このバーで飲むとき、締めの一杯はいつも決まっている。
「マスター、マルガリータをひとつ」
「かしこまりました」
定番の注文だが、マスターは何も言わない。黙々と仕事をこなす、ここのマスターが、私は好きだ。
テキーラ、トリプルセック(リキュール)、ライムジュースと塩少々を取り出すマスター。
手際良くそれらをシェイカーに混ぜていく。
そして、シェイカーを手に取り――シェイク。
シェイク。
シェイク。
シェイク。
キィエエェェッという、マスターの甲高いシャウト。
全力でシェイカーを窓ガラスに向かって投げつけるマスター。
ド派手に吹き飛ぶ窓ガラス。
私は手に持っていたスピードガンの数値をチェックする。152km/h。さすがはマスター。かなりのご高齢のはずだが、まったく肩が衰えていない。日々の鍛錬の賜物なのだろう。
私はお会計をし、飛び散ったガラスを避けつつ家路に着く。
今日も今日とて、良いものを見ることができた。明日も頑張ろう。
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