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第11話 大人たちの本音

「散々、陛下たちにボヤかれましたね、父上」

「まあ、それくらい言われるの覚悟だったからね〜」


  専門機関のメンバーは客室に泊めた。それでも上階が静まらないのは、異世界転移者に沸いているのだろう。

  イザークは家族の話をしたあと、どっと眠そうになったので浄化魔法を掛けてフェアリーキャットのシトラと寝かせた後だ。


  オットーメルナスとハイドロイドは、明かりが細い応接間でワインを片手にしている。使用人ももう下げた。


「異世界転移者は一代限りで、自動翻訳が得られる伯爵位で独立することが恒例。家族に迎えて我が家が繁栄すれば、今後さらにやっかみも起きます」

「分かってるよ〜でもあのイザークくんの話を聞いて、使用人がいたとしても一人で屋敷に放り込みたくないよね。だから転移者に払われる年間費用も含めて、我が家に利鞘が入らないようにするよ〜」


「しかし、今、あちらはああした子育て環境が当たり前なのでしょうか……」

「特殊だと思いたいね〜、あまりにも救われない。子供というのはもっと伸びやかに慈愛を持って育てられるべきはずだ……小さくなくても何歳でも子供は可愛いもの、ましてあの歳であれもこれも……辛いという自覚さえないのが痛々しい」


  一口含んだ赤ワインが、心無しか苦い。

  オットーメルナスも目を眇めた。


「最初は使用人の宿舎に駆けつけた男に呼ばれて、ベイツに知らせがきたので非番の私が行きましたが、恐らく下級貴族の人間の子供だと思っていましたが」

「イザークくんがまた、日本人特有の姿じゃなかったからね〜。魔力の高さは髪色を淡くする、あの金髪は普通公爵レベルだけど、言葉が話せないなら伯爵位以下だと思われる」


「だが到着した私の前で、彼は水が飲めなかった。どうみても弾かれていました。魔素が大してない水を飲めない民はフエギスにもいません。あれで異世界転移者だと分かりました。それと服装と、フェアリーキャットですね。高位の魔力を持たない者には懐かない生き物ですから」

「ハイドが保護してくれて良かったよ〜。出向いたのがバルフじゃなくて助かった……」


  次男の名前を出してあからさまにほっとする、オットーメルナス。

  ハイドロイドは、きちんと教育せんかという目でオットーメルナスを睨んだ。


「バルフカークでもチューニビックでもトラブル不可避ですよ、末のシエルブルームのがまだマシです。しかし家族全員をいきなりイザークに会わせるのは危険です。我が家の養子を拒否されますよ」

「陛下が明日には議決してくれるから、明後日には我が子だも〜ん」

「その『だもん』も控えて下さい!公爵家当主でしょう。とにかく一人一人に慣らして、イザークを怯えさせないように。エランソニアもですよ!」

「う〜ん、うちの娘ながら否定できない〜」


  ハイドロイドはワインを飲み干し、グラスを変えずにそこにウイスキーを流し込んだ。

  甘党であるハイドロイドは、酒は嗜み程度で食事以外ではあまり飲まない。彼なりにイザークの家庭環境を聞いて荒れているのだ。


「シエルブルームはいつでも大丈夫として、まだ研究室で閉じこもっているバルフカークは知らないまま少しやり過ごしましょう。初手がエランソニアは危険です、とりあえずチューニビックに慣れて貰いましょう」

「家族はそれでいいとして〜侍従はどうする?しばらくは家から出れないから護衛騎士はあとにしても」


「使用人に告知はしましたが……難しいです」


  オットーメルナスが目を見開いた。異世界転移者はフエギスで使徒と呼ばれて敬愛される。魔族領に出現したのは初めてで、使徒という敬称は定着していないが異世界転移者は文化や技術を導く導師である事は、世界の知るところだ。


「アベルが名乗り出てくれましたが、後は……皆、イザークと親しくなるのを恐れているようです。人間は……寿命が短いですから。私たちの600年感覚でいると、あまりに短い。ベイツのように勤続200年以上のものも少なくない。そんなベイツも名乗りでましたが彼はうちの執事です。そんなことはさせられません……手が空いたときに相手してくれるように頼みましたが。しばらくはアベルに、侍従兼従僕と家庭教師を任せることになります」

「給料大幅アップしないとね〜。キッチンでしばらく付き合うダリルも、もしかして嫌かな〜」

「彼は……」


  ハイドロイドが飲む手を一瞬止めて、苦笑した。


「ご存知の通り、変わり者ですから。『使徒様よりも坊っちゃんのほうが気楽でいいですね』と。アベルとも同期で仲が良いですし、大丈夫でしょう」

「じゃああとは、僕とハイドで補佐!」

「父上には王宮の仕事があるでしょう」

「ハイドも指名仕事きてたくせに〜」


  夜もふける中、公爵家当主とその跡継ぎは酒を継ぎあいながら遅くまで話し込んでいた。

  慣れない深酒に、頭を抱えることになるのはまだ誰も知らない。

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