やけにすっきりと目が覚めて、だけど体は疲れが回復しきってないのがわかる。多少の差はあっても慣れた感覚と寝心地のいいベッドと布団に、昨日は泊まりの客だったかなあ、リッチだなあ、と思って。
――違う。
気付いたのと同時に昨日やらかしたあれこれが一気に思い出されて、血の気が引く感覚と
着たおぼえのないパジャマ、しかもやたらと着心地がいいやつに、体にだってべとついた感じはない。風呂場まで運んでもらったのは、どうにか覚えてる。やさしく触れてくれる手やあったかいお湯が気持ちよかったのも。
だけど、ベッドには俺一人きりで。どうにか体を起こしてまわりを見ても、ただ寝るためだけにあるっぽい部屋の中にも誰もいない。
――今はどうなってるんだ。
ぱたりとベッドに沈み込んで、はっと気づいて体を起こす。うめき声が漏れた。今までで二番目か三番目くらいに、下半身が重い。
「チカ君?! どうしたの、痛い?」
いつの間にか開いた扉から、昨日見たときは細いと思った目が真ん丸に見開かれている。
そうして、駆け寄って来たかと思うとためらいなくのぞき込んでくる。
昨日の、強く求める眼差しを思い出してしまって、思わず目をそらした。
「…チカ君。怒ってる…?」
びっくりして、目線を戻す。
やはり細目に戻った眼はやけに真剣にこちらを
「おこって、なんか」
「あっごめん、飲み物持ってくる」
我ながらかすれた声だったけど、焦ったようにひるがえされた背に、そんなに慌てなくてもと言いたくなる。
――ええと?
とりあえず、やらかしたあれこれで悪印象は持たれていない、だろう。多分。
それなら、このまま仕事は継続できるということだろうか。一日目で追い返されるなんてことにならないならありがたい。そんなことになったら、色々と気をつかってくれた店長に申し訳なさすぎる。
しばらくして現れた「お客さん」は、右手に透明な水筒を、左手には子どもぐらいの大きさのパンダのぬいぐるみを抱えていた。パンダ?
「体起こせる? はいこれ、もたれて」
体を起こしたところで、背にすかさずふかふかとしたものが差し込まれた。きっと、さっきのパンダ。
なるほどこのためだったのか、と納得はしたけど、普通はクッションじゃあ? とも思う。
抱きかかえられるような形になってもたれやすくていいけど、これ、大分ファンシーな状態になってる気が。
あと、昨日風呂の中でこんな風に支えられてお湯につからせてもらっていた記憶がよみがえって、顔が熱くなる。
そんなだから、差し出された水筒のコップを即座につかみ取り、一気に飲み干した。さわやかに甘い。
空のコップに新しくそそがれ、今度もすぐに飲み干しかけて、最後の少しだけをゆっくりと下の上で転がす。
多分、はちみつとキンカン。それも、のどが乾いた時にがぶがぶ飲めるくらいに薄めに。
「…ありがとうございます」
「声、やっぱりまだかすれてるね。無理にしゃべらなくていいよ。うなずくとかでいいからね」
「だいじょう」
「君の大丈夫は信用ならない」
――えええ…。
大真面目に断言され、今度は俺の方が目を見開く。
ひどい、と怒るべきなのか、そうだろうなあ、と俺に対する理解の速さと正しさに感心するべきなのか。
何にしても、変な雇い主だ。
いや、そんなこと、今更か。どこに、四週間も
優しそうなだけ、ありがたがるべきなのかもしれない。実際にやることは優しくないにしても。