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第四十六話 side:H 痴態とスキップと

お互いの気持ちを確かめ合って、ゆうくんと一緒にマンションへと帰って来れた・・・それだけでも十分に満足していた。幸せを噛み締めて、ゆうくんを抱き締めて、キスをする。

今までこんな気持ちを知らずに、僕は生きてきた。感じたことのない高揚感と多幸感にクラクラとするぐらいだ。抱きたい気持ちはあったけれど、僕がつけた痕は痛々しいほどに残っているし、今日は早く寝せないとなーーなんて思っていた時間が僕にもありました。


「つぐに、ぃ・・・もう、・・・っふあっ、あ、あ、っ・・・」


シーツの上で、ゆうくんが身を捩る。僕の指を受け入れるゆうくんからは、昨日は一つも聞けなかった甘い声が次々と漏れていた。

まあ、乗るよね。抱きたいし。心配ではあったけど、もう、誘惑に負けてお風呂でもイチャイチャして、今はこれだ。

ゆうくんの中をかき混ぜるようにしながら、たまに弱い部分を引っ掻くと、ゆうくんの腰がびくりと震えて、中の肉が僕の指を締め付けた。


「ゆうくんの中、とろとろだね」


既に何度かゆうくんは後ろで達していた。はあはあ、と呼吸を荒くし、瞳には愉悦の涙が滲んでいる。中の肉も解れており、身体はとっくに出来上がっていて、いつ挿れても問題なさそうだった。それでも可愛い声が聞きたくて、僕は丁寧に執拗に続けていた。


「も、だめ・・・そ、れ・・・やめてぇ・・・あ、ひっ・・・」


ぐに、と弱い部分をもう一度指先で捏ねる。そうすると、ゆうくんの腰がまた震えた。ローションをたっぷりと使っていることもあり、さながら女の子のように体内が潤っている。ゆっくりと中を掻くように指を引き抜くと、ゆうくんがシーツを握りしめた。


「ゆうくん、次はどうして欲しい?」


僕は上体を少し倒して、ゆうくんの額にキスをしながら、問いかけた。

ゆうくんは僕の声に息を詰まらせて、羞恥が混じった目で睨んでくる。言わせようとする僕の意図を汲んでのことだろうが、可愛いだけだ。

次は目元に口付けてから、どうされたいの?と重ねてから、上体を戻す。


「嗣にぃ、のばか・・・ぁ・・・」


ゆうくんのこととなると、本当に僕は馬鹿だな、とは思う。でも可愛すぎるのだから仕方のない話だ。

じっと見つめる僕へと息を吐き、ゆうくんは自分で足を抱えた。それはちょうど体育座りで横になった感じで、自身の手を臀部に回す。

あ、これは・・・まさか・・・・・・。


「あ・・・こ、こに・・・」


左右の尻肉へと手を添えて、ぐっと外側へと引っ張った。力を加えられたことにより、先ほどまで僕の指を受け入れていた小さな穴が、くぱり、と開く。

ゆうくんは目元を真っ赤にしながら、息を一つ飲み込む。


「・・・っ・・・嗣にぃの、おっきぃのを・・・ください・・・・・・」


息が繰り返されるたびに、そこはひくんひくんと小刻みに揺れて、開かれた入り口からとろりとローションが一筋流れ出した。

あーーーーーーーーーーっ!なんだ、これ!この子、本当にこんな誘い文句とポーズどこで覚えてくるのだろうか・・・?!正直、言わせるまでは考えていたが、ここまでしてくれるとは思ってもみなかった。

僕のものがゆうくんの痴態に、ぎゅぎゅん、っと反応して完全に勃ち上がる。

昨日は無理やり犯したし、体調を慮る部分もあるというのに・・・その気遣いを簡単に崩してくるので本当に困る。


「いいよ、あげる・・・」


それでも表面上はそう取り繕って、冷静にサイドテーブルに置いてあったコンドームに手を伸ばした。がーー。


「あっ、だめ・・・っ、嗣にぃ、そのまま・・・挿れて・・・・・・」

「えっ」


思わず僕の行動が停止する。情けない声も漏れた。

ナンテイイマシタ?お、奥さん・・・?!?!?!?!

心の中は動揺しまくりである。ゆうくんは、ふるふると小さく首を振って、僕を熱っぽい視線で見つめてくる。


「ゴム、つけないで・・・・・・中、に・・・あっ、ひあああんっ」


ゆうくんが言い終わるまで僕は待てなかった。切先を開かれた場所へと擦り付けて、ゆうくんの足を抱え込み、一気に奥まで隘路を貫く。甲高い声がゆうくんから漏れた。


「ゆうくん、可愛い・・・ゆうくん」

「くふっ・・・あ、あ、あ、っ・・・やぁ、まって、まってぇ・・・っあんっ」


間髪を入れず、腰を動かすとゆうくんは背中をシーツに押し付けながら、ひっきりなしに声を出し続ける。昨日とは全く違うそれに、僕はまた興奮して、ゆうくんの中で自身を膨らませながら出して入れてを繰り返した。

今までだって、バカみたいに気持ち良かったゆうくんとのセックスだったが、今日は今までをより上回って、信じられないくらいに気持ち良かった。

浅い部分で抽送を続け、時折、ゆうくんの弱い部分を強く抉る。

何回かそれを繰り返すと、ゆうくんのものが触らずとも、びゅくりと射精した。

ゆっくりと全部を吐き出して柔らかくなるものに、指を絡ませて強く扱く。


「あふっ。あ、イっちゃ・・・ああ、あ、ダメっ、つぐにぃ、いま、さわっちゃ・・・っひんっ」


腰を動かしながら、指先でゆうくんのものの鈴口をぐちぐちと強く擦る。ゆうくんは喘ぎながらも、何度も首を横に振る。


「あ、あ、あ、あ、あ、っ、やっ、つぐにぃ、やあああああっ、でちゃう、でちゃうからっ・・・!」


外と中からの強い刺激に、ゆうくんが目を見開いて、腰をベッドからほんの少し上げた時に、ぐん、と腰をグラインドさせて奥深くを着きながら、指先でゆうくんの柔らかい鈴口を押しこんだ。


「ひ、っ、あ、ああ、ああああっ・・・・・・っ!」


ぷしゃり、と精液とは違う液体がゆうくんのものから漏れ出る。さらりとした液体は僕の指を濡らして、先ほどゆうくんが自分の腹の上に吐き出した精液の上に流れていく。


「ふふ、ゆうくん、潮吹きしちゃったねぇ・・・」


僕がゆうくんの耳元で囁くと、羞恥に肩まで赤く染めながら、いやぁ、とか弱く首を振る。その様も著しく、僕の興奮を誘った。

可愛いし、エロいし・・・もう堪らない。堪らない・・・!これは一生、絶対に手放せないな、と凄まじい執着がわきあがるのを感じつつ、今一度、僕は自身のものでゆうくんの中を深く深く突いた。

ちなみに、僕の可愛い可愛いゆうくんは、僕が射精するときに「中に出して・・・」とどちゃくそエロく見つめてくるものだから、もう、僕の頭はパーン!となり、その後も精魂尽き果てるまでゆうくんを抱いては、中で果てた。



あれから幾日。

気を抜けば楽しさが隠しきれず、鼻歌とスキップで出勤して退勤する僕を、大濠くんがいつも嗜めて止めてくれる。曰く、気持ち悪いほど機嫌がずっと良いらしい。

治くんも治くんで「ひぇ・・・笑顔が眩しい・・・既婚者のくせにどんだけ女子社員落とす気だよ?」と呆れていた。

そんな気はないけれど、ゆうくんのことを考えると、どうしても気分が浮かれてしまう。あー・・・明日は出勤したくないな、とかも毎日考えてしまう。

これからゆうくんとしたいことはたくさんある。

近場で言えば夏祭りにまず行きたい。秋は日帰りで紅葉やグルメを楽しむのもいいし、それを過ぎればクリスマス・・・そのうち、遊園地も一緒に行きたい。ゆうくんを連れてお化け屋敷に入ったら、可愛く抱きついてくれるだろう。

そのうち、もう一度結婚式しようかな・・・養子縁組も良いなぁ・・・『桐月ゆう』・・・うん、凄く良い。

とにかく。

とにかく僕は浮かれていた。走って帰るくらいには浮かれていた。いやいや、だって、だ。


「・・・おかえりなさい、嗣にぃ」


なんて、白のエプロンを着けながら待ってくれる奥さんがいるのだからーー!そりゃ浮かれるなという方がおかしいのだ。

僕を玄関で出迎えてくれるゆうくんを捕まえて、その頬にキスをする。

ただいま、と言いながら唇も啄むと、ゆうくんもそれを返してくれた。

あああああああああああああああ・・・駄目だ、もう・・・可愛い死ぬ・・・。

なんとか。なんとかここで襲うのは必死に堪えて、途中で洗面所で手を洗い、リビングへと向かう。

テーブルの上には既に夕食の準備が出来ていた。


「ね、本当に同じで良かったのかな?全然誕生日っぽくないんだけど・・・」


テーブルの上を見て、申し訳なさそうにゆうくんは言った。何を言うのだか・・・ゆうくんが作ってくれただけで、もう僕には十分以上だ。


「そんなことないよ?ゆうくんが用意してくれたんだから嬉しいに決まってるよ」


ジャケットを脱いでから、ソファの上に軽く畳んで置き、椅子に座りながら僕が言うと、ゆうくんがはにかんだ。・・・んんんっ・・・可愛い・・・。ちょっと語彙力が小学生並みにしか出てこない。それくらい可愛い。

ゆうくんが僕の誕生日をもう一度やろうと提案してくれて、今日がその日だ。

腕を振るって用意をしてくれた料理は、あの日と同じものである。

サラダとスープと夏野菜のカレーにパウンドケーキ。

あの日は僕が台無しにしてしまった。ゆうくんが作ってくれていたものを一人で後悔しながら食べたのは苦い思い出である。

ゆうくんも僕の前に座った。グラスにはノンアルコールのロゼワインを淹れてくれている。


「遅れたけど・・・28歳おめでとう嗣にぃ。これからもよろしくお願いします」


二人でグラスをかちりと鳴らす。ゆうくんは頭を下げてくれて、僕もこちらこそと頭を下げた。ワインを一口飲むと、葡萄ジュースを渋くしたみたい、と不思議そうに首を傾げる姿がまた可愛い。年齢が年齢なので今はノンアルコールだが、20歳になったら一緒にお酒を楽しめると思うと、楽しみが増えると言うものだ。

食事をすすめて、ケーキを切ってから、ゆうくんが僕へと小さな箱を差し出した。


「ええっとね、実は姫先輩に在宅で出来る仕事を紹介してもらって・・・お金貯めてたんだ。あんまり高価でもないけど・・・仕事でボールペンなら使えるかなって思って・・・」


恥ずかしそうに、微笑むゆうくんの可愛さを可愛い以外でどう表現すればいいのか・・・自分で稼いだお金、というのがまた殊勝すぎる。・・・まあ、谷くんの呼び名が変わっているのはちょっと気になったが。どうもあのことがあってから二人は急速に親密度が増してるようだった。浮気を疑うわけではないが・・・認めたくはないけれど、谷姫鷹という男は僕から見ても随分と容姿が秀でた人間だ。

男性とも女性とも取れる線の細い美しさは万人の目を惹くようで、ゆうくんもその一人であるーーというか最近気づいたが、ゆうくんはかなりの面食いで綺麗な顔に弱い。顔で人を差別するようなことはないが、とにかく美人に弱い。性愛が伴うことはないのが救いだがーー。

つい最近、ゆうくんから『玉砕覚悟で告白した恋人にゾッコンだよ先輩は』と聞いたので、そういうことはないだろうけれど、気になるものはなる。

まあ、でも今日は僕のためにゆうくんが設けてくれた席ではあるし、ガタガタ言って崩したくはないので、スルーするけれども・・・。


「ありがとう、ゆうくん・・・凄く、嬉しいよ。早速明日から使ってもいいかな?」

「うん、うん!気にってくれるといいなぁ・・・」


受け取って、包み紙を開けると、それは深い青色のボールペンだった。金色のノック部分の少し下に『HISATUGU・K』と金字で名前が入っている。

ゆうくんはあの日、これを買いに行っていたらしく、それを聞いて、あの日の自分をしこたま殴ってやりたかった。絡んだ男も殴ってやりたい。


「僕好みで、嬉しいよ。大事にするからね。ところでゆうくん・・・」


僕は貰ったボールペンを箱に戻して、明日からは肌身離さず持とう、と決めながらテーブルにそっと置く。置いた手で、スラックスのポケットを探った。そうしながら、ゆうくんへと手を差し出す。


「ちょっと左手を出して?」

「・・・?左手・・・?」


ゆうくんは不思議そうにしながらも左手を僕の手の上に出した。その薬指には結婚式の時に嵌めたリングが光っている。そのリングを、僕はゆうくんの手から抜き取る。


「えっ、あの、嗣にぃ・・・?あの・・・?」


リングを置いてから、慌てるゆうくんの手をもう一度取った。そして逆の手を上げて、今までリングのあった場所へと、出張中に買ったリングを嵌める。

ゆうくんは瞠目して、それを見ていた。

ゆうくんの手を両手で握り、僕は瞳を覗き込むようにしながら、


「改めて、ゆうくん・・・僕と結婚してください」


そう、告げた。

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