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第2話:その気にさせてやる!

 大好きなトウマ――と同じ顔の夫と、キスもエッチもできないなんて。


 あたしはベッドの上で呆然としたまま、セラディスの神妙な顔を見つめた。理知的で穏やかで、どこまでも誠実そうな顔。

 ……だからこそ、厄介だ。


「ねえ、セラディス? 本当に、キスもダメなの?」


 期待を込めて聞いてみる。もしかしたら、あたしの可愛さ(まだ自分の手しか見ていないが、多分可愛いはず!)に免じて例外を認めてくれるかもしれない。

 しかし、セラディスは困ったように眉を寄せ、静かに首を水平に振った。


「アレオン神への誓いを破ることはできません」

「……そっかぁ。あれ、セラディス自身は何歳なんだっけ?」

「私は今年25になりました。ですが、私だけがその年齢に達していても意味はありません。夫婦共に25歳以上になるまでキス以上の行為は許されない、これは『神聖なる真愛は成熟した精神に宿る』という考え方に基づくものであり、夫婦が共に精神的な成熟を迎えた後にのみ、その真実の愛の証として肉体的な関係を持つことが許される、という教えなのです」

「なるほどね」


 無理か。

 ホストのトウマなら「特別だよ」なんて言いながら、即キスしてくれるのに。なのに、この敬虔すぎる夫ときたら、顔も声も完璧なのに、ガードだけは鉄壁だった(←あたし上手いこと言ってる?)。


 3年も待てるわけない――そう思った瞬間、あたしの心は決まった。


 セラディスを、その気にさせてやる!



◆第1の作戦:甘えん坊アタック


 訪問してきた医師の診察を受けて、「軽いたんこぶができていますね。それ以外は健康です」との診断を下されたあたしは早速活動を開始した。


「ねえ、セラディス。頭がちょっとぼーっとしてて、ふらふらするの。だから……支えて?」


 ベッドを下りたあたしは少しフラついたふりをして、セラディスの腕に寄りかかる。


 うん、トウマと同じく着痩せして見えるけど、やっぱりがっしりしてる。鍛えられた体、最高……! 背もトウマと同じ180cmくらいかな? とにかく高くて惚れ惚れしちゃう。


 セラディスは一瞬驚いたように目を見開いたけれど、すぐに優しくあたしの肩を抱いた。


「大丈夫ですか? まだ無理はしないで、横になっていてください」


 ……うん、優しい。

 でも、全然靡いてくれない。

 このまま顔を近づければ、ドキドキするかな? と試しにもう少し寄ってみる。

 だが、セラディスはただ微笑むだけだった。


「何か食べますか? それとも、お茶を淹れましょうか?」


 うう、動じない。あたしって実は顔がイマイチだったりする?


 そのまま身支度を整えると言って、あたしはドレッサーの前に座らせてもらった。そこで初めて自分の容姿を見る。

 髪は、艶のあるミルクティーブラウンのセミロング。肌は色白で透明感があり、目は大きく、瞳の色はヘーゼルゴールド。細身の体には、ほどよく女性らしい曲線がある。


 なにこれ、最高じゃん!! アイドルみたいに可愛い!!


 急に自信が湧いてきた。



◆第2の作戦:色仕掛け(初級編)


 自分の容姿を見て気が大きくなったあたしは、少し攻めた方法を試みることにした。

 ワンピースドレスの背中の紐をわざと解き、あたしのお色直しを直視しないよう気遣ってか、窓際で外を眺めていたセラディスへ、


「ねえセラディス、ドレスの紐がほどけちゃって、上手く結べないの。手伝って?」


 背を向け、後ろ手に紐を不器用そうにいじる。うなじがよく見えるように角度を調整。

 さすがにこれなら――


「わかりました」


 セラディスは静かに紐を手に取り、丁寧に結び始めた。


「……っ」


 近い。しかも、手つきがすごく優しい。あたしの方が照れちゃう。

 これは、さすがに意識するでしょ!?

 ……しかし。


「できました。締めすぎていないですか?」


 いつも通りの穏やかな声で、何事もなかったかのように手を離し、また窓際へ戻っていく。

 嘘でしょ!?



◆第3の作戦:正面突破


 こうなったら、はっきり聞くしかない。

 あたしはセラディスにツカツカ歩み寄った。


「ねえセラディス、もしかしてあたしに興味ない?」

「え?」

「いや、普通ね、こういう美女が夫にちょっかいかけてたら、グッとくるものでしょ? なのに全然揺らがないって、あたしの魅力不足なの?」


 ぐいっと顔を寄せる。

 さすがにこれには何か反応して――


「いえ。あなたはとても魅力的な人です」


 予想外に冷静かつ穏やかに断言され、「へ?」と口から間抜けな声が出た。


「私にとって、あなたは命より大切な妻です。ですが、アレオン神の誓いは絶対に破れません」


 そしてさらに断言。



◆作戦失敗


「悔しい……」


 あたしはその場で崩れ落ちた。

 この男、どうやって落とせばいいんだろう。


「マナシア?」


 セラディスが心配そうに声をかけてくる。

 そんな彼の完璧な顔を見上げ、


「ああ、好き……」

「えっ?」


 じゃなかった! そうじゃなくて、


「覚悟してて! 絶対、その気にさせてやるんだから!」


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