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32.嫌じゃないこと

キースの唇は何度か俺のそれの上で啄ばむ様に動いた。そして、急なことで開いたままだった俺の唇の合間から舌が入り込んでくる。


「……っぁ……」


漏れた声を覆う様に唇同士が密着する。

俺へと求婚の意を示してからこちら、軽く触れ合う様な口付けは何度かあった。

ただ、それは改めてする行為というよりは、挨拶のついでのようなものばかりで、今回とは違う。

咥内に入り込んできたものが、俺の舌に絡んできた。


「ん、んっ……」


どうすれば、と思うものの身体は動かない。キースの片手があがり、俺の背中を撫でて腰まで落ちる。

なんとも言えない感覚に、俺は手を握り込んだ。


「……っふ、……」


強めに舌を吸われると、腹の奥をぎゅっと掴まれたようだ。俺が息を 漏らしたところでキースの顔が離れた。

頬にあった手が俺の髪を梳くように動いて、後ろ頭にまわる。

そうしてから、その手がキースの胸元に俺の顔を引き寄せて、強く抱きしめられた。


「リアム……」


声が俺を呼びつつ、手が頭を優しく撫でた。

……恋愛経験が皆無な俺にさえわかるほどに、キースの全部の行動には

愛情が含まれていて、それがまた俺が拒むことを選ばせない。

相手も男で俺も男で俺はそれが嫌で……なのに、何故なのか。拒むこともせず腕の中にいる。


「……嫌なら、拒んだ方がいいよ?そうでないと、僕は僕の良いように受け取って、君を好きなようにしてしまうから」


頭の中でキースの言葉を繰り返す。

……俺だって、拒めるもんなら拒んでる。でもそうしない自分が不可解で仕方ないわけで。

……嫌いでは、ない。

では恋か、と問われれば……わからない。

分からないから流されてるのだろうか……ああ、でもこれがキース以外だったらどうなのだろうか……。

そう思い、思い浮かべてみる。


「……兄様以外は、嫌……なんですけどね……」


俺はキースの胸に額を押し付けながら、答える。

試しに頭の中で、リンドンだのレジナルドだのと、キスを交わす相手を変えてみたが……ありえないな、とそれはすぐに答えが出るのに、キースを好きだとはまだはっきりわからない。だから、そんな答えになってしまった。

キースは俺の答えを聞くと、髪を撫でる手を俺の顎へと滑らせ、ゆっくりと自分の方を見上げさせた。

また視線があう。


「それだと僕のことを好きだと言っている様なものだよ?」

「だって……わかり、ません……」


キースは苦笑を浮かべ、困ったね、と緩く息と一緒に吐き出した。

しゃーないだろ!

恋だの愛だのを俺はまだ知らないんだからさぁ!

身勝手なのは重々承知だ。

俺は、嫌いではないです、と先程思ったことを小さく呟く様に告げた。


「君が僕との行為に嫌悪がなく、でもしっかりとは選べないなら……僕のものにしてしまうよ?」


いいの?とキースは首を傾げる。

また難問を突きつけてくるなぁ、この人は。ただ、今までの行為が……キスが、嫌だったかどうかなら……。


「……嫌悪はない、です……」


正直に、そう俺が言うとキースは微笑んで、また俺の唇を塞いだ。

……まずいなぁ、これ……嫌どころか……気持ち良い、てやつな気が、す……る……。

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