さて、そんな猫五郎たちからは少し離れ、ここはチブサー帝国の本拠地『サイドシックス69』から、そう遠くない位置にある超宇宙域──
第8手【卍崩し】艦隊。その旗手艦の側面内側から、大爆発が巻き起こる!
艦内は炎と煙が充満し、叫び声や悲鳴が上がった。
そんな中、通路からダダダッと駆けてきた2人の人影。ご都合主義よろしく、廊下に放置されていたコンテナの影にサッと飛び込む。
「どこだ?」「向こうだ! 向こうへ行ったぞ!」
2人を追い掛けて来ていた兵士たちは、「どうして道のド真ん中にある不自然なコンテナを調べないねん!」という読者からのツッコミをフルシカトして、明後日の方に行ってしまった。
「……ったく、厄介な仕事を引き受けたもんだねェ〜」
レーザー銃のエネルギーパックを交換しながら、擬人化チンパンジーが言う。
なぜか彼は赤いハイレグ姿である。しかも股のところはキワドイ急角度だ。無論、股間はモッコリしていた。
「ボヤくなよ。ロリゴスロリ。船長のアンタが受けた仕事だろ」
オカッパみてぇな頭をした、幼稚園児をそのまま大人にしたような、何とも言えないムカつく顔をした人間が言う。
なぜか彼もハイレグだ。ビーチクもうっすら見えて、なんならその周辺の毛までもが浮き出ている。無論、股間はモッコリしていた。
「チッ。俺様としたことが、タバコを切らしちまった。マーくん、1本くれや」
オカッパ……マーくんと言われた男はフッと悪う。
ブサイクがニヒルな格好つけするのを見ると、歯の裏側がむず痒くなるが、この男は常時その思いを他人にさせることに長けていた(本人は無自覚)。
「タバコなんざやめとけ。この小説がネオペを通してコミカライズした時に、センシティブ要素に引っかかるぜ」
「大丈夫だ。この作品はコミカライズどころか書籍化すらもしない」
「それもそうだな」
たいへん作者に失礼なことを言いつつ、マーくんは懐から銀色のシガレットケースを取り出すと、そこから1本取り出して手渡す。
「サンクス。……って、これはなんだ?! 棒状の単なる菓子じゃねぇかよォ!!」
駄菓子屋で鼻タレ小僧が「プハー」って一度はやる定番のアレだった!
「やっぱ、喫煙動作はコンプラ的にな…」
マーくんはタバコ菓子を口に咥えて言う。ロリゴスロリはブン殴ってやりたい衝動を堪えた。
「ったく! イヤな世の中だねェ! テンプラだか、ガ〇プラだか知らねぇが、ここから先はもっとヒデぇ展開になんのによォ!」
敵の足音を確認し、ロリゴスロリもタバコ菓子を咥え、コンテナから顔を出して撃つ!
マーくんも同じようにして撃つが、片目を閉じて、銃を横向きに、妙に格好つけたポーズなのが癪に障る。マジ腹立つ。
ピシュン! ピシュン! ピシュン!
そんなスズメの鳴き声みてぇな音が廊下に響く!
「いたぞ!」「そこだ!」「撃て撃て!」
敵味方、互いのレーザー銃弾が飛び交う!
そして──
「うあッ!」「ぐあッ!」「うんももッ!」
ロリゴスロリとマーくんのレーザーだけが、敵に直撃する!
なぜか? そりゃ今回の主役に弾が当たったら話が終わってしまうがゆえにであーる!
そして、急所である、両胸、股間、尻穴には風穴……ではなく、そこの部位の衣類がピンポイントで焼き焦げて丸見えになっていた!
「「「は、恥ずかしぃ!!」」」
兵士たちは羞恥心から、生娘のようにしゃがみ込んで戦意喪失してしまう!
ちなみに兵士たちはみんな中高年男性だった!
なぜか? いわゆるハードボイルド系なこの話に、女子供は出禁! エロッティとスケベッティとは無縁の、男くせぇ加齢臭ムンムン系だからなのであーる!
「そんなに恥ずかしけりゃ、モザイクでも持って隠しとくんだねェ〜」
ロリゴスロリが懐からモザイクを取り出すと、兵士たちは泣きじゃくりながら、露わになってしまった部位をそれで隠す!
そう! 彼らの持つものは殺傷武器などではなかった!
それは
そして、ロリゴスロリとマーくんは来た道を戻ってダダダッと走り出す!
なぜ走るのか!?
特に意味はないが、何となくカッコいいから走らせる!
そして説明するまでもなく、このレオタードな2人組は超宇宙に名高きコンビであり、“汚物ペア”となどと呼ばれる、超有名な超宇宙傭兵だったのである!!
敵を蹴散らしながら突き進み、やがて辿りついたところはやけにセキュリティが厳しい扉だった。
「ここに居るのかィ?」
「間違いないぜ。先々週の週刊誌に書いてあった、まだホヤホヤ情報だ」
「なら、間違いねぇなァ。開けてくれよォ」
マーくんは扉に脇にあったコンソールボックスを開くと、小型のハッキング端末でパスコード解析を試みるが、画面にでてきた数字の羅列を見て頭痛が痛くなり、端末を蹴り飛ばし、非常脱出用ハンマーでコンソールを殴り付けた。
ボンッ! と、コンソールが小爆発すると、これまたご都合主義よろしく扉が開く!
そこから出てきたのは──
ボーダーコリーを擬人化させた美少女だった!
どんな美少女かといえば──うーん。なんか髪があって、耳があって、お目々があって、口があって、鼻があって……そんな感じの美少女だーった!
「オメェさんが…」
「超連邦の最高指導者の娘…」
ロリゴスロリとマーくんもゴクリと息を呑む。股間も若干膨らんでいた。
「はい。私がコリー姫ですわ」
美少女…コリー姫は、鈴が鳴るような声でそうのたまわった。
余談ではあるが、名前も決めてない超連邦の最高指導者は、たぶん平民生まれの叩き上げの軍人なので、彼女に“姫”なんて称号はつかないのだが、彼女は箱入り娘よろしく、華よ、蝶よと育て上げられてしまったがゆえ、周りがヨイショしすぎて、自分を本当に“姫”と思い込んでいるだけの、頭がお花畑ガールなのであーる。
「俺たちが来た説明は必要かい?」
マーくんが問うのに、コリーは首を横に振る。
「扉を壊して、監禁状態の私をこのように出して下さった。これは救出しに来て下さった以外には考えられませんわ」
前もって準備はしてあったのか、コリーはでっけーボストンバッグをズイッと差し出す。
ロリゴスロリは自分を指差し、「俺が持つの?」と聞くと、コリーは当たり前だと言わんばかりに頷く。まさに箱入り娘である。
不貞腐れたチンパンの顔をして、ロリゴスロリはボストンバッグを担ぐ。
「この戦争は普通の戦争ではありません。そして、それを止めるには…」
「ちょい待ってくれ、お嬢さん。俺たちはアンタの救出を依頼されただけなんだ。戦争なんて知ったことじゃないよ」
「多くの人命が掛かっているのです。それでも知らないと、あなたは見て見ぬふりをして仰るのですか?」
責めるような口調で問われ、さすがのマーくんも少したじろぐ。
「……どうか、お願いです。私をある
「ある
「はい。その彼は救世主。この無益な戦争を止める唯一の存在です」
コリーは祈るかのように両手を組む。
「オイオイ。そんな勝手を言われても困るぜィ」
「ああ。俺たちに興味あるのは、アンタを連れ、超連邦本部に無事に帰ることだけさ」
そう言われ、コリーは悲しげな顔を浮かべる。
「私はチブサー帝国のある秘密を知ってしまいました。だからこそ、このように監禁されていたのです。この秘密を救世主に届けることができさえすれば、戦争は終結させることができます」
電波系なことを言い出すコリーに、ロリゴスロリもマーくんも怪訝そうにした。
「お願いします! お金に意地汚いのでしたら、いくらでもお支払いします! 私をどうか、あの“戦艦モモジリー”まで連れてって下さりやがりませ!」
頼んでいるわりには随分な言い方だったが、金に汚いのが面構えも出ている“汚物ペア”はニヤリと笑った。
「戦争を終わらせるためかィ。そこまで言うなら受けないわけにはいかねぇなァ。……金のためじゃなく」
「これも乗りかかった船だ。平和のため、ひと肌脱いで英雄になるのも悪くねぇ。……いくらでもってのは関係なく」
そう! この2人は見た目だけじゃなく、中身もどうしようもなく汚かったのであーる!
「ありがとうございます! なら、早く脱出しましょう! この艦には今、“最も恐るべき男”が……」
コーポー……コーポー……
言い終わらないうちに、隣の通路の隔壁の先から奇妙な音が響く(隔壁あんのに音なんか聞こえるわけないやろとはツッコんではいけない)。
「き、来ました! “ヤツ”です!」
コリーがやかましく喚くのに、ロリゴスロリもマーくんも何やら、大学入試試験1時間前のような緊張感に突如として襲われる。
「な、なんだィ? このプレッシャーはァ?」
「よく、分からないが……これは遭遇しねぇ方がよさそうだ」
「え?」
ロリゴスロリとマーくんは頷くと、コリーの頭と足首をガシッと掴む。
「き、キャアアッ!!」
2人は丸太でも抱えるようにして、エイヤホイサっと脱出ルートに向かったのであーった!!
☆☆☆
コリーが囚われていた部屋の前で、真っ黒なブーツの爪先がキュッと音を立てる。
そして、黒い革手袋が、ぶっ壊れたコンソールパネルのところにあったカードを取った。
そのカードには、『汚物ペア推参! コリー姫は頂きマッチョマン♡』と書かれ、チンパンとオカッパ男のバカ面が並んで描かれている。
革手袋がカードをグシャリと握り潰す。
「まさか、ワシが査察に来た日に脱走を許すとはな…」
真っ黒なポリバケツを逆さにしたようなヘルメットと仮面、黒衣を纏った背の高い人物が言う。
詰まった小便器の排水みてぇな“コーポー”という呼吸音はここから響いていた。
「……とんでもない失態だな。チクニスト提督」
彼の後ろで肩身狭そうにしていたチクニストは肩を震わせる。描写するまでもなく幸薄そうな、典型的な中年の中間管理職だ。
「も、申し訳ありません! すぐに追っ手を差し向けて……」
「無駄だ。もう間に合わん。もう我々の船に“偽装”した船に乗って、ここから出る所だ」
男はここではないどこかを見て言う。
チクニストは「なぜそんなことが分かるのか?」と不思議そうにしていると、男は人差し指をチッチッチと振る。
「ワシには感じるのだ」
チクニストは「性感帯のことかしら?」と思うた。
「やがて否応なしに相対することになる。それはいい。だが、罪には罰を与えんといかんな」
男は片手を伸ばすと、「フン」と握りしめる動作を行う。チクニストは「妄想で乳でも揉んでるのかしら?」と思うた。
「貴様の実家の部屋にあるPC……随分と厳重なセキュリティロックが掛かっているな」
「え?」
チクニストはお目々を丸くする。
「18禁フォルダの中のカテゴリー『熟女物』か」
「うッ?! な、なぜそれを知って……?」
「ここにある画像をスライドショー形式でスクリーンセーバーに出るように設定した」
「ど、どういうことですか? なにを……?」
「いま、貴様の母親がちょうど部屋の掃除に入ったところだ。今PCを起動させたらどうなるかわかるな?」
チクニストは驚愕し、冷や汗を流す。
「や、やめ…」
「フン!」
まるでここにPCがあるかのように、男は親指でボタンを押す仕草をした。
そして数秒後、チクニストの胸ポケットの携帯が鳴り響く。
「……出た方がいいぞ。息子が、実母と同年代の女性に欲情していると知った時、貴様がどのような言い訳をするのか見物だ」
チクニストは絶望を顔に浮かべ、携帯電話を取ると、男から少し距離を取って電話に出た。
「……も、もしもし。ママ? ち、ちがうんだ。その、パソコンのそれは…友達の借りた…その、うん。いや、違う! あのママのブラジャーは…違うんだって。あれはたまたまボクの下着に紛れこんで……そう。盗ったんじゃない! そう言ったじゃん! オカズになんてしてないよ!」
チクニストのヤベェ言い訳を聞き、彼の人生にピリオドが打たれたことを男は確信する。
「……チブサー帝国に逆らうとどうなるのか。まだ分かっておらん馬鹿どもに、ワシの恐ろしさをとくと味わわせてやるわ」
男の機械音声混じりの笑い声が、超宇宙に木霊したのであーった!
─つづく─