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19 注文の少ない料理店

 これから否応なしに死地に向かうわけでござったが、猫五郎はその前にミーシャに会いにきたのであーった!!


 死を前にするとなんか子孫を遺そうとする本能だがなんだかが働いて、なんか交尾しようとムラムラするそうだが、まあ、そんな余計なことを言っては猫五郎の名誉に関わるので黙っておくとしよう!!


 あえて言うなら、猫五郎の本体は若干の期待に怒張していたわけではあるが、今回のお話とはまったく関係ないので割愛させて頂く!!


 そして、そんな猫五郎は息を切らせて厨房へとやって来て、食器の並んでる倉庫の棚の方へと飛び込んだのであーった!


「……猫五郎くん」


「ミーシャさん。窮屈な思いをさせてゴメンナサイ」


「ううん。大丈夫よ」


 さてはて、ミーシャはどこぞに隠れていたかというと、そりゃ巨大な寸胴鍋の中だ!! 猫族は液体であるがゆえに鍋の中に収まってしまうのであーーる!!


「でも、見つかるのは時間の問題だわ……」


「大丈夫です! あの人たち馬鹿ですから!」


 猿三郎たちが便器の中や蛍光灯の中を捜しているのを見て、猫五郎は絶対に見つからないことを確信してそうのたまわった! 


「……なんで私なんかを庇ったの?」


 ミーシャは自身の二の腕を強く掴みながら問いかける。


「それは…」


「私はスッパイよ。エロ推進派なの…。ビッチなの…。猫五郎くんのような真面目な規制派が関わってはいけない雌なのよ…」


「そんなことない!」


 猫五郎が声を荒げるのに、ミーシャはびっくら仰天する!


「エロ推進派がなんですか! エロ規制派がなんですか! そんなの僕には関係ない!」


 犬次郎の口癖が、猫五郎に移っていた!


 そう彼は今こう思っていたのだ。犬次郎ほどとは言わずとも、少しは自分の我を通してもいいんじゃなかろうか。そんな権利だって童貞猫にもあるんじゃなかろうか、そんな……


「ナレーションうるさい!」


 はい。すみません。


「ミーシャさん! 聞いて下さい!」


「猫五郎くん…」


「この艦の全員もれなく変態ですよ! もうウンザリです! ぜんぜん規制なんてしてない! 自分のやりたいように、本能の赴くまま行動してる! こんなの動物と同じじゃないですか!! 畜生ですよ!!」


 いや、畜生ですから……


「ナレーションうるさい!」


 はい。すみません。


「そんなくだらない事で命を奪い合うなんて馬鹿げています! そうは思いませんか、ミーシャさん!?」


「お、おう…(グイグイくるわね)」


 若干の熱苦しさを覚えつつミーシャは頷く。


「僕と一緒に…逃げませんか?」


「え?」


「こんな馬鹿みたいな戦争やめて…」


「バカー!!!」


 ベッチチーン!!


「!?」


 ミーシャの平手打ちが炸裂し、猫五郎はほっぺを真っ赤に腫れさせてびっくら仰天する!!


「な、なんで…」


「エロッティやスケベッティから逃げてどうなると思う!?」


 ミーシャは涙を流して訴える!


「そ、そんなの…別に…」


「そう! そうやって見て見ぬふりしてできたのが、青少年の健全な育成計画による不純異性交友の取締りよ!」


「不純異性交遊の取締…?」


「そう。うなじを隠し、スカートの裾の長さを決め、ブルマを廃止し、ジェンダーレスな水着を着させ、プールの四方を壁で覆い、フォークダンスを中止にしたわ…。そうやってありとあらゆる性的な存在を青少年が触れられない様にしたの。結果なにが起きたかわかる?」


「なにが…?」


「究極のHENTAIを生み出したの!」


「究極のHENTAI!?」


「性的に強く抑圧された歪んだ青春を送ってきたメンズたちは、二次元世界の幼女や美少女やお隣のエッチな奥さんしか愛せなくなり、歪みに歪んで童貞を拗らせ、超少子化社会を招いたわ。これだけで超地球の環境は大分悪くなっていたの。でもそれだけじゃない。レディースたちはレディースたちで現実のメンズを幻滅したことから、年収1,000万以上のタワマン住みのイケメソしか愛せなくなったわ。とどのつまり、婚活サイトで売れ残りのアラサー地雷系と化したの。

 これに危機感を懐いた超政府が生み出したのが……アナタも知っている例のヴィールスよ」


「ま、まさか…」


「そう! ゾンビビス・ヴィールス!」


「そんな! なら、超地球をダメにしたのは、人類(畜生含む)ってことじゃないですか!」


「そうなのよ! 超米政府が裏で密約している悪性宇宙人チチタリアンとか、童貞大邪神アンベレベによる特級的な呪具とかは、ディープステート的ななんちゃらが撒き散らしていたの!」


「え?」


「私には全宇宙からの情報がアカシックレコード的に天使的なナンバーっぽいのがダウンロードされてるの! 分かる? これってシンクロニシティなのよ! そこから分かることは、私の言っている事以外は嘘っぱちの陰謀論だってこと! だから私の言ってることは真実なの!」


 途端に胡散臭くなった!!


「うーん! そこはよく分かりませんが、よく分かりました!」


 猫五郎は陰謀論をしれっとかわした!


 悲劇! まさに悲劇!! まさしく悲劇!!!


 陰謀論者は自分が陰謀論を信じていること信じないあまりに、他の陰謀論を叩くのではなかろーか! 他の陰謀論がおかしくても、決してあなたの陰謀論が肯定されることなんてありえないのであーる!!


 ミーシャはスパイであり、またエロ推進派である! エロ推進派はおかしいのが多い! そして他の陰謀論を否定する傾向にある! 

 このことからしても、とどのつまり、ミーシャは陰謀論者だったのだ(帰納法)!


「だからこの戦いからは逃げられないの! エロを規制してはならない! エロッティがあるからこそスケベッティになり、スケベッティをするからこそ人類(畜生を含む)はボンボコと増えて栄えるのよ!! それから逃げるのは、ネオページ小説を読みまくって存在もしていない空想世界のヒロインに恋い焦がれる童貞読者だけよ!」


 なんだかこの小説を読んで下さっている方をディスっている様だが、これはミーシャ個人の感想であり作者は悪くはない! しかし書いている作者の責任もまったくないとは言えないのも多少は然りだろう! なれば、そもそもの発端である童貞自体こそが悪いと言える(弁証法)!


「それはひとまず置いといて……」


「でもそれだけじゃすまないわ! そのことにより恐ろしい弊害が……そう! ムラムラッティが現れるの!」


 猫五郎の台詞を叩き潰す勢いで、ミーシャは鍋縁を叩く!


「猫五郎くん! アナタはもう気付いているハズよ!」


 エロッティが抑えられ、スケベッティが起きないと、溜まりに溜まって、従ってムラムラッティが生じるのだ(演繹法)!


「な、なんか地の文の方で理解したような、やっぱりそうでもなかったような……」


「そう! その優柔不断さこそがムラムラッティ! 好きな女の子を前に押し倒す事もできない……個室の鍋の中にいるビッチを押し倒せない猫五郎くんもやはりムラムラッティの使い手だったのね!」


「さっきからなにをわけの分からんことを言ってるんですか、ミーシャさん! 正気に戻って下さい!」


「私は正気よ! …ハッ!」


 ミーシャは何かに気付いて鍋の中に隠れて蓋をした!


「え? あ…」


「腹減ったっぺよぉ! お腹ペッコペコださぁ!」


 ベンザーが入って来た! ミーシャはそれに気付いて隠れたのであーった!!


「ベンザーさん…」


「お! 寅八丸時貞! オメェさも腹減って厨房さぁ来たか!」


「ええ、まあ…」


 否定したらあらぬ嫌疑をかけられると思った猫五郎はそう答えた。


「しからば待っちょれ。今さ、なにか食いモンを…」


 ベンザーの牛乳瓶みてぇなメガネが寸胴鍋を捉える!


「お! こんなイイトコロに鍋が!」


「あ、ちょっと…」


 ベンザーは猫五郎を押しやり、鍋に手をかける!


「ん? こらぁ重いべ! なんかしらウメェモンが入ってるに違いねぇださぁ!!」


「そんなわけな…」


「ちと待ってろさぁ! 温めなおすべさ!! どっこらショーペンハウアー!!!」


 ベンザーはまるでひとの話を聞かずに鍋を持ち上げ、制止しようとする猫を振り切り、厨房のコンロの上に「よいやっサルトル!!!」と乗っけた!!


「ちょ、止めて下さい! 止めて下さい!!」


「邪魔するでねぇべさ!! 腹が減ったままで、チブサー帝国とは戦えねえべ!!」


 ベンザーはここぞとばかりに畜生らしさを発揮し、オランウータンの推定200〜300キロある握力で猫五郎を押さえる! 必死な猫パンチなんて蚊ほども効かない!


「さあ、火を着けるべさ!」


「や、止めてぇー!」


「ん? なんだ! 餌がまだ〆終わってなかったんだべか! 活きがいいべさ! コノヤロウ!」


 飛び出そうとしてきたミーシャだったか、ベンザーは蓋を押さえつけ(繰り返すが、オランウータンの握力は推定200〜300キロ)、その上に手近にあった漬物石を載せる!!


「着火だっぺぇ!!」


 無情にもコンロに火をつけるベンザー!


 泣き喚く猫五郎! 


 絶叫するミーシャ!


 この後になにがどうなったのかは、読者諸君の想像にお任せしたい所存であーる!!

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