路上で血塗れになって倒れている巨漢ふたり!!
ボリューミーな七三分けの下から、割れたスイカみてぇに中身が飛び散っていた!!
「や、や、やっちゃった…」
猫五郎の両膝がガクガクと震える。
誰が予想できようか!
敵の首魁が!
戦場でもないこんな場所で!
まさか柴犬に撲殺されて物語が終わってしまうだなんて!!
「やってしまったものは仕方がない」
やっちゃった本人は悪びれもせず、鉄球についた血や肉片を、哀れな被害者の衣服で拭っていた。
「どーするんですか!? 犬次郎さん!」
「埋めるぞ」
「エッ?!」
犬次郎は当たり前のように、車道を出て舗装されていない地面を後ろ足で蹴り始める。
「そんなことで…」
ズッドゴーーンッ!!
「!?」
柴犬の蹴りなんかで大きな穴なんて掘れまいと猫五郎は思っていたのだが、とんでもねー炸裂音と共に、巨大なクレーターが出来上がる!
そう! 犬次郎は最近はやりのチート能力者だったのだ!
最強の柴犬には、こんなこと造作もなかったのであーーる!!
「手伝え。放り込むぞ」
そうは言ったが、犬次郎がエスドエムを蹴ると、ワンバウンドしてクレーターの中にホールインワンする!
頭だけ埋まって、脚だけ逆さに突き出したヘンテコな姿勢だ!
やっぱりエムドエズも同様になり、猫五郎が手伝う必要など微塵もなかった。
「さて、後は埋めるだけだな」
「ま、ま、待って下さいよ! 車が! 車がありますよ!!」
猫五郎は、ふたりが乗っていたクーペを指差す。さすがにクレーターの中に、車までは入りそうにない。
「……そうだな。それは海にでも放り込むか」
「海!? 海ってこの辺なんかには…」
「シバキイーヌで運べばいいだろう」
「いやいや、中立地帯でキグルミ使うのは目立ちすぎますよ! それに…!?」
ちょうど猫五郎が恐れていたことが起った!
ここは一般道!
当然、他の車も通っているのであーーる!
そして今しがた、クーペとジープの後方に、白いセダンがやってきて止まったのだ!!
中から降りてきたのは、人の良さそうな中年夫婦だった!
「大丈夫ですか? もしかして事故ですか?」
「あ、いえ、その…」
まさか殴り殺した遺体を始末してますなどとは言えずに、猫五郎はキョドった!
「大変だ。すぐに救急車と警察を…」
中年男性はガラパゴス携帯を取り出す。こんなSFチックな世界なのに、やっぱり情弱はガラケーなのだ!
「余計なことはするな」
「え?」
犬次郎に睨まれ、中年夫婦はびっくら仰天する。
そして、不自然に盛り上がった路肩の土の方を見やり、やっぱりそこに生じた不自然なクレーターの方も見やっちゃって、中年夫婦のゴマ粒のようなお目々が野球ボール並に大きく見開かれた。
「こ、これは…ブベッ?!」
「き、キャアア…ブベッ?!」
中年夫婦がいきなりブッ飛んで、アスファルトの上を激しく転げる!
これはなぜか!?
簡単な話だ!!
犬次郎が鉄球でブン殴ったからであーる!!
「なにしてんですか!! 善良な一般市民に!!」
「善良な市民ならば、超宇宙のために戦っている男を通報したりはしない…チッ! 電話が繋がってやがる」
通報済であったことを確認し、犬次郎は不愉快そうにガラケーを踏み潰した。
「車も2台になってしまったな。警察もくる。処分している時間はない。さっさと行くぞ」
「に、逃げるんですか!?」
「
どこまでもマイペースな犬次郎に、猫五郎はパクパクと口を開け閉めした。
ファンファンファン!!
そこにタイミングよく警察車両がやってきた!!
「ああ!」
猫五郎は観念して跪く。
「ゴラー! なにしとるかぁ!!」
パトカーから降りてきたのは、強面のブルドッグだった!
言い訳や賄賂は通用しない正義のニオイがプンプンした!!
「き、聞いて下さい! 僕はなにもして…」
「悪いことをしたヤツはだいたいそう言うんだ! ん? …な、なんじゃこりゃー!?」
ブルドッグのゴマ粒みたいなお目々が、メロン玉サイズになってビョーンと飛び出てしまわれた!!
路上に脳味噌を飛び散らかした中年夫婦!
クレーターにス○キヨみたいに逆さにぶっ刺さっているオッサンたち!
凄惨な現場に、そりゃびっくら仰天したのであーーる!!
「じ、事情聴取する! そこな柴犬とバイカラー・キャット! パトカーに乗れい! 乗らねば撃つ!!」
怒り狂ったブルドッグは、ホルスターからM1911A1…通称コルト・ガバメントをスマートにセクシーに引き抜いた!!
「まあ、聞け」
「抵抗するなぁ!!」
「俺たちはテロリストを倒しただけだ」
「!?」「?!」
猫五郎とブルドッグの顔に疑問符が浮かぶ。
「その中年夫婦の懐を見てみろ。拳銃を隠し持っているはずだ」
ブルドッグは「変な真似するなよ」と言い、犬次郎が両手を上げて頷くと、中年夫婦の方を見やる。
「こ、これは…」
中年男性の方は胸ポケットにサイレンサー付のマカロフを、中年女性の方はふくよかな乳房に見せかけた偽装オッパイ銃で武装していたのであーーった!!
「中立地帯で武装だと!?」
ブルドッグの叫びに、犬次郎はそそくさと鉄球を股間に戻す。
もし追求されたら「自前だ」と言い張るつもりだった。
「まさかこれを知っていて……犬次郎さん」
猫五郎は尊敬の眼差しを向ける。
「し、しかしコイツらは一体何者で…」
「簡単な話だ。そこのクレーターに居るのはローション家の大物らしい」
「な、なにぃ!?」
「その夫婦はその暗殺を目論んでいた」
「な、なにぃ!?」
「それを俺たちが阻止しようとした」
「な、なにぃ!?」「えっ?!」
「しかし、残念ながら間に合わずにあの様だ」
犬次郎はクレーターを指差す。
しれっと、犬次郎は自分の犯行をおっかぶせたのであーる!
「ううーむ。確かに真実っぽくはある。しかし、鑑識を呼んで事実を確認せねば…」
犬次郎はポンとブルドッグの肩に手を乗せる。
「同じ犬族だろう。俺のお目々が嘘を言っているように見えるのか?」
強い眼力を発揮する犬次郎。
頭はかなりイッちゃってるが、顔だけ取れば眉目秀麗な美男子だ。それがキリリと真面目な顔をしてるもんだから、そりゃ8割増しで良い男に見えるのは致し方がないのだ!!
イケメソだから柴犬なのか、柴犬だからイケメソなのか……性癖的にはノーマルなブルドッグも、思わず頬を赤らめてしまう程の魅力があーった!!
「……イヌゾク」
「……ウソツカナイ」
猫五郎は「なにがやねん」と思ったが、口には出さなかったのであーーった!!