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17 柴犬の威を借る猫

 超地球とサイドキック69とのちょうど真ん中あたりにある、チブサー帝国が保有する最大の拠点要塞惑星が『フェロモン要塞』であーる!


 超連邦は、この鉄壁堅牢なツンデレ女子生徒会長のガードの如き防御力を誇る要塞を、ヌケることができずに歯噛みする日々を送っていたのであーーる!!


 それを知ってか知らずか、モモジリのオートパイロットは、いやはやフェロモン要塞を目指して突っ走っていたのであーーった!!




★★★




 犬次郎の適切迅速な処置により、危機を脱した乗組員たち!


「なんだか悪い夢を見ていたみたいだわさねぇ!」


 正気を取り戻したオ・ウーナがのたまう。


 頭がカチ割れて、心なしかザクロみたいになってモザイクがかかっているが、本人は元気そうなんでなんの問題もない。


「いや、まったく。まだ本調子じゃねぇ感じだぜ」


 ゴリッポが自分の股間をまさぐりながらのたまう。


「それはそうと、ワシらをこんな目に遭わせたあのクソ猫娘はどこにいったんじゃーい!?」


「さっきから姿が見えねえだべさ!」


「ちゃんと落とし前つけさせましょうよ! アタシ以外の雌は磔獄門でもいいわ!」


 猿三郎、ベンザー、雉四郎の畜生どもが騒ぎ出す。


「ま、待って下さい! ミーシャさんの件は僕に任せて下さい! 同じ猫族として!」


「なーに起きて寝言を言っとるんじゃーい! こんな真似しくさった雌猫には、エロッティクな拷問が待ってるっていうのが相場なんじゃーい!!」


 ムラムラを取り戻した猿三郎は鼻息荒く、猫五郎を前後にシェイクする!


「なにかわけがあったハズなんです!」


「わけってなによ! わけがあったらアタシをビッチに変えてもいいっての!?」


 雉四郎が、清楚系ヒロインばりに涙を目尻に溜めてのたまわった。


 元からビッチだろうと誰しもが思ったが、不毛だとあえてツッコまなかった。


「同種族だから同情すんのはわかんべ。そんでもって同情したことで、心に寄り添ったフリして点数稼いで、あわよくばスケベッティなことしてぇちゅー、猫又左衛門の気持ちもよーくわかる! んだけども、エロッティとスケベッティは、皆と共有してからの乱交パーチィーちゅうもんださ!」


 ムラムラを取り戻したベンザーは、やはりトチ狂ったことをのたまわった。


「全然違いますよ! なに言ってんだアンタ!」


 猫五郎は、猿三郎とベンザーという変態の手を振り払う。


「いまはミーシャさんより艦長でしょう! この艦が勝手に動き出した理由を突き止めるためにも、艦長の安否をまずは優先しましょうよ!」


 そうだ。よりもよって、最も先に助けねばならないオキーナ艦長のことを全員が忘れていた。


「確かに猫五郎の言うことも一理ある。ここは…」


 猫五郎をフォローしようとしたゴリッポを、猿三郎が体当たりして突き飛ばし、彼は「キャッ」と言って転げ、床に女座りのままスライディングする。


 読者諸君はもうお気付きだろうが、賢者モードの後遺症で敏感になっていたのだ。


「そんなこと言ってぇ〜!」


「誤魔化そうったってダメだべさ!」


「さっさとあの雌猫をどこに匿ったか言うんじゃ〜!!」


 まったく話し合う余地もない畜生3匹!


「黙れ。この件は猫五郎に一任する」


 今まで黙っていた犬次郎が口を開いた。


「じゃけん! 犬次郎よ!」


「軽々しく俺の名を呼ぶな。あの女が裏切り者なら、俺が頭をカチ割るだけだ」


 拳をパーンとする犬次郎に、誰もがそれが比喩でもなんでもないと察する。


 頷いたオ・ウーナの脳髄が飛び散ったせいで、その言葉の重みがより分かる。


「とりあえずまずは艦長だ。さっきの惑星に戻らせる」


「は? なんでまた?」


「ドックフードを食べ尽くしてしまったからだ。買い直す」


 真顔でそう言う犬次郎に、畜生3匹は閉口する。口を開いた瞬間に殴られるのが分かったからだ。


「さあ、艦長がくたばってないか見に行くぞ」


 犬次郎は踵を返してそうのたまわった。


 その時に見えた!


 見えてしまった!


 犬次郎の尻ポケットに『美味しいお野菜たっぷりスティック』が数本刺さっていることに!


 そして猫五郎の口元がニヤリとなる。


(((わ、賄賂だー!!)))




☆☆☆




 さて、結論から言うとオキーナ艦長は無事だった!


 しかーし、性の髄の髄まで搾り取られ、半ばミイラのようになってしまっていたのだ!


 お目々は虚ろで、口を金魚の如くにパクパクさせているッ!!!


 そして、その周りを際どい水着で踊り狂うゾンビビスたちは、あの女オペレーターたちだ!!


「「「オキーナ(本体)のオキーナ(ムスコ)はオッキーナ♫」」」


 卑猥な歌を披露しつつ、彼女たちはツヤツヤの笑顔でご満悦だった!!


 ちなみに艦長のムスコは限界点をとうに突破して通り越して、いやはや豆モヤシみたいになっていたが(とても “オッキーナ”じゃない)、モザイクでよくわからなかったので、そこら辺の詳しい描写は割愛させて戴くッ!


「艦長…なんて姿に……」


 扉から覗き見て、猫五郎は痛たましそうにする。


「早く助けましょうよ」


「無理だ」


 猫五郎の提案を、犬次郎は無碍に否定する。


「なぜですか!?」


「雑草のストックが切れた」


「は? なら…」


「次のお散歩までこのままだ」


 ここは超宇宙のど真ん中だ。もちろん、すぐにお散歩など望むべくもない。


 バンッ!


「ヒッ!」


 猫五郎はすくみ上がる。扉に今にも死にそうなオキーナが扉に張り付いていたからだ。


「た、助け…」


 『ON』ガチャ!


 …『OFF』ガチャン!


 オキーナはガラス戸に顔を押し当て、懸命に扉のロックを解除しようとするが、犬次郎は首を横に振って外から閉め直したのだ。


 『ON』ガチャ!


 …『OFF』ガチャン!


 『ON』ガチャ!


 …『OFF』ガチャン!


 『ON』ガチャ!


 …『OFF』ガチャン!


 『ON』ガチャ! 


 …『OFF』ガチャン!


「…な、なんで…」


 絶望の色を濃くした瞳でオキーナがそう呟いた時、まるで軍隊蟻の群れの如きゾンビビスに呑み込まれ、扉から引き剥がされて行った!


「ナ厶〜だべ…」


 さしもの畜生ベンザーも手を合わせる。


「ハン! いい薬だわねェ! どの雌餓鬼にもいいカッコしいで、超宇宙の海なんかよりも、女の海で泳ぎたいだなんて言ってたんだからさァ!」


 誰も得しないツンデレのオ・ウーナが、プリプリ怒りながらのたまう。ピンク色の脳髄が辺りに飛び散った。


「しっかし、ブリッジがこの有様だと、艦を動かしたのはここの連中じゃねえってことか?」


 ゴリッポがそう言うのに、猫五郎は怪訝そうにする。


「そんなことあります? 艦長が仮にダメでも、オペレーターさんたちを抜きにして発進だなんて…」


「こりゃあ、エンジンが勝手に動き出したとしか思えんのぉ!!」


「え〜〜〜」


 猿三郎がそう宣うのに、猫五郎は心底、残念なひとを見るかの様な軽蔑のお目々を向けた。


「なんじゃい! そのお目々は!!」


「エンジンが勝手にぃ〜? そんなこと考えられませんよ〜。

 そもそも百歩譲ってエンジンが勝手に始動したとして、制御システムがコントロールルームにあるのに、どうやって動力を伝えて発進するって言うんですかぁ?」


「こ、小馬鹿にしくさった顔で、ワシに横文字で説明するなァァァ!!!」


 猿三郎は血の涙を流して絶叫する!


「いや、その可能性はあるっぺ」


 ベンザーが珍しく真面目な顔をして言う。


「え?」


「この艦は最新型の“HI”…」


「“HI”?」


「カー! 猫田万五郎はなんも知らねぇな! “HッチなIンテリジェンス”の略だっペ。人工知能のことださぁ!」


「それってAIじゃ…」


「……エー…アイ?」


「はい。Aーティフィシャル・Iンテリジェンスの略ですよ」


「……まあ、そういうもんがあるんだべさ」


 ベンザーは自分のミスをしれっとスルーした。


「なら、そのエンジン…いや、機関制御室のAIに操縦権が与えられてるんですか?」


「そうださぁ! そもそも超宇宙に出る科学万能時代! コンピューターで自動制御してて当然でオペレーターも機関士なんてもんも必要ねぇっぺよ! キグルミだって遠隔で動かせんだから、わざわざパイロットが乗って危険な任務に向かう必要もなかっぺよ!」


「な、なに言っちゃってくれてんですか! 色々と世界観が台無しですよ!」


 トンデモ発言をぶち撒けるベンザー!


「とりあえず、エンジンが勝手に始動したんだってことは納得しました。それならエンジンルームに…」


 さっそく猫五郎が行こうとした瞬間、猿三郎が立ち塞がる。


「なんですか?」


「謝れ」


「え?」


「ワシに謝らんかーい!!」


 猫五郎はキョトーンとする。


「なんでですか?」


「は? エンジンが勝手に動き出したってワシの言い分が合っていたじゃろがーい! それを否定して、ワシの心を傷つけたことを心から謝罪せんかーい!」


「はいはい。すみません」


 猫五郎はそっぽを向いて謝った。


「なんじゃその謝り方は!! 全然心がこもっとらんじゃろがー!!」


 猫五郎は耳を指でホジリながら大きくため息をつく。


「……あのですね、いまは非常事態なんです。そんなことどうでもいいじゃないですか」


「こんのクソガキャー!! どうでもいいわけあるかー!! 謝れ! 三つ指揃えて土下座して、ここでワシに謝らんかーい!!」


「おい」


「な、なんじゃい! 犬次郎!」


 犬次郎に話しかけられたことで、猿三郎の気勢が若干削がれる。


「犬次郎さんはどう思います? 僕は謝るべきだと?」


 猫五郎が問うのに、犬次郎は眼を細める。


「猿三郎が悪いな」


「な、なんじゃとぉ!?」


「なんか文句があるのか?」


「い、いや…」


 猫五郎の肩を持つ犬次郎に、猿三郎はびっくら仰天する。


(なんじゃぁ? この駄犬が。媚びぬ引かぬ省みぬの◯帝みたいな、誰の味方もしない無頼漢を気取ってたくせに、一体どういう風の吹き回しじゃい?)


 その時、猿三郎は、どこぞの覗き見大好きな家政婦みたいに見た!


 猫五郎が後ろ手に、カリカリジャーキーを犬次郎に手渡していることに!


(こ、こんのクソ猫がァァァ!! 犬次郎を買収しくさったのかァァァ!! ジャイ○ソのご機嫌とるス○夫やないかーいィィィ!!)


 そう! またしても、猫五郎は犬次郎を餌で釣ったのであーーった!!

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