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48.終結と疑惑

俺はノエルの足元にゆっくりと膝を付いた。

恐らく俺はキースが本来操る風の魔法で運ばれたのだと思う。

リンドンが、大丈夫⁈と手を差し伸べてくれたので、それを取って立ち上がる。

その時だけ、少し塔が揺れた気はしたが……。


「お兄!大丈夫⁈」

「え、あ、うん」


大丈夫も何も、俺、割と優しくここに運ばれたので傷の一つもないわけで……。

ただリンドンとノエルは緊迫したムードだ。

キースを見遣ると、まあ、それにあわせた感はあるが……そして俺は困惑中。

ここの温度差凄いな、と思った。

そして今まで幾度となく感じた違和感も、ある。


「お兄!とにかく声をかけて!」

「え、えっ、ど、どんな⁈」

「お兄さんをこちらに戻さなきゃ‼色々あるでしょ!戻ってきて!とかさ!」


戻るも何も……あれはキースだと俺は思っているのだが。

──どうにも、おかしい。

俺を離す寸前、キースは『必要なこと』と言った。何が必要なのだろうか?

魔王というなら世界征服もしくは人間根絶……?

違う──それならもっとやりようはある筈だ。

キースの望み……はなんだ?何を……?俺に関わる何か……?


「お兄!」


考えを巡らしていると、ノエルの声に呼び戻される。


「あ、えっと……に、兄様…その、僕と帰りましょうー」


最後の方は間延びになってしまうわ、恥ずかしさで赤くなってしまうわ……。

勘弁してほしい、即興劇とか自信ないわ、俺……。

しかしノエルは、もっとちゃんとして!と叱責を飛ばしてきた。


「兄様!お願いだから戻ってきてくれ……ぼ、僕は、兄様にずっと傍にいてほしいんだ!」


頑張って俺は叫ぶ。

その言葉に反応するように、キース兄様の瞳が僅かに揺れた。

どこに反応したんだろうか、キースは。わ、わかんねぇ!

同時に、ノエルの放った光が闇を貫くように突き刺さる。


「キースさん、本当のあなたを取り戻して!」

光と闇のぶつかり合いが激しさを増し、やがて部屋全体が眩しい閃光に包まれる。


「……っ!」


数秒か数分か、もう少しか──光の爆発が収まり、室内には静寂が戻ってきた。

ぼんやりと白い光が漂う中、俺はキースが床に崩れ落ちるのを目撃した。


「に、兄様……!」


咄嗟に駆け寄り、その体を支える。キースの顔は色を失い、汗が滲んでいた。だが、薄く開かれた瞳には微かな光が宿っている。


「リアム……」


掠れた声で俺の名前を呼びながら、キースが弱々しく微笑む。そして、彼は目を閉じてしまった。


「兄様!?」


俺の叫び声に、ノエルが疲れ切った表情で近づいてきた。そして、そっと俺の肩を叩いた。


「お兄さん、大丈夫だよ。闇の力は全部消えた。ちょっと魔力を使いすぎただけだから、休めばすぐ元気になるって」


ノエルの言葉に、俺はほっと息を吐く。力が抜けたようにキースを支えたまま、俺はゆっくりと地面に座り込んだ。


──だが。


「……全部、消えた……?」


自然と口からこぼれた俺の問いに、ノエルは自信満々に頷いた。


「うん、確かだよ。闇の波動も消えたし、残留魔力も感じないから!」


その言葉を信じていいのかもしれない。だが──俺の腕の中にいるキースを見下ろすと、どうしても言い知れぬ違和感が拭えなかった。

彼の身体はいつも通り温かい。それでも、それに指先が触れる度に、何か冷たいものが背筋を撫でていくような気がするのだ。

──疲れてるのかも、な……。

自分をそう納得させ、俺はもう一度キースを抱きしめた。


「兄様、ゆっくり休んでください……」


ところで……この人、本当に気を失ってんのだろうか……。

ほんの一瞬、キースの唇が動いたような気がしたが、気のせいだろうか。 俺は腕の中にいるキースに少しの疑惑を向けた視線を落としたのだった。

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