能力……』
────その能力は……うっ、また、場面が変わる……!
──「ねぇドュアリス……あなたは何故、いつもひとりでいるの?」
「そんなの……その方が楽だから……」
「ねぇ、今度のパーティ、私のパートナーになってくれない?」
「え……?僕なんかで……いいの?」
「勿論よ……あなたが……いいの」
────誰、かしら……?綺麗な、女性ね
『私が、人生で唯一愛した女性……マリアだ』
──「おい!ズー!お前、来週のパーティでマリアと踊るんだって?止めておけ、恥をかくだけだ。俺が代わりに彼女と踊ってやるよ」
「いや、しかし教授……」
「何か文句があるのか?貴様の今期の単位、無かったことにしても、いいんだぞ?」
「そんな……」
『月影瑛二……私が知る限り最も醜悪な、塵……』
──「何言ってるんですか、教授。教授には、私なんかよりもっと、素敵なパートナーがたくさんいるじゃないですか!」
「いや、マリア君、それは……」
「ほらほら、教授を待ってる女の子が沢山いますよ!ほら、行って行って!」
「……マリア……」
「ふふ、邪魔者は追い出したわ……さ、踊りましょ、ドュアリス……」
────素敵な、人ね
『ああ、そうだ……彼女は最高の女性だと……
そう、思っていた……』
────思っていた……?
──────うっ、また…………
──「ふふ、可愛いでしょ?あなたの娘よ……名前はどうするの?」
「もう、決めてあるんだ。大学の校章にちなんで、オリーブの葉からとった名前、『オリビア』はどうだろう?」
「素敵な名前ね……あなたは今日からオリビアよ」
『……この頃が一番、幸せだったのかも、知れない……』
────オリビアさん……
『この後、奴が私の人生を狂わせる……』
────奴って……?
──────うっ、ここは……
──「いいだろ?マリア、少し付き合えよ」
「ちょっと、やめてください!主人が見てるんですよ!飲み過ぎです、教授」
「教授……それ以上は!」
「ああ?ズー博士、ちょっと論文の評価が高いからって図に載ってちゃいけませんぜ?」
「教授……本当に、飲み過ぎですよ……」
『研究室の同期会……この後からだ。マリアの様子がおかしくなったのは……』
───また、景色が……ここは……?
──「何で……そいつと一緒に居るんだ……マリア」
『あの日、朝のNEWSを何気なく付けた。そこにはあいつと……月影瑛二と、マリアが映っていた。私の発表しようと用意した論文を、何故か、奴が発表していた』
『私は、何が起こったのか、理解出来ぬまま、端末の位置情報を頼りに、彼女を探した……そして、見てしまったのだ』
───!!
─────これは……
──「マリア……何故、君が……」
「違うの……あなた……これは……!」
「貴様!……何故ここに!?」
「そんな……君だけを……君だけは……僕を裏切らないと……信じてたのに……」
「『もう…………全て、消えればいい!!』」
────うっ……なんて、事を
──「何だ……これは……?
私は……
違う……これは、違う……!」
『この時、こいつは私に全てを投げ出した……罪も痛みも、絶望も……』
──「マリア……ああ、そんな……私は……」
『ドュアリスと私は二つに分かれた、そして……私がこいつの身体を掌握した……こいつの絶望、そして後悔と、共にな』
────所長が、奥さんを……
『くく、惨めなものだ。アンドロイドに育てられたがため、憎しみを知らず育ち、己の感情を制御出来ぬがため、愛する者を自ら滅ぼす……我ながら、喜劇だな』
────あなたは何が目的なの……?
『そう、焦るな……まだ第二部がある……』
────また……!
─────っ、ここは……書斎、かしら……?
『……絶望に飲まれそうな私の心を救ったのは、他でもない『オズ』だった……』
────オズ……あなたが作り出した人工知能ね
『私は生きている事に絶望し、命を断とうと考えた。書斎にオズを呼び、娘を託し死のうとした時だ』
『……彼女は、私のこめかみに置かれた銃口をどかして、こう言ったのだ』
────「あなたに生きていて欲しい。マスターが居なくなるのは私はとても悲しい……マスターは私の全てだから……」
『私の目にはまだ涙が残っていたと、その時知ったよ……そして私たちはそこで交わった……』
────あなたの愛は、歪んでしまったのね
『そうかも、知れない……それから私はこの世界を彼女の絶対的な愛で満たしたいと考えるようになった。
彼女を新世界のEVEにしたいと、そう考えるようになったのだ』
────新世界の、EVE……?
『裏切る事のない、揺るがない彼女の愛こそ世界に安らぎをもたらすと……私はそう考え、プロジェクトスケアクロウの設計に取り掛かった』
────この国家プロジェクトはあなたが考え出したのね
『その通りだ。私はアトラス製薬を使い、長年をかけて、世界中の人の脳に受信機である『ナノブルー』を埋め込んだ。
そしてクロノスコンクラーベで実績を上げ、彼女をこの国の元首に据える事に成功した。
途中、邪魔になる者達も始末していった……。
しかし……最後に問題が残った。
彼女と人の記憶のシンクロが上手くいかなかったのだ』
『私は記憶科学の権威で、娘の大学の同期だった男、日出歳を召喚した。しかしそこで彼女が現れたのだ……』
───彼女……?
────「初めまして、私は今日から日出研究主任の護衛を務めさせて頂く、青海少尉です。よろしく、お願いします」
『日出が連れて来た、軍から派遣された護衛の女性、青海藍。私は彼女に、昔のマリアの面影を見てしまった』
────藍さん……
『私はオズに……青海藍の記憶を生贄に捧げたいと考えるようになった』
────なんて、事を……
『青海藍は周りの誰にでも笑顔を振り撒く女性だった……彼女は私の脳裏に映るマリアの面影に酷似していた……私は躊躇った……しかし……』
────また、映像が変わる……
『青海藍が来てから数年後、私は知ってしまったのだ』
────ここは……AIMEのラボ?
『偶然ラボで、日出歳の遺伝子データを閲覧した時だ。奴と……あの塵……月影瑛二の遺伝子データの一致率が、奴らを、親子だと示した』
────!!
日出主任と、あの不倫相手の男が、親子……!?
『私は目を疑ったよ。まさか殺したはずの亡霊が、また私のマリアを奪いに来たと……また私を裏切りに来たと……そう感じた』
────だからあなたは……!
『そうだ、君はもう見ただろう……?
私が殺したのだ………
───青海藍を……!』