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8.非道な統制、警戒する王制

夜も更け、ギルド本部に集まっていた冒険者たちも各々旅立ち、落ち着きを取り戻していた。1階のテーブルに集まり、酒を飲みながら状況の確認をする。


「ゼン・セクズ……昼間のあれはなんだ?どの口が言っている?」

「それっぽいこと言って、タグちらつかせて、俺の名前だして、俺の存在を示したうえで鼓舞させるにゃちょうどよかっただろ?冒険者なんか強者を引き合いにだしゃちょろいのばっかだしな。」

「どさくさに紛れて自分を讃えろなどと……」

「かっこよかったヨ、ゼン~!」


ベタベタとゼンに張り付くファインに対しても苦言するアダルヘルム。


「ファイン殿……元魔王であることは私も理解してるが、自分の仲間をわざわざ蘇らした意図はなんですか?すべてゼン・セクズの為だとでも?」

「うん、そうだよ?ボクはそのために今まで眠っていただけだし、ゼンのため以外は動くつもりは無いし、ボクの仲間もボクも壊そうとしてくれるんだから最高デショ?」

「…………。」

「正しき道を志していた人間には理解し難いのでしょうね。」


空いたグラスに酒を注ぎながらクロエも笑っている。アダルヘルムは、あらためて自分が相手にしている存在が、この世界にあってはならない異質なモノなのだと認識する。協力するそぶりを見せたかと思えば、正反対の行動をして場を混乱させたり。一度は共に冒険者として旅をしていた仲間ではあるが、最後の時に見せた力と言葉と行動こそが、本性であり、本能であったのだと。


「はぁ……わかった。私もあなたたちの茶番に本気で付き合うしかないんだろう?結果がわかっていようとも。」

「さすがアダルヘルム様だ、理解が早くて助かるなあ?そうだ、黒ブタ貸してやってもいいぞ?」

「結構だっ!」

「ハハハハハハ!!」


赤面し、グラスをテーブルに叩きつけるように置くアダルヘルム。すぐに表情を戻し、ゼンが不在中にあった一つの出来事について話を始めた。


「フォンゼルが来た。」


「で?」と酒を口に含み無表情で返事をするゼン。咳払いをしてアダルヘルムは話を続ける。


「一応ギルド自体は国の管理下にあるからな、営業許可証のようなもんだが契約書を持ってきた。読んで見てくれ。」


国の印が押された良質な紙で作られた契約書をテーブルに広げ、記載された内容に目を通す。


「ギルドの……うんえ……あたり……きんか……100?ボク全部読めない……」

「はっ!吹っ掛けてきやがったな駄王め。で、なんか裏があるんだろこの条件には。」

「今までの貯えで半年分は支払い済みだが、以降は私だけではどうにもできないだろうな。あなたの言う通り、わざと法外な上納金を提示してきたのは、王国側の騎士団の存在が大きいだろう……」

「お堅い軍みたいな奴らに相当な信頼を置いている?冒険者のなりそこないで正義を振りかざすのが好きな奴らの何をそこまで期待してんだ?」


ギルドを縮小させた原因は王にあり、騎士団が闊歩する時代を作ったのも王である。だが、今の勢いのままいけば、緊急の対応に優れて、多少割安で討伐依頼を請け負ってくれるギルドの冒険者の存在価値の方が高くなる。ただ単に収入の見込みがあがるからという理由だけで済む金額ではない。


「多少は各地を見て回ってきたんだろう?噂のひとつも耳に入らなかったか?」

「誰か覚えのあるやついるか?」


20日間の短い旅であったが、誰もアダルヘルムの言う噂を認知していなかった。


「まぁあなたたちはそうだろうな。ゼン・セクズ、君がここへ戻る3年前、王国は『勇者』と呼ばれる者を迎え入れた。」

「へえ?」


ニヤリと笑うゼンはすぐに察する。動きの止まった世界、『同志』として送り出した人間はなにもせず沈黙し、世界を見ていた神は恐らく――。





王都ケーニヒ、謁見の間。


豪奢な鎧を身に着けた兵を両脇に置き、過剰な背もたれを持つ王座に深く腰を下ろし眼下で首を垂れる人物を見つめる国王ローデリック・ロフ・ウベル=ケーニヒ。


「面を上げてよいぞ。」

「はっ…!」


顔を上げ、スッと立ち上がった青年は、この世界では珍しい黒髪と焦げ茶の瞳をしている。国王は満足そうに彼を見つめ、王命を下す。


「我が国の誇り、勇者ソウゴ・シヅキよ。世界は今再び混とんに落ちていこうとしている。そなたの力を持って、世界を平和へと導くのだ。」

「仰せのままに!!」


力強い声で王へ返答し、敬礼をして謁見の間を後にする。

扉の外で待っていたのはフォンゼル。彼に気付いたソウゴは笑顔になり、嬉しそうに笑って声をかけた。


「フォンゼル様!お戻りになっていたんですね!」

「ただいまソウゴ。王命を受けたのですね?」


紫月蒼梧しづきそうごは。ゼンと現クロエをこの世界に送り出した神によって拾われた魂、異世界への転生者として王国に拾われた21歳の青年。身体能力も、魔法の実力も、王国の騎士団の誰よりも秀でており、ゼン同様に短い期間でその実力を認られ、副騎士団長として働き、尽力している。


「うん。各地に現れた巨大な魔物を討伐に行くよ。しばらくここに戻れない。あ、あと騎士団から数名引き抜いて同行してもらうつもりだけど、大丈夫かな。」

「騎士団長からは許可を得てますので、問題ありませんよ……ソウゴ……その……」

「フォンゼル様?顔色が悪いけど、どうしたの?」


ギルドの事を口にしなかったソウゴを見て、フォンゼルは王がゼンの存在を伝えていないことを察した。だからこそ、助言をせずにいられなかった。


「まずはどこへ行くつもりなのかと……心配になりまして……」

「ふふ、フォンゼル様が心配するなんて珍しい。そうだな……どこから回っても距離的にはあまり変わらないけど、東の土地、荒野に出現した魔物の勢いが圧倒的に強いみたいだからそこからかな……?」

「東……そうですか、なら大丈夫そうですね。」

「大丈夫って……一番危険なところに行くのにそういうこと言うの?」


怒って抗議するソウゴの頭を撫でるフォンゼル。右も左もわからず困っていたソウゴを招き入れ、この世界を教え、生活を共にしてきたがゆえに、彼にとってソウゴは弟のそうな存在。

死地へ赴くとなれば心配するのはもちろんではあるが、別の心配の方が大きかったため、妙な伝え方をしてしまった。


「準備があるから、もう行くよ?フォンゼル様も仕事サボらないようにね?」

「いつ俺がサボったって?」

「口調かわってる!怒った?」


無邪気に笑うソウゴを人目をはばからず抱き寄せるフォンゼル。


「いいですかソウゴ。ギルドの冒険者たちも我々と同様に行動を始めています。目的は同じで、中には協力してくれる者もいるでしょう。ですが、信じてはいけません。強い力を持つ者もいるでしょう。ですが、絶対に信じて近づくことの無いように……無事に帰ってくるんだ。」

「……わかった、いってきます。」


手を振り、駆け出していくソウゴの背中を見送り、フォンゼルは謁見の間へ。


「ただいま戻りました。」

「フォンゼル、待っておったぞ。礼はよい、報告をせよ。ギルドと……『白金のゼン』動きを。」


ソウゴの謁見中まで傍に置いていた兵士はすでにおらず、謁見の間にはフォンゼルと王のふたり。


「(王はなにかを知っている……?あえてソウゴにゼン・セクズの存在を知らせなかったのには理由があるのか?兵を下がらせた理由は……?いけないな、これでは奴の発言に踊らされているようではないか……)」


王の目をみるフォンゼル。そして感じ取った……王の瞳から恐怖の感情を。

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