飲み会で飲みながらも僕の頭の半分は、ゆうくんは今頃どうしているのかな?である。
我ながらよくもまあここまで恋愛脳になれたものだと自分でも感心するほどだ。
しかし、これも悪くないな、と思える。
仕事に支障にきたすような恋愛なら困りものだが、僕のお嫁さんは僕以上に僕への仕事に気遣いを見せてくれるので、支障をきたすのが難しいくらいである。
僕がこまめに──これは執拗とも言うな──メッセージを送ったら
『ちゃんと他の人と話してるの?俺にばっか構っちゃダメだろ!』
とお叱りの一通がきた。ええ、もう……僕のゆうくん、本当に素晴らしい……。
そんなこんなで、二次会は出ずに帰路につき、部屋の中に入ったら……ゆうくんが寝室で小さく喘ぎを漏らしていた。え、と思いながら僕は玄関においてあるアルコールスプレーで手を消毒しつつ寝室の扉の前で様子を窺う。
「あ、うぅ……つぐ、に……」
僕の名前をゆうくんが呼ぶ。甘く切羽詰まったものを滲ませて。
頭がパーーーンとなった。……いつものことだが。
そろりと扉をあけてもゆうくんは気付かない。ちょうど背を向けているようだ。
僕は静かに静かに部屋の中へと入り少ししたところで、
「かわいい声で僕を呼ぶね」
と声をかける。ゆうくんは、びくりとその肩を大きく震わせてからこちらを向いた。
耳まで真っ赤で非常に愛らしい。ああ、もうこのまま抱き潰してしまいたいな、と思ったけれど僕はそれをぐっと堪える。
「つ、つぐにぃ……なん、で……?!」
僕は上着を脱いで、ベッドの端に置き、その上へと乗りあげる。
こちらを向いているゆうくんの頬を撫でた。
「早くに終わってね。ふふ、どうしたの……真っ赤だよ?」
僕がわざとらしく聞くと、ゆうくんはますますと赤くなった。なんでもない、と顔をそむけて僕の腕から逃げて、身体を丸まらせる。
しかし、僕からいわせればそれはとっても隙だらけだ。ゆうくんの後ろへと横たわり、片手でゆうくんの腕を撫でてから、その腕が握りこんだ場所へと指先を潜らせた。
「あっ……!やだ……っ!」
ゆうくんが咄嗟にいやいや、と首を振ったけれど、時すでに遅し。
僕の指は簡単にその場所へとたどり着き、硬くなっているそれが指先に触れる。
ゆうくんの手があるし、布もあったけれど、そうした障害があってもその場所が反応を示しているのは瞭然だ。ゆうくんの手をゆうくんの手ごと揉み込むように力を加える。
「あ、ぅ……つぐに、ぃ……やめ……っ」
「どうして?このままじゃ、辛いでしょう?僕が触ってあげるよ?」
ちゅ、と細い首筋に口付けると、ゆうくんが息をつめた。
可愛いぃ……本当に、もう……ゆうくんを前にすると僕の語彙は吹き飛んでしまうようで、ひたすら『可愛い』しか出てこないので困りものだ。……ああ、でも母もそんな感じだし、そんなもんなのかもしれない。
首への口付けで少し緩んでしまった指の端から、また僕は指先を滑り込ませる。そうして完全にゆうくんの屹立したものを握りこんだ。緩急をつけて揉んで、たまに上下に擦る。
「ふ、くぅん……あっ……やぁ……っ」
僕とのセックスの回数が増えるたびに、ゆうくんは敏感になる。
近くにある耳たぶの上へとキスをして、そこへと舌を差し込んで、耳孔を舐った。
ゆうくんの手が僕の手をどけようと動いたけれど、力なんてまるで篭っておらず、僕の手の甲の上で滑るばかり。
「ねえ、ゆうくん……直接触っていい?ゆうくんも、このままじゃ嫌だよね?」
耳朶を甘噛みしつつ聞くと、ゆうくんは少し迷ったようだったが……こくりと頷く。
僕は許しを得て、パジャマの下にある下着の中へと手を忍び込ませた。
硬い爪先で鈴口を引っ掻く。
「あっ、やぁっ」
ゆうくんの腰と肩が大きく揺れた。甘イキしたのかもしれない。
少し強く握りこみ、今度は上下に擦る。下着の下でゆうくんのものは既に濡れていたようで、滑りは悪くない。十回も扱かないうちにゆうくんが、首を何度も降りだす。
「あ、ふっ……!も、離して……っ、つぐにぃ……」
色々と刺激が重なって、早々にゆうくんは達しそうになっていた。
「このままイってもいいよ、ほら」
最後の言葉と一緒に、ゆうくんのものを手早く力を込めて擦る。
「あ、あ、あ、あっ……!やぁあ……っ」
小刻みに声を漏らし、僕の親指の腹が鈴口を抉ったとき、ゆうくんは吐精をする。
とろりとした粘液が僕の手を濡らしていく。
僕はその場所から手を離すと、精液が零れにくいように手を緩く握りこみ、まだ達したばかりで呼気も覚束ないゆうくんの臀部へと手をまわして──今度は密やかな部分へと指先を伸ばした。
「ふ、あっ……?!つぐに、ぃなにして……っ」
僕はその問いには答えず、振り向いたゆうくんの顔へと、顔を寄せて唇を塞いだ。
僕へと声を出した唇は開いていて、簡単に僕の舌の侵入を許す。
それと同時に、人差し指と中指で体内へと続く蕾をふにふにと揉む。
「んうっ、ふ……う、んむっ……」
ゆうくんの身体は捩じったような体勢なので、僕と口づけをしている限りは上手く動くこともできないらしい。キスを嫌がらない時点で……ねぇ、ゆうくん。
息と一緒に蠢く舌を軽く吸い上げて、僕は唇を放した。互いの唾液がつ……と糸を引くいた。
「……どうする、ゆうくん?」
僕はまたわざと問いかける。そうするとゆうくんは数回瞳を瞬かせた後、熱っぽい視線を僕に向ける。とろとろに蕩けた瞳だ。
「……だ、いて……つぐにぃ」
ああ、満点の答えだね。
※
「で、どうしてあんな風になってたの?」
ゆうくんに誘われた僕は、ちょっと激しめにその行為を楽しみ──今はゆうくんを抱き込んで寝ころび、頬や髪にキスを繰り返していた。
そんな時に、そういえば、とはじめに見たゆうくんの痴態を思い出して首を傾げる。
ゆうくんは腕の中から僕を見上げた。
「ラムネ……」
「うん?」
「枕もとのあれ……何か変なの入ってる?」
枕もとの……ああ、あれか!僕はちらりと言われたものを見やった。
うん?あれ?もしかして……?
「ゆうくん、あれを食べたの?」
「……何か入ってるの?」
ゆうくんは恨みがましそうな目に変わる。何せ僕は彼との初回セックスで『気持ちよくなる成分入り!らぶらぶローション!(商品名)』を使用しているので、どうも疑っているようだった。僕は一度ゆうくんから片手を離すと、ラムネの入ったボンボニエールの蓋をずらし、中身を一粒取る。
「入ってないよ。普通のラムネだね」
自分の口の中に放り込み、ね?とゆうくんを見た。しかしゆうくんは半信半疑のようだ。信用がなさすぎるな、僕。もう一度、ラムネを取って今度は二粒ほど自身の口に放り込む。嚙み砕いてのみ込んでみせると、ゆうくんはぶつぶつと呟きを落とした。なんで、とか、どうして、とか。まあ、そうだろうね。いやいや、しかし上手くいくとはなぁ……。
「ねえ、ゆうくん。パブロフの犬って知ってる?」
「え……?ええと……犬に餌の前に必ずメトロノームを聞かせると……っていうあれ?」
「そうそう。ご名答。ロシアの研究だね」
「え……」
「ふふ、気付いた?僕はいつこれを君に食べさせてたか」
所謂それは条件反射の研究で、餌前にメトロノームを聞かせることで犬はそのうち餌の有無に関わらず、メトロノームの音を聞いただけで唾液を垂らす……というものだ。人間にも共通する学習の基本的要素であると考えられてはいても、こうまで上手くいくとは思ってなかったのだ。
ゆうくんも気付いたらしく、一瞬言葉を失った。
「いやぁ、本当にゆうくんはさいこ……」
「こ、この馬鹿っ!馬鹿嗣……!俺が人前でうっかり食べてたらどうしてくれてたんだよ!」
たっぷりと数秒置いてから、ゆうくんは眉を吊り上げて怒った。
「えぇ、でも」
「なんだよっ」
「ゆうくん、小さいころからラムネは食べないでしょう?だから人からもらっても大丈夫と思ったんだけど……」
そう。ゆうくんは小さなころからラムネというお菓子をあまり食べない。特別に苦手というわけでもなさそうだが、ぱくぱくと食べるあーちゃんと違って首を振って、いらないからあさにあげて、と言い続けていたのを僕は知っている。それを覚えていたし、まあ、この年齢にもなればあまりそういった駄菓子も出てこないと予想していたのだ。
「だ、だからって……!俺で遊ぶのはおかしい……!」
遊びじゃないんだけど……ああ、まあ、大人の遊びか?
ゆうくんは矢張り怒っているが、その姿も可愛いもので……。
僕はゆうくんを抱きしめて、文句を零す唇を奪った。はじめはもぞもぞと抵抗をしていたが、少しもするとその抵抗もやむ。
あー……ゆうくんは最高だなぁ、と僕はゆうくんを抱きしめつつ思った。