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6−2

一歩踏み出そうとした瞬間、再び魔法が襲いかかる。

剣を振り抜き、辛うじて防ぐものの、視界の端でシリルが不安げに俺を見つめているのが分かった。


「増援を呼べ!」


叫ぶが、騎士たちの姿はまだ見えない。

逆に警備が少ないこのエリアで襲撃があったのは計算されたものだろう。

剣で魔法弾を弾くたびに火花が舞い散り、庭の草花が焼け焦げていく


「アレックス様、僕も戦ったほうが……」

「駄目だ。余計なことをするな」


シリルは魔導師見習いであり、才能は本物だ。

それでも、実戦経験は皆無。平和な世の中であるのは良いことなのだが。

もし魔法を放って巻き込まれでもしたら、護衛としての俺の立場はない。

そうでなくとも、護衛でなくとも──シリルは守らなければならない。


「シリル……お前は、俺が守る」

「……」


シリルが目を見開き、何かを言いかけるが、次の瞬間に襲撃者が短剣を引き抜いた。


「っ!」


直感でシリルを抱き寄せ、剣を振るう。

短剣が弾かれ、甲高い音が響く。

シリルの腕が、俺の服をぎゅっと掴むのが分かった。


──情けないことに、俺はその温もりに少しだけ安堵してしまった。


「……ふん、お前らがどれだけ守ろうと、いずれこの坊ちゃんは──」

「それ以上喋るな」


再び襲いかかろうとする男を剣の峰で打ち払う。

男がよろめき、視界から消えるのを確認した瞬間──ようやく増援の騎士団が駆けつけた。


「アレックス団長!」

「遅いぞ、ジェラルド!」

「申し訳ありません!」


増援が襲撃者を取り押さえると、ようやく俺は剣を下ろすことができた。


「アレックス様……大丈夫ですか?」

「問題ない……」


そう答えたものの、内心では冷や汗が止まらない。


──これは偶然の襲撃ではない。


王宮内であろうと、シリルが狙われる状況に変わりはない。

護衛として、俺の警戒が甘かったのは事実だ。しかし……。


「アレックス様……僕、足手まといでしたか?」


ふと、シリルが心配そうにこちらを見上げてきた。

普段のふざけた口調は鳴りを潜め、素直に心配している様子が痛々しいほど伝わってくる。


「……いや、お前が無事ならそれでいい」


俺がそう答えると、シリルは小さく笑った。


「じゃあ、アレックス様のおかげですね」


掴まれた服の袖が、僅かにきつく引かれる。


「これからも、アレックス様だけが僕を守ってください」

「……他の護衛官でも問題はないはずだ」

「駄目です。アレックス様じゃなきゃ嫌なんです」


真っ直ぐな瞳に見つめられ、俺はそれ以上何も言えなくなる。


「──まったく、お前は本当に我儘だな」

「我儘を言うのは今に始まったことじゃありませんから」


そう言って微笑むシリルを見て、俺はただ深く息を吐いた。


「ジェラルド、襲撃者の身元が分かり次第報告しろ」

「承知しました。団長、シリル様の護衛もお任せください」

「いや……それには及ばない」


ジェラルドの申し出を断ると、シリルがそっと俺の腕に寄り添う。


「……やっぱり、アレックス様がいれば安心です」

「……」


ジェラルドがそれを見て小さく笑いながら礼をして、去っていく。

結局、俺はシリルを邸まで送り届けることになった。

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