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31 クソジジイ

 その村は、そりゃ特筆すべきこともなき農村であーった!


 しかし、猫五郎は村の中に入った瞬間に異臭に顔をしかめる!


 ビシャァーッ! ビシャァーッ!


 なぜなら、やや遠くの畑で、ジジイが一心不乱に、未だに桶から下肥(人糞)を撒き散らかしていたのであーる!


「や、やりすぎじゃね?」


 なんなら肥溜めでも作りそうなほどに撒き散らかされた汚物に、猫五郎は疑問を呈する。


「そこな農民。ちと、聞きたいことがおじゃる」


 そんな事より、マイ・ウェイを突き進む時端芽公は、道行く田吾作っぽい農民に声を掛ける。


「聞きたいこと?」


「左様。話しかけられて名誉と思いたまえ」


「はぁ?」


 下々の者に気さくに話しかける大将軍。器の大きさが素敵と思われるが、パカ之進に写真を撮らせて当然アンベレグラム(写真や動画を投稿するSNS)にアップするつもりなのであーる! これでお気にのキャバ嬢の好感度も爆上がりなのであーった!


「うむ。この辺りで“商売の鬼”なる物の怪が出ると聞いておじゃる。なにか知らぬかえ?」


「商売の鬼? あーあ、白木しらきのジイサンのことか?」


 猫五郎も時端芽もびっくら仰天する。まさか聞き込み1発目で正解を引き当てるとは思いもしなかったからであーる!


「そ、その白木って人は……?」


「ほれ、畑で肥料やってるヤツいるだろ。アイツだよ」


 畑で下肥(人糞)を楽しそうにご機嫌でぶち撒けてる老人を指差す。


「まさか! あれが鬼ですか? どうもそんな風には……」


 とても鬼なんて呼ばれる感じには見えない。ほっかむりが溢れんばかりの頭髪で爆発したかのような異様なボリュームになっている以外は、どこにでもいそうな普通の老人だった。


「と、とにかく話しかけてみて……」


「ダメだ! 近づいちゃなんね!」


 農民が青い顔をして、猫五郎の肩を掴む。


「なんで? やはり危険な……」


「いや、いま話しかけたらウ○コをぶっかけられるぞ!」


「……は?」


「声を掛けてきた相手に振り向きざまに、柄杓ひしゃくのモノをぶっかける……これが世界のスタンダードだ」


 真剣な顔をしてそう言う農民に、時端芽も「基本におじゃるな」と首肯する。


「そんなコントみたいなこと……」


「悪いことは言わねぇ。肥料が撒き終わるまで待つか、先に販売所んとこ行け」


「販売所?」


「そうだ。そこで白木のジイサンがなんで商売の鬼と呼ばれてるか知ることが……! んんッ! マズイ! ヤツに気付かれたぞ!!」


「えッ!?」


 農民の視線の先に合わせ、猫五郎はびっくら仰天する!


 なぜならば、さっきまで畑の方向を見やっていた白木が、こちらの方を見てニタァと笑っていたからだ!!


「ま、まさか……」


 猫五郎の嫌な予感は当たった!


 白木はゆっくりと柄杓を桶の中に突っ込むと、やたら粘度の高い茶色い物体をグルリと入念にかき混ぜる。それはより底に溜まった“濃いもの”を取り出そうとするかのように!


 そして、タップリと掬い上げると、それをテニスのスマッシュでもするかのように勢いよく放り投げた!! それも猫五郎たちがいる方にめがけて!!


 ビッシャァーッ!!!


「「「「ギャアアアッ!!」」」」


 猫五郎、時端芽、パカ之進、農民は悲鳴を上げて逃げ惑う!!


「なんでこんなことを!?」


「ネタ振りに失敗したから、強制的にお笑いを取りにきやがったんだ!!」


「意味が分からないんですけどぉ!!?」


「あいや! 追い掛けてくるでおじゃる! はよ、逃げるぞえ!」


「あ! ズルい!」


 時端芽はパカ之進に跨り、「そいやっさぁ!」と、我先にと逃げ出す!


「はよ、逃げれぇ! ぐわあッ!」


 ここぞというタイミングでスッ転ぶ農民!


「農民さん!!」


「お、俺に構わず行くだ! 村の裏手に販売所がある! そこまで行けば……あッ! ギャアアアッ!!」


 ビッシャァーッ!!!


 農民は糞便まみれにされた!!


「なんてことを!!」


 猫五郎は泣く泣く、その場を走り去ったのであーった!!

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