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09 犬にラスボスも法律も関係ない!

 制限速度80キロと書かれている街道を、およそ3倍の速度で爆走している軍用ジープがあーった!!


「い、い、犬次郎さんッ! す、す、す、スピード、だ、だ、だし…出しすぎッ!!」


 助手席の猫五郎は、風圧に顔をグニャグニャさせながらそうのたまわった!


「そんなことはない。光速に比べれば鈍亀もいいところだ」


 風圧をまったく意に介さない犬次郎は、チート能力者みたいであーった!


「し、しかし、こ、こんな速度で走ってた、た、た、ら、つ、捕まるの、で、では!」


「捕まるものか…。柴犬に道交法など関係ない」


「え、え、ええッ?!」


「考えても見ろ。柴犬はお散歩の時にあっちこっちで尿……汚染汁を撒き散らすが、人間だったら軽犯罪法違反だ。しかし捕まることはない。なぜか分かるか?」


「???」


「犬がお巡りさんだからだ」


「?!」


 泣いてしまった小猫ちゃんの気分に猫五郎は相成った!



 スゴガァンッ!!



 とてつもない衝撃と轟音に、2匹はその場でヘッドバンキングする!


「犬次郎さん! なにかにぶつかりましたよ!」


「気のせいだ」


「ええー!?」


 巧みなハンドル捌きで態勢を持ち直し、何事もなかったかのように走り続ける! ろんもち、アクセルはその間もベタ踏みだ!!


「いやいや! 車にぶつかってますよ!」


 振り返った猫五郎の眼には、過ぎ去った道の往来のど真ん中で、ボンネットが跳ね上がって白い煙をモウモウと立てている赤いクーペが映っていた!!


「そうか。俺にはなにも見えん」


「ルームミラー見て下さい!」


「鏡だと?」


 犬次郎は事もあろうか、ルームミラーを握りしめるともぎ取って車外に放り捨てた!


「な、なんで!?」


「犬族に鏡など関係ない。鏡を見てもそれが自分だと認識できないしな(※)」


[※…犬の鏡像認識能力については諸説ある様です]


「とりあえず止まって下さい! それに赤信号ですよ!」


「犬族に信号など関係ない。信号を見ても白黒にしか視えないしな(※)」


[※…犬は白黒にしか視えないというのは一説です。最近の研究では赤以外の色は認識しているという結果がでている様です]


「なら運転なんてしないで下さいよ!! このひと無茶苦茶だ!」


 今更になって気付く猫五郎であったが、犬次郎はそんなことまったく気にしない。


 しかーし、犬次郎が急ブレーキを踏む!


 やっぱり2匹はその場でヘッドバンキングする!


「グェェェッ! な、なんなんですか! 今度は! 急に!」


「……マーキングだ」


「は?」


 犬次郎は忌々しそうに先の道を睨みつける。そこではチワワが電柱に汚染汁をぶっかけていた!!


「あのエリアは一昨年に俺の場所になったはずだ! 許せん! 粛清してやる!」


「いや、さっきからアンタなに言ってんすか!?」


 車から降りようとする犬次郎を、猫五郎が止める。


 キキキキーッ!!


 ちょうどその時、物凄い勢いでやって来た車が急ブレーキを掛けてジープの横に止まった!! あまりの爆速に、路面にタイヤ痕がついてモウモウと煙が立っている!!


「あ!」


 猫五郎はびっくらぶっこく!


 というのは、ひしゃげた車体前方部、歪んで閉じなくなったのを無理矢理に押し込んだであろう閉まりきっていないボンネット!


 そう! それは明らかにさっき事故ったあの赤いクーペだったのであーーる!!!


 そんでもって、2シーターの運転席と助手席から、血走ったお目々で睨みつけてくる巨躯の男たち!!


 まず特徴的なのは頭だ! 七三分けなのはいいとして、ボリュームがおかしく浮かんでいるかのようだ!!


 さらに顔はひたすら暑苦しい。ゴリッポをさらに極限まで濃くした風貌に、タラコ唇にケツアゴ!!


 そんな似た顔がふたつ! そう、双子じゃないかと思うほどに、クーペに乗った2人はクリソツだったのであーーる!!


 強いて違いといえば、運転席に座っている方には左目の下にホクロがあって、そこから長い毛が生えている点しかない!!


「(やばいですって! 犬次郎さん! スッゲー怒ってますよ!)」


 猫五郎が犬次郎に小さな声で耳打ちする。


「なにがだ?」


 犬次郎はまったく興味なさそうに、チワワの方を睨みつけていた。


「(あれですよ! あれ! さっきぶつかった車!!)」


「ん?」


 犬次郎はようやくクーペの方を見やる。


「(誠心誠意謝れば今なら許して…)」


「なに見とるのだぁー!?」「拝観料とるぞぉ!!」


 あれま! どうにも許して貰えそうになかった。


 猫五郎は自分の考えの浅はかさを後悔する。


「なんだ。この気持ちの悪い害虫にんげんどもは」


「ええッ?!」


 悲劇! まさに悲劇!! まさしく悲劇!!!


 犬次郎からすれば、すべからく人間種は害虫にしか見えないのであーーった!!


「貴様ァッー! 我輩を誰と思っているかァッ!!」


「そうだ! 吾輩の事も誰と思っているかァッ!!」


 犬次郎は眉を八の字にして肩をすくめる。


「我輩は、かの有名なエスドエム・ローションであーるッ!!」


「えッ!?」


 運転席の方がそう宣わった。猫五郎の顔が青ざめる。


「吾輩は、その弟、かの有名なエムドエズ・ローションであーるッ!!」


「ええッ!?」


 助手席の方がそう宣わった。猫五郎の顔がさらに青ざめる。


「? 知らん」


 犬次郎の一言で、猫五郎もローション兄弟も前のめりにズコーとなる! お約束のオノマトペであーーる!!


「ローション家といえば、サイド69の上級貴族! エロ推進派! つまり敵の元締めじゃないですか!! エスドエム元帥に、エムドエズ大将…つまりラスボスですよ!!」


 そう! なにを隠そう、彼らこそがラスボスだったのであーる!! 


 9話ぐらいで主人公たちと接触してはいけない存在だぁ(伏線的なニアミスならともかく)!


「へー」


 犬次郎が興味なさそうにそう言うと、またもや1匹と2人はズコーとなる!


「し、しかし、ローション家がなんでまたこんな惑星に…」


「「バカンスだ!!」」


 エスドエムとエムドエズはそう答えた。リーダーが休みをとってはいけないなんて法律はないが故に!


「しかーし、その口振りと、その軍用車…まさかとは思うが、エロ規制派の超連邦の犬(柴犬だし)じゃあるまいなぁ!?」


 猫五郎は「しまった!」という顔をした。


「そうか! だとしたらこのままですませるわけにはいかんな! ちょっくら、我輩らの事務所に寄って行って貰おうか!!」


 猫五郎は即座に、ドラム缶にコンクリ詰めにされて、オーシャンブルーの海に沈んでいく自分たちを想像してしまった。


「なるほど。なら、お前たちを滅ぼせばこの物語も終わるんだな」


 犬次郎は股間をゴソゴソとし、そこからモーニングスターを取り出す!


 すでに前作である畜生転移を読まれている賢明なる読者諸君ならば気付いているだろうが、シバキイーヌだけじゃなく、犬次郎本人も鉄球を持ってるのは当然だった!!


「グルルルルルッ!!」


「「「エッ!?」」」


 唸り声を上げて威嚇する犬次郎に、エスドエムもエムドエズもあんぐり口を開く。


「なにをトチ狂ったことを言ってるんだ貴様ァ!」


「こんなところで決着なわけないだろうがァ!」


「そうですよ! 犬次郎さん! ここは中立地帯ですよ! 暴力はいけません!」


「犬族には関係のない話だ」


 犬次郎は無情にもモーニングスターを振り回したのであーーった!!

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