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浅葱様は俺の前まで来ると、初めて会った時のように視線を上から下までゆっくりと動かしていく。そして、目を細めて微笑む。


「本当に、何が良いのだか……」


その声には冷たさとともに、どこか嘲るような響きがあった。

浅葱様の手が伸ばされて、俺は後ずさる。

俺が睨むと、浅葱様は──浅葱はせせら笑い、その手が俺の首を掴んだ。

瞬間、空気が一瞬止まった気がした。

そのまま一気に背後にあった寝殿の柱へと押し込まれ、背中に激痛が走る。

喉から引き攣った息が漏れ出した。


「ぐっ……」

「生意気な目だね、下等な生物のくせに……」


元々、浅葱は俺への敵意がはっきりとしていた。

てか、こいつの場合……


「そ、の……態度が好かれない、原因じゃ、ねーのか、よっ……!」


神使の子たちにしても馬鹿にしたような態度しか出さないし、俺にはこれだし。

見た目がどんなにお奇麗だろうが、こいつの場合は性格に難がありすぎだろうよ。

数回しか会ってなくとも腹が立って仕方なかった。

俺は苛立ちが爆発して、浅葱に思ったまま告げていた。

当たり前だが、俺のそうした行為は浅葱の勘に触ったらしい。


「本当に生意気な……っ」


憎々し気に呟く浅葱の手にどんどんと力が加えられる。

両手でその手を外そうとするが、ビクともしない。

息が苦しい。

視界がだんだんと狭くなる。


「……つ、るば、……さ……」


意識が薄れていく中で、俺はぼんやりと浅葱の冷たい目が見えていた。


「弱い生物だな、君は……。でも、橡が夢中になる理由が少しだけわかる気がする。儚さゆえ、か」


浅葱の言葉が遠くに響いているようだった。

体が宙に浮いたような感覚。どこかへ運ばれているのか、それすらも曖昧だった。どれくらい経っただろうか。

冷たい石の感触が背中に伝わり、俺はかろうじて意識を繋ぎ止めた。

目を開けようとしたが、身体が言うことを聞かない。


「さて……君の身体に宿った“もの”を、少しだけ使わせてもらうよ」


浅葱の声が耳に届く。胸の奥がざわめくような不安が襲い、微かに体を動かそうとしたが、完全に力が抜けていた。


「……まさか逆鱗を人間如きに与えるとはね……」


浅葱の声が、どこか楽しげだった。

その言葉の意味を理解する間もなく、突然、左目に激痛が走る。


「ぐ……ああっ!」


無理やり引き剝がされるような感覚。視界が焼けるような痛みに覆われる。

左目が……何かを抜かれている。俺の体の一部が失われていく感覚。

浅葱は満足げに笑い声を漏らした。


「これで……少しは橡様の力を取り戻せるだろう。次は、この中の――」


浅葱の手が、俺の腹に触れるのがわかった。

守りたいのに守れない。手も足もまるで動かないのが酷くもどかしく悔しい。


「……やめ、て……」


声にならない声で懇願するが、何も止まらない。冷たい手が腹に押し付けられると、何かを強引に引き剝がすような感覚が走る。

痛みが走る。先ほどよりも遥かに酷い痛み。


「これが神の子か……。美しいものだね」


浅葱が低く笑う声が聞こえる。

その瞬間、すべてが暗闇に飲み込まれた――。



……なあ、俺の神様。

あなたは俺がいなくなったら……悲しんでくれるだろうか? 

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