小柄な体を
「眠かったら、寝てていいよ」
「ぃぇ…だいじょぶ、です…」
今にも消え入りそうな返事。僕は、
しばらく前、何本目かの鉛筆の
集中の切れ目はいつも唐突で、それまで何か
実際、立っていたらまずしゃがみ込む。
スケッチブックは
ぎくりとして、近くに置いていたはずの携帯端末を探し、時間を確認すると――三時間近くが
「ごめんっ、大丈夫?!」
スケッチブックも端末も放り出し、両手足を
何か言ったような気がして耳を寄せると、「だいじょうぶです」と、かすれた声でかすかに
ああ、と思った。
この子の「大丈夫」は、信用したら
きっと、どれだけ「大丈夫」なんかじゃなくても、心配されれば「大丈夫」だと、問題ないと言ってしまうのだろう。
「ごめん。…ごめん。触れるね。体重、
まず、正面から
そのまま、
緩衝材に
「
知らせるために性具の回りの肌に少し
「…め、よごれちゃう…」
「いいから。…君、声、どうしたの」
ただ
集中して気付かなかっただけで、よほど大きな声でも出していたのかと思ったけど、顔を見て一瞬言葉を見失った。
唇の端に、赤があった。
「まさか、声、殺してたの? ずっと? 三時間近くも?!
「だいじょぶ、です」
どこまで。驚きを上回って、痛々しさが残る。
意識せず強く触れてしまったようで、びくりと肩が揺れた。
「全然大丈夫じゃない。
「ごめ…なさ…」
「…怒ってるわけじゃないよ」
こんなに
そして、そんな酷いことをしたのは、僕だ。
これまで何度もやってきて、良いことだとは思わないけどさして罪悪感も後悔もなかった。
それは、今までの人たちがここまで身を
大抵は、疲れたところで不満や休憩の申し入れをしてくる。集中している間は声も
「あのね。僕は、君を
決して大柄ではない僕よりも更に一回り程も小さそうな体は、支えていないとそのまま倒れそうになる。
寝かせてあげた方がいいだろうかとも思うけど、そうすると抱き上げるのが大変になりそうだ。まさか、ここでこのまま眠らせるわけにもいかない。
顔を伏せてしまって、言ったことをどう
「ごめん、後の方がいいね。明日、もう少しちゃんと話そう。外すから、…体勢、変えるね」
「ぁっ」と、湿った声が漏れた。
ぎくりと、動きが止まる。色々とまずい。
なんだって、反応するんだ。いくら、身動きが取れなくてナカで何度かイったとしても射精できずに敏感なままだからといって、僕まで影響される必要はないはずなのに。
そもそも、スケッチと仕上げるための絵の下描きを繰り返しているときは、描くことでいっぱいで他のことが入る余地なんてなかったのに。
彼らに誘われても平然と断ってしまって、恨み言を別れのあいさつにされたことだって数知れないのに。
「…あの」
「気にしないで今すぐ忘れてすぐに手を解放するからお風呂行って軽くいろいろ流そうか」
「…シますか…?」
すり、と、かすかに身を
…簡単に理性を手放すとか大人として断じてやっちゃいけないことだった。
そんな当たり前のことに気付くころには、元気になってしまった下半身はいくらか放出したことで収まり、さすがにもう鎮まれと言い聞かせることには成功した。
それまでの間が、色々と
更に最悪なことに、そんなことを
名乗られたことは覚えているのに、いつものように聞き流して忘れてしまった。
「…お風呂、入れる…?」
「はいる…」
耳を
まさかここでやらかすとは思っていなかったから、ゴムなんて当然用意してなかった。
…できることなら、時間を戻してやり直したい。
僕自身のだるさは無視して、慎重に少年を持ち上げる。
見かけに
いつもなら僕は入ることのない風呂場に移動して、とりあえず浴室に湯を落とし始める。
脱がせた衣装を適当に放り出そうとしたら、精一杯気力を振り
それよりも気にすべきことがあるだろうに。
少し迷って、僕も、既に脱いでいた下半身に
そうやって目を離した
どうにかこうにか色々と洗い流し、浅く
それでも、この子の比ではないと思うと罪悪感が湧いて出る。
「…そろそろ、上がろうか」
とうとう返事もなくなって、穏やかな寝息が聞こえた。
残念なようなほっとしたような、よくわからない感情を
その後も、体を
右翼の寝室に二人で体を横たえたときには、まだ眠るには早い時間だとは思いもつかなかった。眠る前に、と、端末を手にしてまだ
『今日からお願いしてる子の名前、教えて』
『本人に訊け。個人情報』
メッセージアプリで
『本名じゃない』
『チカ』『名乗らなかったのか?』『そのへんちゃんとしてそうに見えたけど』
『名乗ってくれた。覚えてなくて、もう一度
少し間があいて、
ちょっと気になって詳細を見たら、「慣用句シリーズ2」となっていて、これだけ有名な慣用句で2って、一体1は何が収められているんだと気になってしまう。
脱線するよりは早く、返事が来た。
『めずらしい』
ぱたりと、端末を手放した。しばらくすると、画面のライトも消えた。
珍しい。本当に。
「…チカ。チカ君」
隣のぬくもりに小さく呼びかけても返事はなく、ただ規則正しい寝息が聞こえた。
なんだか少しだけ寒いような気がして、そっと熱を抱きしめて僕も目をつぶった。