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29 麻呂植上時端芽

 バチバチッ! バチバチバチッ!


 辺りに放電が迸り、クレーターのよう地面が円形にへこみ、その中央に1匹の全裸が立膝ポーズで佇んでいた!


「う……こ、ここは?」


 顔を上げたのは、猫五郎であった!


「この見慣れない景色……本当に異世界に?」


『その通りだ!!!』


「うあッ!?」


 突如として、ステータスオープンしたみたいに空間に現れるゴッデムの顔に、猫五郎はびっくら仰天する!


『しかもただの異世界ではない! 過去の異世界なのだ!!』


「過去の異世界……。犬次郎さんが魔神の陰嚢玉を手にする前の……」


『その通りだ! 君に与えるミッションは、犬次郎がチート武器を手にするのを阻止する事だ! これが上手くいけば、最悪の未来は改変され、我々は滅びることもなく、俺自身も神として返り咲くことができる!!』


「なるほど。でも、全裸なのは……」


『仕様だ! この先の手順を省略するために、服はくれてやる!』


 バチバチと放電が現れたかと思いきや、青い服がその場にパサッと落ちる。


「なぜにジャージ? しかも名前のところに“ゴッデム”って刺繍してあるんですけど」


 すこぶるダサいと言いそうになったのを我慢しつつ、それでも猫五郎は服を着る。


「それに他の皆さんは? ミーシャさんも、ゴリッポさんも。オキーナ艦長、アール・バイターもいませんが…」


 猿三郎と雉四郎、オ・ウーナ、ベンザーの名前が呼ばれなかったのに、常日頃の評価が如実に表れていた!


『そりゃここに居たら歴史がおかしくなるからな! 奴らは居るべきところへ居る! 会いたきゃ捜すがいい! 捜せ! 畜生のすべてをそこに置いてきた!!』


「タイムパラドックス的な? なら、これってタイムリープなんじゃ?」


『そんな専門的なことはよくわからん!』


「はあ? なんて無責任な……」


『それと武器だな! 棒切れと50円だなんてしみったれたモンは渡さん! さあさ! 受け取れい! 伝説の剣だ!! あと、支度金の5,000円だ!!』


 突如として、ゴージャスチックな黄金の両手剣が現れる!! その横に5,000円札がハラリと落ちた!!


「ジャージに大剣って……」


 なんともミスマッチな感じに、猫五郎は閉口する。


「それに、武器が必要って、これは危険な場所なんじゃ……」


『では健闘を祈る! アディオス!!』


「ちょっと待って下さいよ!!」


 猫五郎の制止も虚しく、お袋が酒かっくらって眠った親父の深夜テレビでも消すように、ゴッデムは無情にも通信を閉じたのであーった!


「……あんまりだ。僕ひとりでこれから何をしろと」


 嘆息する猫五郎の視界の端に何かが映る。


「あれは……城? え? でも、西洋の城じゃなくない?」


 森の中に佇む巨大な建造物。黒と白を基調とし、頂上に君臨するシャチホコや、入母屋造の本瓦葺屋根……そう! 城は城でも和風の城なのであーーった!!


 猫五郎が側にあった農村の方を見やると、藁葺屋根の木造建築ばかりで、年寄りが桶から下肥(人糞)を畑にばら撒いていた!!


「異世界どころか、これって昔の超日本なんじゃ……」


 パカラッ!! パカラッ!!


「え?」


 なんだか変な足音にびっくら仰天して振り返ると、そこに白馬に乗った王子様……ではなくて、白い紋付き袴に大銀杏髷を結った“上様”がご登場あそばされた!!


「……」


「妖しい奴におじゃるな!」


 甲高い声でそう叫ぶ!


 「お前に言われたくねぇよ」と猫五郎が言いそうになったのは言うまでもない!


「……おじゃる?」


 よく見たくはなかったが、よく見てみると、その顔は白粉で真っ白になっており、まん丸の眉におちょぼ口の紅にお歯黒……とどのつまり、そりゃバ○殿風だったのであーる!!


「おほぉん! 頭が高ぁい! 麻呂は時の大将軍、麻呂植上時端芽まろのうえのかみときはめにおじゃるぞ!!」


 印籠を取り出して「カァー!」と御威光をお示しあそばされる!!


 あいや! よく見たら乗ってる馬はアルパカなのであーった!!


「……すみません。まず、武家なのか公家なのか、将軍なのか副将軍なのか、そこをハッキリしてもらえませんか?」


 猫五郎はウンザリした顔でそうのたまわったのであーーった!!

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