7つ集めると願いが叶う、願いの宝珠。私は、その最後の一つをようやく手に入れようとしている。
長かった。ここまで本当に長かった。命の危険に晒されたことも一度や二度ではない。
でも、その長かった旅路も、ようやく終わる。終えることができるのだ。
私は力強く宝珠を握りしめた。すると、残りの6つと共に宝珠が共鳴し、輝き出す。
辺りが光で満ち始め、突如大空から神の龍が現れた。
「宝珠集めし人の子よ…。汝の願い、叶えてつかわす」神々しく、神の龍が告げる。
私は、頭の中で何度も思っていた願いを、今ここではっきりと口にした。
「神の龍よ…。頼む。世界を、私が宝珠を集める前の時点に戻しておくれ」
誤算だった。まさか、宝珠を集めようと決めてから、ここまで、70年も費やすとは思わなかった。
親もいなくなった。宝珠集めが大変で、家族の葬式には参加できなかった。一緒に集めていた仲間も、皆いなくなった。随分前に愛想つかして出ていった元妻も、今はもう天の上だろう。
独りぼっちになった自分にとって、欲しい “もの” など、何一つなかった。
ただ、大切な時を失ったこの後悔を、解消させてほしかった。
神の龍の了承の咆哮が聞こえる。その刹那、世界が急に溶け出した。溶けるに伴い、私の意識もほどけていく。
なるほど、きっと目が覚めたら私は宝珠を探す前の自分になっているはずだ。
これで、ようやく一区切りだ。私はゆっくりと瞳を閉じた。
世界を戻す、ということは、当然、世界中の人類のあらゆる記憶もその時の状態に戻る。
記憶を引き継がせて欲しいなんて言われていないので、神の龍も当然、完全にその時の状態に世界を戻す。
あの人間があの願いを伝えに来たのは、これでピッタリ2000万回目に当たる。そろそろ伝えてあげようかなと思ったのだが、いつも毎回、忘れてしまう。せっかくの記念日だから、ちょっと違う助言でもしてあげようかと思ったのだが、見事に忘れた。てへっ。
3000万回目がもしもあるのならば、その時教えてあげようと思う。
【冒険野郎】