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30 鬼キル隊

「……かくかくしかじか、まるまるうまうま……と、麻呂は悪しき鬼どもを調伏せしめるために旅に出たわけにおじゃる」


「……はあ」


 時端芽ときはめの説明を小1時間ばかり聞いたのだが、猫五郎はそれでもサッパリ意味が分からなかったのであーる!!


 ゆえに読者がわからなくても、なんら問題ナッシングなのだ!!


「えーと、将軍が?」


「大将軍におじゃる」


 猫五郎はイラッとした。


「……大将軍が?」


「超幕府、征夷関白大将軍におじゃる」


 時端芽は、視界の端にある城を指さして「あれ、麻呂の城」とのたまう。猫五郎はさらにイラッとした。


「なにかがゴッチャになってる気もしますが、とにかく、超日本で一番偉い人が鬼討伐を……?」


「なぬ? 偉ければ働かなくてよいとな!? キェー! そんなわけおじゃるかぁ!!」


「えっ!?」


 突然、奇声を上げてジャパニーズソードを抜き放つ時端芽にござった!!


「偉いからこそ、『大将軍すご〜い♡ 国のトップってなだけじゃなく、鬼まで倒しちゃうなんて素敵! 感激♡』とキャバ嬢に褒めそやされんが為に、麻呂はいかなる犠牲も厭わぬ覚悟!」


「わ、分かりましたから! 刀をしまって!」


 タイムリープ早々に、とんでもねぇヤベェ奴に当たったことを、猫五郎は心底ガッカリするのであーった!


「おほん! …それで、麻呂は愛馬の“パカ之進のしん”と共に城を出たわけにおじゃる」


(やっぱ馬じゃないじゃん…)


 時端芽は刀をしまうと、そこら辺の草を喰いまくってるアルパカの頭を撫でる。


「して、その格好からして、其方そのほうも“鬼キル隊”でおじゃるか?」


「格好って、僕はジャージに大剣なんですけど……って、“鬼キル隊”ってなんなんですか!?」


「その名の通り、麻呂のように鬼を調伏せしめる鬼ハンター+ハンター的な組織の通称におじゃる」


「組織? 組織にしたってなんて呼びづらいですね。どうせなら、“鬼殺……」


「おだまりゃぁッ!」


 突然、怒り狂う時端芽に、猫五郎はびっくら仰天する!


「その名で呼んではならぬ! パクリだと思われるがゆえに!」


「パクリって……」


「“鬼キル隊”におじゃる!」


「は、はぁ……」


 なんか得心がいかない猫五郎であーる!


「それに其方が持ちしは、伝説の剣…ヴァイブセイバーではないかえ?」


「えっ!?」


 猫五郎は、自分の金の剣を見やってびっくら仰天する!


「ヴァイブセイバーを知ってるんですか? でも、形状が違うし……え? これって?」


 きっとゴッデムがなんやかんやとやって、あれがそうしてこうして、この金の剣になったんだろうが、そんなの勝手に察してくれればいいのであーる!


「選ばれしムラムラッティの戦士にしか扱えぬ剣におじゃる。義務教育で習うことぞえ」


「そ、そうなんですか?」


「常識中の常識」


 猫五郎はブチ切れそうになった。


「な、なるほど……」


 こんなもの義務教育で習ってたまるかと思いつつも、相手の神経を逆なでしないように猫五郎は無難にそうのたまわった!


「そして、ちょうどな、そこな村に“商売の鬼”が居ると聞き及んで、参上つかまつっておじゃる」


 時端芽は扇子の先で、下肥(人糞)を撒き散らかしている老人がいる村を示す。


「じゃあ、その鬼も討伐の対象で……?」


「左様。其方と出会ったのもなにがしかの縁。大将軍として命ずる。麻呂に随伴し、鬼討伐を手伝ってたもれ」


「え? そんな暇は……でも待てよ。確かオキーナ艦長は鬼退治がどうこう言っていたな」


 猫五郎は主人公らしい独り言で状況を整理する。


「そうだ! アール・バイター……塵太郎は鬼退治させるために産まれたとかなんとか言っていた。心底どうでもいい情報だったんでうろ覚えだけれども」


 悲劇! まさに悲劇!! まさしく悲劇!!!


 肝心要な情報だったのに、あまりにブッ飛んだ話だったので、猫五郎の記憶の片隅に消しゴムのカスぐらいしか残ってなかったのであーーる!!


「なにを独りでブツブツと言っておじゃるかえ?」


「わかりました! 僕は時端芽さんに付いて行きます!」


 もしかしたら犬次郎を見つける手がかりになるかも知れないと、あいや、これまた猫五郎は思ったのだ!


「……ん〜」


「?」


「違う。違うなぁ〜」


「違う?」


 唇をすぼませ、時端芽は嫌そうに首を傾げる。そのムカツク顔に、猫五郎は思わずブン殴りそうになった。


「なにが違うと?」


「“様”」


「は?」


「時端芽“様”」


「……」


「麻呂は、やんごとなき雅な麻呂におじゃるぞ」


 どこぞの教育テレビに出てきそうなお子様みたいなことを言い出す大将軍!


「よもや麻呂を立てずに、鬼退治とな!?」


 なぜか猫五郎はエロッティ画像を提供しなければならない気がした!


「……」


「……」


「……アイー…」


「分かりました! 分かりましたから!!」


 アゴを伸ばして、片手を水平にした段階で猫五郎は慌てて止めに入る!


「時端芽……様」


「……なんか無理してない?」


「いいえ」


「よろしい! では、あの村に参ろうかのぅ!」


「……はぁ」


「ヒームヒムヒムヒム!!」


 アルパカが某忍者アニメの忍犬の笑いに似た声を上げたのを見て、前途は多難であると察し、猫五郎はドッと疲れが増したのであーーった!!

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