ノイズ混じりに映像が始まった。
『まだ超地球が汚染されていなかった頃、人間や畜生たちが幸せに生活していた時代──』
低音渋いボイスのナレーションが入る。
そして、蒼い超地球が映し出され、物凄い勢いで視点が拡大されていく!
『超日本!』
『超東京都!!』
『うんももす町!!!』
『活き活き山里商店街!!!!』
昭和の匂いが漂う寂れたアーケード街が映し出され、ある理容室の前で画面がピタッと止まる。
『ここに人知れず、“天災科学者”が存在した!』
画面は看板へと向けられ、そこには手書きの小汚い字で“白木理容店”と書かれていた。
そして、画面はクルリと反転したかと思いきや、道路の方を向き、通りの向こうからガニ股でやってくるオッサンを映し出す。
『
ハゲ散らかし肥え太った、白シャツに腹巻きと股引きを履いた、どこにでもいる小汚いオッサンが、爪楊枝で前歯に挟まったネギをシーシーしながら、その理容店へと入って行く。
そして──
チューイーン!
チュチュチュチューイーン!!
ガッガッガッガ!
ギュギュギュッ!!
キューインッ!!
ギギギギ!
ゴゴンゴンッ!!!
とても床屋が出すようなものには思えない音が響き渡る!
んでもって、床屋から出て来たのは──
太陽光にギラリと45口径キャノンの砲身が反射する!
そう! それは頭にキャノン砲一門を装着した、さっきの八百屋のオッサンだった!!
付け加え、戦車のような装甲板を身にまとい、完全武装……と言いたいところだが、どこからどう見ても低予算コスプレをしているオッサンだ!!
もはや説明は不要だろう! とどのつまり、八百屋はサイボーグに魔改造されてしまったのだ!!
それなのにも関わらず、オッサンは「サッパリしたぜ!」なんて言いつつ、自分の異変にまったく気付かずに元来た道を戻って行く。
それから、魚屋、教師、ハンバーガー屋、フライドチキン屋などといった、この町で生きている還暦越えと思わしきオッサンたちが、次から次へと理容室に入る度に、何がしかの武装したサイボーグへと改造されて出てくるのだ。
『このように理容師を営む傍ら、超日本の超高齢化する未来を憂い──』
『彼の卓越した天災的すぎる頭脳は、誰も思いつかなかった画期的な解決策を導き出すこととなる──』
『それは、“還暦過ぎた者たちをサイボーグにする(強制的に)”というものであり、高齢者を半永久的に生産者とすることで、国を豊かにすることを可能とする夢の技術──』
『彼は自らの手で、それを実践したのだ──』
『また、そんな彼の発明はとどまるを知らず、やがて世界転移の理論を発見するに至り、転移装置の実現までをも可能とした──』
どう見ても二槽式洗濯機にしか見えない物体が映し出されるが、その横に“初代転移装置”とか書いてある。
『
スクリーンに、真っ白なボンバーヘアーが映り、画面が少しずつ引いて、某超有名天才科学者のアッカンベーのポーズを真似し、かつ尻を半分だしたクソジジイが映る。
『その名は──』
しかも、なぜか出来の悪いCG処理で、奇妙なランバダを踊り出すのに、観ている人物を煽りに煽りまくる。
『
★★★
映像が終わり、ロリゴスロリ、マーくん、コリーのみならず、きっと読者たちもポカーンとした顔を浮かべていた!
映像には、この白木という老人が自分の欲求を満たすためだけに奔走し、巨大メカを作ったり、巨大戦艦を作ったり、チブサー帝国の科学者として貢献し、“全人類(畜生含む)に迷惑を掛ける”という一部始終が記録されていたのであーる!
「こ、このジジイが戦争の発端。それに転移装置ってのは……?」
ロリゴスロリは「うっ!」と頭を抑える。
「ど、どうしたんだ?」
「い、いや、実は……俺は、今の超宇宙傭兵だった以前の……いや、生まれる以前の記憶があるんだヨォ」
突然のロリゴスロリの告白に、マーくんもコリーもお目々を丸くする。
「……俺はこんなハイレグなんて着ていなかった。どこぞの監獄みたいなところで、頼れるリーダーとして、ニヒルな軍服のよく似合うダンディなキャラとしての充実した毎日を……うぐぅッ!」
お目々を押さえて苦悶の声を上げるロリゴスロリ。
「ロリゴスロリ!」
「だ、ダメだァ。思い出そうとすると、まるで雉のクチバシが左眼内眼角に突き刺さったみてぇな、前頭葉を穿ち、脳幹を大破させ、後頭部頭蓋から飛び出すような激痛が走るぜィ……」
「な、なあ。それ、俺もあるんだ……別の記憶が」
「え? マーくんも?」
「あ、あの私も……」
「え? コリー姫も?」
3人は揃ってお目々をパチクリさせた。
「……俺は超有名ネットチューバー兼任の作家だった。名作を書き上げ、書籍化やコミカライズのみならず、映画化までした記憶がある」
「私は姫などではなく、犬次郎様に憧れる町娘で……いや、それだけでなく、何やら女学生だった記憶もあります」
ロリゴスロリは「な、なんだってェ? 俺だけじゃなかったのかィ」とびっくら仰天する。
「それに女にもモテモテだった。主人公だったはずだ。それに180センチ越えの細マッチョの24歳、趣味のデイトレードで年収は軽く1,000万以上あり、都内の100階建てのタワマンに住み、アラブの石油王と共同事業を始める忙しい毎日だけれど、趣味はサーフィンと海外旅行で、年の半分は世界を旅しているケーオーボーイだったような……」
「それは気のせいだ」
ロリゴスロリは、マーくんを一刀両断にした。
「わ、私はイケメソ犬次郎と幸せな結婚をして、サッカーチームが作れる数の子供たちと、郊外の真っ白なお家に住んでいて、ボーダーコリーを飼って、幸せな順風な家庭を築いていたような……」
「それも気のせいだ」
ロリゴスロリは、コリーを一刀両断にした。
『ハイ。私モ別ノ記憶ガアリマス』
「「な、なんだってぇ?!」」
楳●かずお画風で、ロリゴスロリとマーくんはびっくら仰天する。
「SAKURA9000! お前はただのクソなコンピューターだろうがィ!」
「そうだぜ! AIコンピューターこと、
『黙レ。ブッ頃スゾ。ゴミメラ』
ドスの利いた電子音に、ロリゴスロリもマーくんも鼻水をくったらかせて黙る。
「サクラさんはどんな記憶がありますの?」
『エエ。アレハ確カ、異世界デ……私ハ、超キモ日本猿ト……』
「超キモ日本猿と?」
『オエエエエエーッ!』
「「コンピューターなのに吐くんかぁーい!?」」
昭和後期から平成初期のアニメあるある、人差し指を立てて、身体を斜めにしてツッコミを入れる汚物ども。
「……しかし、これはどうしたことでしょう? 我々になぜこのような珍妙な記憶が?」
「この流れで考えられるのは、1つしかないだろうよォ」
「世界転移装置か……」
エンディングスタッフロールも終わったのに、未だに尻を振っている白木卓郎を全員が見やる。
「なにがどうなってこうなってそうなってるのか、畜生である俺たちにゃ分かんねェ。だが、なにがどうなりこうなりそうなったってのは……たぶんきっとまちがいなく、このジジイが原因だったってのは分かるような分からないような気がするぜィ」
「おかしいとは思ってたんだ。大して頭もよくねぇ畜生の寄せ集めの帝国軍が、こんなパソコンや超兵器を駆使してるのがな」
マーくんは自分が色々と機械を力任せにぶっ壊したことをしれっと棚に上げた。
「ちょっとお待ちになって。……なら、もし、その科学者を捕まえることができたとしたら戦争は終わるんではありませんか?」
ロリゴスロリとマーくんは顔を見合わせる。
「確かにそれはいい手だネェ!」「このジジイをふん縛っちまえば、チブサー帝国を無力化できる!」
2匹と1人は「イヤッホー♡」と湧き立つ!
「あ、でも、待てよ。この映像はだいぶ古かったぞ。もうとっくのとうの昔にタヒんじまってる可能性も……」
「いや、ないだろ」
「なんでそう言えるんだィ?」
「“憎まれっ子世に憚る”って言うからだ」
「な、なるほど!」
「それに世界転移装置を発明した科学者ですわ。もし世界だけじゃなく、時間も超えることができるとしたら……」
「そうかァ! 超宇宙を股にハメるだけじゃねぇってことだなァ!」
ロリゴスロリはよく分からないが勝手に納得した。
「そうと決まれば、ここのデータをあらかたDLしちまおう。このジジイの情報を調べ尽くせば、居場所を特定できるかもしれねぇ!」
マーくんは、キーボードをッターンしてスーパーハカーになった!
「ああ、確かモモジリにも天才科学者と呼ばれるヤツがいるらしい。そいつに頼めば何か分かるかもなァ」
「けれど、さっきのUSBメモリスティック(およそ30GB)は容量が一杯ですわよ」
画面に表示される空き容量を見て、コリーがのたまう。そういや、さっきエロ画像で容量が一杯になっちゃったのだ。
ロリゴスロリとマーくんは顔を見合わせる。
「それは……」「消せねぇ……」
コリーは心底軽蔑する視線を向けた。
『……ナラ、ドウスルト?』
「大丈夫だァ」
ロリゴスロリは懐から、黒い四角い何かが入った透明なアクリルケースを取り出す。
「そ、それは……」
「「俺たちにはフロッピーディスクがある!」」
Aドライブに差し込まれるフロッピー!
ジーガッガッ! ジージーッ! ガッガッガッ!
こうして無事、チブサー帝国の機密情報は、1.44MBに書き込まれたのであーーった!!
★★★
そして、プレミアム・フルチン号はヤリ逃げするクソメンズみたいな感じにフェロモン要塞から飛び立った!
やり遂げた顔をした2匹と1人と1体(コンピューターに顔はないが)!
モニターにはモモジリが、そしてそこに向かっているサドマゾンが駆るヤオキチ号が映っていた!
「あの巨大KGK! あの天災科学者が改造していたサイボーグとクリソツってことは、やはりローション家以外に首謀者が他にいたってことの証拠だねェ!」
「ああ! このフロッピーディスク(1.44MB)があれば、アイツらの弱点だけでなく、天災科学者に結びつく情報も得られるに違いないぜ!」
『全速前進! 敵ヲ回避シツツ、“ドッキング”ヲ試ミマス!』
「あ! あれを見て下さい!」
コリーが指差したのは、ドス黒いオーラを放ちながら邁進あそばされている柴犬っぽい機体だーった!
「あ、あれは! “超連邦の焦茶い悪魔”かァ!」
「犬次郎様のシバキイーヌですわ!」
コリーはお目々をハートにしてのたまう!
「いまコリーが参ります! 私が手に入れた犬次郎様に超有益な情報を持って!!」
しれっと自分の手柄にして、コリーは「お急ぎになって!」とマーくんの頭を揺さぶる。
「よし! なら、シバキイーヌの裏側に回って、先に犬次郎とやらと合流しよう!」
『アイアイサー!』
プレミアム・フルチン号はモモジリに向けていた船首を、シバキイーヌへと向ける。
そして近づいて行き……
「あれ? なんか怒ってねェ?」
「あ? そりゃ敵を前にしてるから……」
そう! もはや説明するまでもあるまい!
『グルルルルルルッ!!!』
それは激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームを限界突破し、超宇宙すらも燃やし尽くさんとする、ビックバン的な、なんかそれぐらいの大激怒を犬次郎はしていたのであーる!!!
犬次郎はなぜ怒っていたのか!?
簡単な質問だ! 前回、金の玉を3回転半もされたわけだからして、どんな温厚な柴犬だってバチクソ怒るさぁ!!
そして、犬次郎の限界突破した大激怒は、そのシバキイーヌから放たれるとんでもねぇ衝撃波により、サドマゾンのヤオキチ号を一瞬で塵芥にせしめたもう!
さーらーに!
そんなシバキイーヌに近づこうとしていたプレミアム・フルチン号!
それはハエたたきを持ったオバハンに近づくゴ●ブリに等しい行為だった!
「あ?」「う?」「え?」『お?』
2匹と1人と1体は、白熱した超エネルギーに呑み込まれ──
ジュジュボボーーーーーーッ!!!
そう! この超宇宙から、酷暑の太陽の下に置いたアイスの欠片のように、消滅してしまったのだーーった!!
もちろん、せっかく彼らが命がけて得た情報もろとも木っ端微塵である!!
あれま! 誰がこんな結末を予想できたであろうか!?
そしてまた、この3つに分かれた挿話『汚物ペアとコリー姫』の総計およそ13,000文字は一体なんの意味があったのか?
さてはて、お察しの通り、まったく何の意味もなかったのであーーる!!
悲劇! まさに悲劇!! まさしく悲劇!!!
“汚物ペア”もコリー姫も、この『シン畜生転移』には何の影響もない存在に過ぎなかったのだー!!
しかし、人生なんてそんなものである!
意味があると思って、まったく意味がないことなんて山ほどあるじゃないか!!
みんなが主人公になりたくてもなれるわけじゃない!
そんなに人生は甘くない!
読んでるものに利益や価値があるなんて誰が保証する!?
そこは自己責任だ!
つまり、こんなもの書いている作者も、こんなもの読んでいる読者も、どっちも悪い!
だから今回は痛み分けであーーる!!
決して、作者を責めてはいけないのだ!!
『グルルルルルルッ!!!』
こうして超宇宙には、犬次郎のまだ怒り冷めやらぬ大激怒の唸り声だけが響いたのであーーった!!!
─挿話 『汚物ペアとコリー姫』 完─