エデンウィスパーに蹴り飛ばされ天を仰ぐ、のっぽのアンドロイド、ソドム。
そこにずんぐり体型のもう一体、ゴモラが近づき、しゃがみこむ。
「派手にやられたな」
相方にそう言われたソドムは、両脚を曲げると、勢いよく跳ね起きる。
「問題無い」
「だがお前、顔が半分潰れてるぞ」
そう言われ、潰された自分の顔を軽く撫でた後、ソドムは腰からナイフを二本取り出す。
「ゴモラ、あの女の膂力は尋常ではない。いつも通り、二人でやるぞ」
丸い顔をニヤリと歪ませながら「おう!」と答えた。
その様子を見守るエデン。
「あら、意外と丈夫ね。量産機のくせに」
彼女は蹴り上げた脚をゆっくり降ろすと、僕に背を向けてそう言った。
目の前に立つこの青髪のアンドロイドは、オリビアの魔女と名乗った。
僕は出血する首を手で抑えながら、銃のバレルを杖のように持ち、ふらつく身体を支える。
「君は……オリビアは生きているのかい?」
僕の質問に、彼女は静かに首を振った。
そして振り返ると人差し指を立てて、
「その話はここを生き延びたらするわ」
そう付け加えた。
そのイエスともノーとも取れる反応に少しの苛立ちを感じながら、今出来る事を考える。
前方20メートルで、前後に並び立つ刺客。
背の高い方は両手に逆手に持ったサバイバルナイフ。
低い方は金属ナックルのような手袋をはめ、両拳を打ち鳴らす。
こちらは満身創痍で戦闘経験など無い僕と、青髪の魔女ひとり。
確か彼女とは、クロノスコンクラーベで一緒だった。
AIとしては、群を抜く成績を収めたと記憶している。
「僕は見ての通りだ。君に任せていいかい?」
情け無く膝が震える。
血を流し過ぎたらしい。
「あなたに死なれると困るわね」
彼女はそう言って、首を抑える僕の手を退けると、傷口に何かを貼り付けた。
「サージカルテープ。アドレナリンが染み込ませてあるわ。応急的止血よ」
そう言って敵に向き直り、構える。
「大丈夫。あなたは私が守るわ」
そのセリフに脳裏のアイが重なる。
そう思った瞬間──、敵がこちらに駆け出す。
姿勢を低く、腕を背面に隠してソドムが迫る!
「しいっ!」
しなる両腕のナイフが両脇からエデンに襲いかかる。
鈍い音!
ナイフを持つ手を手甲で受ける。
その時──!
ソドムの股下よりゴモラが現れ、強力な拳をエデンの溝落ちにめり込ませる。
「かはっ!!」
エデンは堪らず後退して腹を抑える。
口からは大量の血が滴る。
「人工臓器がいくつかイッたか?」
ゴモラが不敵に笑った。
この二体は連携する事で真価を発揮するようプログラムされていた。
エデンの戦闘能力は個々では遥かに上回るが二体の連携の前に防戦を余儀なくされる。
肢体が徐々に刻まれ、打撲跡が増える。
最初の一撃が効いたのか、エデンの足元がふらついた。
奴らはその隙を見逃さない。
ゴモラがエデンの両手首を捕まえる。
刹那、上空から迫る細長い影。
「終いだ」
彼女の首に白刃が突き立てられる、その時──!
ドゴッ!と砕けるような音が鳴る。
ソドムの頭が後ろにのけ反る。
そこにはバレルを両手に銃を振り抜いた歳の姿。
「ナイスよ、脳科学者さん」
エデンの蹴り上げた足がゴモラの顎を捉えた。
そのまま地を蹴り、宙に浮くソドムの頭を地面に叩きつける!
地面は赤く染まった。
「くそっくそっ!俺の相方をよくも」
そう息巻いて、起き上がるゴモラが掴みかかる。
エデンはそれを受け、互いに手四つに握り合う。
「その細腕、捻り潰す!」
ゴモラがそう叫び、彼の筋肉が大きく隆起した──!
……なに?
そうこぼし、狼狽えた表情を見せる。
組んだ彼女の腕は、ぴくりともしない。
「ふふ、残念……私も、パワー型なの」
エデンは笑いながらそう告げた。
彼女のドレスの腕が──はち切れる!
耳を覆いたくなる音が響き、
ゴモラの腕と背骨は無惨にへし折られる。
ゴモラの目は色を失い、機能が停止した事を知らせる。
「はあはあ、はあ」
僕は何が起こったのか把握出来ないまま立ち尽くしていた。
両手には藍の銃が握られている。
「ふふ、ありがとう。助かったわ」
オリビアの魔女がそう告げてきた。
両手に痛みと痺れが残っている。
僕はその場にへたり込む。
気持ち悪い。
本当に血を流し過ぎたみたいだ。
僕の意識は遠く、彼方に遠のいて行った。