目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第3話 謎の緑頭の登場‼

そう言えば、モブってその役目を終えたらどうなるんだ?


ちょっとした疑念が胸の中に蠢く中、人生に幕を下ろすのを覚悟した。

だが、固く閉じられた瞳の奥で再びまばゆい光が放たれる。

何が起きているのか把握できず、鼓動はより大きくなる。


予想していた衝撃はいつまでたってもやってこない。


貴族青年Dは意を決して、うっすらとまぶたに力を入れた。

その先にいたのは緑頭の長身の男だった。彼はモンスターの上に逆さまに着地している。


「どういう状況だ?」


モンスターは彼が落ちた衝撃のせいなのか、地面につっぶしている。


一体どれだけのスピードで落下してきたんだ?


「よかった。君大丈夫かい?」

「誰だ?」

「僕?う~ん正義の味方かな」

「はあ?」


その男はいかにも不審者だ。

この国では見慣れない服装。

さらに、見えているのか怪しいと疑うほどの細い目。

そしてこの世界の人々とは明らかに異なる作風。


「他の物語世界のキャラか?」


自然な流れで問いかけていた。


「おっ察しがいいね」

「そのヘンテコな服装じゃな…」

「失敬だな。これは着物と言って…」

「キュキュン!」


男の胸からかわいらしい鳴き声が漏れる。


「ごめん。ごめん。僕はセイ。で、こっちはファンだ」

「キュキュッ!」


セイと名乗った男の懐から飛び出したそれは貴族青年Dの肩に器用に飛び乗った。

長い耳が垂れ下がり、ピンク色をした丸っこいファンと名乗った小動物はこの世界のヒロインが連れている妖精によく似ている。


ただでさえ困惑しているのにここに来て新キャラとか展開が早すぎる。


「なぜ、他の物語のキャラがいるんだ?各世界は行き来できないはずだろ?」


当然の疑問を投げかけた。


――グググッ!


「ヒィッ!」


会話のキャッチボールを始める前にうなだれていたモンスターが気合を入れなおしたらしい。


「話は後だ。まずコイツを始末しないと…」


セイがそう断言した時からその空間にしばしの沈黙が流れた。

居たたまれなさを感じ、


「えっと、戦わないのか?」


と貴族青年Dは問いかけた。


「う~ん。さっき渾身のパワーを放ったばかりだからね…無理」

「はああ⁉渾身のパワーってなんだよ。そんなシーンなかったじゃねえか!」

「もしかして、僕の渾身のパワー見てなかったの?」

「見てるか!」

「ヒドイ…」


ぶりっ子よろしくといった様子で腰を振る男に殺意がわく。


――ガルルルッ!


「うわッ!」


謎のモンスターも同じ事を思ったのか、もうスピードで走ってくるのが見えた。

思わず、二人と一匹は走り出した。人の気配のしない廊下でひたすら足を動かす。


「あれ、どうするんだよ!」

「そうだね。ここは君に頑張ってもらおうかな」


切羽詰まった状況にも関わらず男の声はどこか間が抜けている。


コメディ世界から来たのか?


「どうしてそうなるんだよ!」

「だってここ、君の世界だろ?」

「だから何だよ!」


思わず強い口調で言い返した。


「自分の世界は自分で守らなきゃね」

「それこそ無理だな」

「どうして?この世界は魔法とかあるんだろう?あいつもチョチョイのちょいで片付けてくれよ」

「お前、本気で言ってる?モブキャラの俺に魔法が使える設定あるわけないだろ!」

「でも君貴族だろ?」

「そうだよ。俺は主人公達が通う学院の背景キャラとして徘徊する一般生徒なの。それ以上でもそれ以下でもないんだよ!」


自分で言っててちょっと悲しくなってくる。


「ええ~使えない!」


まさかモブ人生で殴りたい奴が出てくるとは思わなかった。


「お前、モブキャラ舐めてるだろ!」

「いや、そんあつもりはないよ。僕も似たようなものだし…でも困ったな。このままじゃどうしようもない」


モンスターとの距離は後わずかである。そろそろ体力の方が限界に来ていた。


「キュキュン!」


何かを伝えたいのかファンは激しく飛び回った。


「そうだ。その手があった!」


突然のひらめきが下りてきたようにセイの表情は明るくなった。


「なんだよ」


この場で状況がわかっていないのは貴族青年Dだけであった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?