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第四十八話 side:H 尾行と知り合いと

今日は日曜日で、天気も良く、絶好のデート日和だ。

真夏の暑さではあるが、ゆうくんを連れて水族館にでも行けたら最高だが・・・とうのゆうくんは同好会で校外活動である。

と、まあ、ここまでなら『残念だなぁ・・・』くらいで済んだのが・・・あの、どうにもなんとも言い難い谷姫鷹くんと二人きりで、だ。

元は会長という人も含めて三人だったようだが、その会長が参加できなくなり、二人に・・・ということのようだった。

しかも、しかも、だ。谷くんの運転らしく、今やゆうくんにベタ惚れの僕としては心配して当然ではないか・・・!動く密室に二人きりだなんて・・・!可愛い×100なゆうくんがその魅力を振りまいたらどうなるんだ?心配しない恋人ーー夫だけれどもね?!ーーが居たらお目にかかりたい。気分だって、よろしくはない。

まあ、ゆうくんのスマホにはこっそり追跡アプリを仕込んでいるからーースマホを触ることはゆうくんに了承を貰ってからしたので、セーフよりのギリアウトだろう!ーーどこにいるかはすぐにわかるけれど・・・不安だ。

僕も興味があるから同行したいな、と聞いてはみたものの、『保護者つきでの活動はちょっと、どうかと思う・・・』と真顔で、至極真っ当な答えを頂いた。

自分だったらデートに母がついてくるようなものだ・・・まあ、すごく嫌だね・・・。御免被りたい。

というわけで、行き着いた答えがこれである。


ーー仕方ない・・・尾行しよう!


・・・アプリに尾行に、自分がとんでもないのは、もう認めよう。

僕が物凄く嫉妬深く狭量ということも!!

そんなわけで迎えたのが今日だ。二人の待ち合わせ場所は大学の前だった。

そう遠くもないが、車で送っていくフリをして同行する。

到着すると、校門の前には既に車から降りた谷くんが待機している。10分前行動どころか15分前行動だ。格好もくすんだ青のオープンカラーシャツにオフホワイトのテーパードパンツ、と爽やかさがある。

自分の見せ方をよく心得ているコーディネイトだった。案の定、僕のゆうくんと来たら「今日も先輩が綺麗すぎる・・・」と呟くのだ。

ちょっともう、この子もしっかりと躾けた方がいいかもしれない。夜に・・・!

あまりにも口惜しかったので、


「僕も格好良いと思うけどなぁ」


と告げつつゆうくんの片手を捕まえて手の甲にキスをすると、ゆうくんはきょとん、と僕を見た後に、


「当たり前だよ、そんなの。俺が何年嗣にぃに片思いしたと思ってんの?」


と返しつつ、今度は僕の手を引き寄せて、指先にキスしてくれた。

・・・ひぇ・・・。ゆうくんの男前度が最近増量の一途で怖い・・・。これ以上に僕を落としてどうするのだろうか。

あーーーーー!このままマンションに戻って、寝室に閉じ込めてしまいたいーーー!けれど、ゆうくんは「嗣にぃ、ありがとう」とサクッと車を降りた。あれ?!余韻は?!恋人のお別れの余韻は?!

ハザードを点けると、僕は慌てて車から降りて、ゆうくんの後を追う。


「おはよう、谷くん。今日はよろしくお願いします。何かあれば迎えに行くので連絡をください」


谷くんの近くに行き、軽く頭を下げた。

僕がそこまでするとはゆうくんも思ってなかったらしく、顔を赤くして、やめてくれ、とでも言うかのように両手を振った。


「ちょっ・・・!もう!!子供じゃないんだからやめてよ嗣にぃ・・・!」


何を言うやら・・・牽制をしておかないと僕の気持ちが収まらない。

谷くんは、にこり、と微笑むとゆうくんの腰に何気なく手を回した。


「ええ、もちろん。春見は可愛い可愛い俺の後輩ですからね。安心してください。遅くなる前にお返ししますよ。あぁ、でも・・・話がはずんで遅くなるかも。そのときはまた連絡します」


ねぇ春見、と首を傾げながらゆうくんを見た。ゆうくんは軽く頷く。

君もねぇ・・・!ちょっとは嫌がるとかしないのか!しないか・・・大好きな先輩だもんね。・・・夜に覚えておきなよ、ゆうくん・・・しっかりと可愛がってあげよう。

しかし・・・確かに可愛い後輩を酷い目にあわせたのは僕だけれども、こういつまでも言われないといけないかなあ?!一応、笑顔を保ったつもりではあるが、引き攣ってしまったようにも思う。

そしてゆうくんは、谷くんの車に乗って行った。・・・くっそ。

さて、ここからは尾行開始である。

まず僕は近場の駐車場に向かった。そこはカーシェアリングサービスをしていて、予め僕はそれに申し込んでおいたのである。どうにも尾行するには僕の車は目立ちすぎるというデメリットがあるのだ。

駐車場に自分の車を停めて、降りる。その時に、よく知った人物が目に入った。


「あれ?大濠くん?」


僕が声をかけると、飛び上がらんばかりに驚いて僕を見た。

まあ、大濠くんが驚いたのも無理はない。今日の大濠くんはいつもと違い、帽子を目深に被り、サングラスとマスクという、いかにも怪しい出立ちだった。

僕がわかったのには大濠くんの姿勢や歩き方にある。剣道と居合を嗜んでいるだけあって、四角四面というか無駄に姿勢が良いというか・・・どんなときもビシッとしている。今も、その怪しい出立いでたちを除けばいつもと同じだ。


「き、桐月・・・!お前、なぜこんな場所に・・・!」

「え?ああ、親戚みたいな子を送ってきたんだ。大濠くんは?家、こっちじゃないよね?」


問いかけられたことに、適当に誤魔化して話して、今度は問い返す。

大濠くんは、明らかに動揺しているのか挙動不審だ。


「お、俺も、そのような、ものだ・・・!ではな!急いでいるので失礼する!!」


そう言って、近くにあった車へと乗り込んだ。・・・格好が格好でその挙動だと、本当に変質者っぽいけど大丈夫だろうか・・・。

ぎゅん、と車を発進させた同僚に心配がやや募ったが、僕も急いでいる最中であったことを思い出し、借りた車に乗り込んだ。

運転席に座り、シートベルトをしてからアプリを立ち上げる。

ばれないように少し時間をおいてからの出発を考えていたが、今の珍事のおかげで大丈夫そうだ。

今回の行動に、若干の戸惑いがないと言えば嘘にはなる。

ゆうくんだって尊敬する大好きな先輩と活動を楽しむだけーーそんなことは、わかってる。・・・うん、でも、無理だ!うじうじとスマホ片手にゆうくんの連絡を気にするのは、僕の性質にはあっていない。

ここまでしといて何ではあるが、行動まで邪魔をする気はない。離れたところで見守る程度に収めておいて・・・ばれなければ大丈夫だろう。

カーナビへと目的地を打ち込んでから、一つ息を吐き、僕は車を発進させた。



行き先は歴史同好会らしく、神奈川にある難攻不落と有名な城だった。随分と昔に僕もそこには行ったことがあり、その時は象がいて、城と象というなんとも奇妙な風景が心に残っている。

今日は新入会であるゆうくんの為に色々と説明や紹介をするのが目的らしく、しおり的なものを楽しそうに見せてくれた。しおりにはびっしりと説明や逸話が載っており、それを作ったのは谷くんらしく、本当に歴史が好きだと窺えたーーちなみにだが、几帳面な性格らしくスケジュールもちゃんと書いてあった。場所とおおよその時間をそれで僕は知ったのだーー。

城に程近い駅の駐車場に車を停めて、向かう。

今だと、城の堀近くを説明しつつ歩いている筈だ。

僕はどうしても背丈のせいで目立たないのは無理なので、格好だけは多少地味目にしつつもいつもと変わりない。

城の敷地内に入り、周囲を怪しくない程度で見回す。すると先の方に二人の姿を見つけた。ゆうくん専属の探偵としては、かなり優秀な気がする。

あちらからは死角になるような場所を選びながら、眺める。

説明しながらなのか、歩き方は比較的ゆっくりだ。

あれ、口説いてないだろうな・・・恋人が居るのは聞いているが「浮気なんてけっこうばれないものさ」なんて言われてたら・・・ゆうくんは谷くんに弱いのに・・・!までは穿ち過ぎか。ふう、と息を吐く。

あー・・・絶対僕も一緒だと楽しいのになぁ・・・谷くんはこの城内や歴史物に関しては僕の知識を上回るだろうけど、観光については負けない自信がある。若い二人を色々と案内できると思うけどなぁ。

資料らしきものを2人で見ながら谷くんが説明していて、いかにものどかな光景だけど、線の細い綺麗め男子な谷くんと可愛いゆうくんは、お似合いにも見えて焦る。

背丈の差がね、またちょうどいい具合なんだよなぁ・・・二人は。青春真っ只中の学生カップル、と言われたら疑う人間はいないのではないだろうか。まあ、ゆうくんは僕のものだけどね?!

二人に見えないように、自分も観光しつつ歩いていると、目の前に見知った人物再びである。大濠くんだ。いや、というか・・・不審者コーデそのままで、周りの人がチラチラと見ているではないか。

え・・・何が起こっているんだろうか、この大濠くんには。


「大濠くん・・・何してるんだい?」


僕が声をかけると、わかりやすく大濠くんは飛び上がった。「ぎゃっ」と悲鳴を上げて。周囲が一斉にこちらを見る。いやいやいや?!目立ちすぎるだろ!!僕まで見つかったら困る・・・!

僕は大濠くんの腕を引っ張り、ひとまずは二人から見えないところに移動した。


「き、桐月?!貴様、また何故・・・!おい、離せっ」

「ちょっと、静かに!大濠くん、その格好さ・・・すっごく怪しいし目立ってるから、まずはサングラス取ってマスク外しなよ・・・帽子も一度、脱いだらどうだい」


僕の腕を振り払おうとしたが、僕が人差し指を立ててジェスチャーすると、大濠くんが止まる。渋々と言った感じではあったが、サングラスとマスクを外し、帽子を脱いだら、いつもの大濠くんだ。あ、でも眼鏡がないな。コンタクトなのかもしれない。


「ええと、大濠くんは何をしてるの?今日はやたらと会うけれど・・・」


僕が問いかけると、大濠くんは少しの間押し黙る。頭を横に下に動かしてから、ため息を一つ吐いて髪をかき上げて、僕を見た。


「・・・恋人が・・・大学の後輩と2人で出かけると言うので・・・心配になってな・・・」


ん?ん?!あれ?その話、立場は違うが知っているな・・・?

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