丘に冷たい風が吹く。
秋の夕暮れは早い。
世界の記憶を塗り替える。
博士の言葉が脳の奥に響き、
様々な記憶を呼び起こす。
プロジェクトスケアクロウ──
──僕の担いできた片棒。
何処かで分かっていた。
アイとのおかしな共同生活。
彼女の持つ記憶。
きっと偶然では無いそれも、
全てはプロジェクトの一部で、
僕はその歯車。
思わず口元に笑いが漏れる。
横目で博士が心配そうな顔をしているのが分かる。
僕は今、どんな顔でこの景色を見ているのだろう。
ふと、脳裏の片隅にそっと置かれた彼女の横顔に気づく。
記憶から離れつつあった彼女に申し訳なく思う。
「大丈夫かね、日出君?」
博士が心配そうに尋ねる。
「ショックだろう。その心中察するよ」
僕は少し鼻で笑い、ベンチに背を預ける。
「いえ、ドクター。最初から分かってました」
「このプロジェクトの事かい?それとも……」
「いえ……
でも、人の記憶を弄る研究の罪深さは理解していたつもりです」
「何故君は人の記憶にこだわる?」
「何故でしょうね。こんな事を言うのも何ですが、僕は人が好きじゃありません」
「それは意外だな」
僕はまた鼻で笑う。
「僕も彼と同じなんです。
僕も幼少期、AIに育てられました」
「君も……?」
「ええ、僕の親は放任主義でしたから……
でも、ドクターの話を聞いて納得です。
僕も望まれて生まれた訳ではなかった……」
僕は自分に言い聞かせるようにそう言い放つ。
「……生まれた理由は人、それぞれだ……」
彼もまた、何かに言い聞かせるようにそう呟いた。
「ええ、分かってます。僕は自分のして来た事を後悔はしていない」
「ただ……変えられた過去もあったのかと思う時はあります」
「……それは、オリビア君の事かね?」
「……ええ……」
日が暮れかけた二人だけの丘のベンチに、静かな沈黙が流れる──
僕の瞳に映る夕陽が、過去の夕焼け空と、そこに描かれた彼女達の記憶を呼び起こす。
僕はゆっくりと、冷めたコーヒーを口にする。
「日出君……」
博士が静かに僕を呼ぶ。
「何でしょう、ドクター……」
「コンクラーベ初日の夜の事……君にも話そうと思う」