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5章 第6話 新しい友達(前編)

ウィッチと芽衣は船着場の突端、柵で覆われた金属の床に立つ。


目の前には真紅に塗装された『グリンダ』のセイルが鈍い光を放つ。


突端に置かれたタッチパネルの“go aboard“をタップすると、金属の床が迫り出し、グリンダの上で停止する。


芽衣は、わくわくした様子でグリンダの上に飛び移る。


すると、後からウィッチの叱責が飛んで来た。


芽衣は肩を竦め、苦笑いする。


ふたりが艇上に降り立つと、センサーが感知したように床は、元の位置に戻って行く。


「ここを登れ」


ウィッチが芽衣にセイルに登るように、親指を上に向ける。



言われるまま、芽衣が懸命にタラップを登ると、そこには人ひとりが座れるコックピットが据えられていた。


「今度からそこがお前の居場所だ」



芽衣はウィッチの言葉に胸の高鳴りを覚えながら、恐る恐る冷たいエナメル質の座席に腰を落とした。


背もたれは硬く、少し油と薬品の匂いがする。


ウィッチはセイルの下から、手元の赤いレバーを引くように言った。


芽衣は躊躇いがちにその重いレバーを、手前に引く。


金属が擦れる高い音が一瞬響き、次いで鈍い滑るような音に変わる。


コクピット全体がゆっくりと沈み、頭上の光が切り取られていく。


数秒間、流れる金属の通路を抜けると、視界が開けた。


そこには、先ほどのシミュレータとよく似た機器が並んでいる。


そしてHUDが掛けられていた場所を見て、芽衣は目を見開く。


そこにはホルダーに鎮座する、ロボットの犬。


「ウィッチ、これは……犬?」


「そいつはHUD型AIロボット、お前の新しい相棒、TOTOだ」


目の前の小型犬ロボットが、ウィッチの声で話す。


「TOTO、挨拶しろ」


ウィッチの声がそう言うと、小型ロボット犬の目が青く光り、ホルダーから飛び降りる。


「BAW!初めまして!」


ロボット犬は甲高い声で、人間の言葉を話す。


「オイラは“Tactical Operator and Training Observer “、通称TOTO、トトって呼んでくれ。よろしくな」


尻尾を振りながらそう言う小さな友達に、芽衣の瞳は大きく見開く。


「うん!よろしくね、トト!」


にこにこしながら、そう挨拶する。



「芽衣、そいつがこれから我の代わりにお前の訓練教官だ。グリンダ内ではそいつの指示に従え」



「了解だよ。ウィッチ、ありがとう」



「勘違いするな、そいつはおもちゃじゃ無い。おい、TOTO」


「BAW!」


そう吠えると、TOTOは犬耳のHUDへと、変形した。


「そいつがお前の、聴力を増幅する装置になる。同時に、聴覚保護と地上との通信機にもな」


芽衣はまた、目を輝かせながらゆっくりとTOTOを手に取ると、それを頭に乗せた。



目の前のスクリーンの端に、小さな友達のアバターが尻尾を振っている。


「じゃあ、オイラがグリンダの説明をするけど、準備はいいか?」


アバターがくるりと周りながら、そう吠える。


「それでは我は管制室に戻る。何かあればそこに送れ。我からの通信は以上だ。後は、任せた」


そう言い残して、ウィッチからの通信は切れた。


芽衣は心細さを感じたが、目の前でくるくる回る新しい友達を見て、少し心が明るくなる。


「ねぇ、トト。わたしはこれから何をしたらいいの?」


「君の最初の任務は、パッシブソナーに慣れる事だ。アクティブソナーは相手に見つかるリスクが高いからな、BAW!」


「うん、分かったよ、トト。それじゃあまず、この子の説明、お願いね」



「BAW!」


トトがそう吠えると、スクリーンにグリンダの艦内図が展開される。




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