目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

5章 第3話 あの夜の決断(後編)

「コンクラーベの夜……?」



僕は手に持ったコーヒーをベンチに置き、博士を向く。


彼は低く唸り、言い淀むように話し始める。



「君も覚えているだろう。あの日の事を」



「いえ、あなたほど記憶が鮮明では……」



「そうか……初日の予選が終わった夜に私は、オリビアの部屋を訪れた」



「そして、話したのだ。


彼女の父、ドュアリスのした事、これからしようと企む罪を」



僕は、当時の彼女を思い出す。


まだ幼さが残る、彼女の面影を。



そして、あの翌日から様子がおかしくなった彼女に納得した。



「オリビアは父親を尊敬していました……」



僕がそう言うと、博士は肩を竦ませ、静かに首を横に振った。



彼は、事実を告げる残酷さを分かっていながら、それでも伝える必要があったのだろう。



博士は静かにベンチから立ち上がると、僕に背を向けて立つ。


小さい身体の隙間から、太陽の光が漏れる。



「あの時、私が君達をコンクラーベに招待したのには、訳があった」



彼はそう言うと、ゆっくりと振り返る。



「奴の計画を遅らせる為に、オリビアの魔女達の力が必要だったのだ……」



彼は僕にそう、告げた。



コンクラーベ本戦は、オリビアの“二体の魔女“とドュアリスの“オズ“が他を圧倒していた。


結果、その三体の人工知能は、国の元首としての地位を得る事になるが、つまりは“そう言う事“だったのだろう。



「あなたが裏で糸を引いた。


そう言う、事ですね……」



僕が核心を突くと、博士は哀しそうに旧式の口角を少し上げる。


彼のガウンの裾が、風になびく。



「オリビアは元首に魔女達を仕込むため、父の下で研究員となる道を選んだ」



その言葉に胸の辺りが強く、痛む。



「だから彼女はあの時、僕にペンダントを渡して、

大学を去ったのですね……」




「君達の青春を傷つけた事は心から謝るよ……私の、人工的な心で恐縮だがね」



そう言って、博士が申し訳なさそうに左手を胸に当てると、旧式の関節がブリキの人形のように、軋む音を立てる……



「博士……あなた程の人が良かれと思ってした事を、僕が咎める権利はありません……しかし……」




「……何故今、僕にこの話を……?」




率直な疑問を、投げかける。




「もう、時間が無いからだ」




博士は、強い口調で言う。




「マスターオズの元首としての任期は、八年。

間も無くそれが、


────終わる」




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?