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32 美少女マシュマロ農法

 さてはて、糞かけジジイから辛くも逃れた猫五郎たちは、村の裏手の販売所に向かったのであーった!!


「な、なんだこの行列は!?」


 猫五郎がびっくら仰天するのも無理はねぇ! なぜならば、イベント日のパチ屋や某有名ラーメン店に長蛇の列ができるがごとく、こんな寒村に数キロに渡るとんでもねぇ人だかりができたからであーーる!! みんな繋げてしまいたーい!!


「なんぞ、これは!?」


「ヒームヒムヒムヒム!?」


 時端芽もパカ之進もびっくら仰天する!


「ドゥフドゥフ! ヤマダ氏、まったくもって楽しみでありますなぁーw」


「然り然り。サトウ氏。拙者、この即売会が待ち遠しくて、夜しか眠られなかった次第w」


「プヒッーw ちゃんと寝てるでありますなwww」


 先頭列に並んだキモオタが、キモいやりとりをしていた!!


「いったいなにを…」


「あ! 割り込みは許さんでござるぞ!!」


 近寄った猫五郎たちに、オタクたちは汗だくの顔で抗議申し立てる!


「い、いや、なにを売っているか見たいだけで…」


「そうでござったか! 失敬失敬! ということはなにをやってるかも知らないと?」


「ええ。僕たちはこの村に来たばかりですし……」


「なるほどなるほど。そう珍しいものでもないですぞ。拙者らは“野菜”を買いに来ただけですからな」


「野菜…?」


 猫五郎が顔に疑問符を浮かべた時、ガランガランと鐘音がして並んでいたオタクどもがザワつく!


「キター!」「キタコレー!」


 拡声器を持ち、頭に『魔族』と書かれたバンダナを巻いたやけに顔色が悪く、耳が尖った長身の男が販売所のワゴンに立つ!


「さあ、販売を始めるよ! お釣りはないからね! 入札は万単位! ちゃんと万札の用意はできたかなぁ!?」


 懐から手馴れた手付きで、スチャッと万札を取り出すオタクたち!


「よーし! まずは大根だぁ!! 『KGK61』のセンター、ヤオミちゃんの愛情がたっぷり詰まった大根だぁ!!!」


 顔色の悪い男は、片手にぶっとい大根を持ち上げて叫んだ!!


「1万!」「2万!」「いやいや、5万!」「なんの8万!!」「いや、10万でござるぅ!!」


 突如として始まる競り! なんのために並んでいたかわからんぐらいに、周囲はしっちゃかめっちゃかであーる!!


「あんな大根なんでそんな金を……ああ!?」


 猫五郎は気づく!


 それは大根に顔写真が貼り付けてあったのだ!


 そう! 普通はなんか農業経営者が「私が作りました」とか書いてある近影が一般的だろうが、そうではなくて、アイドルみてぇな美少女のブロマイドであったのだぁー!!


「村興しのため、農作物のパッケージに、萌え絵を貼って成功したという例があるのは聞き及んでいたでおじゃるが……」


 時端芽は上級国民のくせに、意外とミーハー知識があったのであーった!!


「でも金額が異常……」


「110万!」


「110万?!」


「110万! 他には居ないか!? 居ないね!? はい! 110万で決定!!」


 ガランガランと鐘音が鳴り響く!


 110万を出したオタクはガッツポーズを取り、他のオタクたちは悔しそうに地面を殴りつけて男泣きする!


「大根1本が100万超え!? おかしいですよ!」


「まさにバブル絶頂におじゃるな!」


「バブルはもっともっと後ですよ! いまは文明開化すらしてないでしょ!」


 時端芽は不服そうに、「南蛮文化とりいれてるもん」とガラケーをパカパカさせる! 


「しかし、なぜにそんな高値で……」


「ほほう。なぜ拙者が大枚をはたいてこの大根を買ったのか疑問を抱いていると?」


 大根を競り落としたオタクがニヤリと笑って、メガネをクイクイさせた。猫五郎はブン殴りそうになった。


「簡単にござる! コレはヤオミちゃんのマシュマロによって育てられた野菜であるがゆえ、それだけの価値があるのでござーる!!」


 そう言って、オタクは大根にヤベェー顔で頬ずりする!!


「マシュマロ?」


「……ん? そういえば聞いたことがあるでおじゃる。アイドルはウ○コをしない。出るのはマシュマロである、とな」


「え?」


 時端芽にそんなことを言われて、猫五郎はアイドルがマシュマロをポコポコ生んでる姿を思い浮かべた!


「ということは、つまり……美少女の下肥……排泄物で……」


「排泄物とか言うな! これは下肥とかそうチャチなものじゃ断じてねぇ! もっと可愛いものの片鱗を味わったものなのだ!!」


「なにを言ってるか分からねーんですが、しかし、つまりその写真の人の“出した”もので育てた野菜……」


 猫五郎は吐き気を覚えた。そりゃ昔の超日本では、肥料にそういったものを使ってたのは知識としては存じ上げておりましたが、まさかそれを生み出した当人の写真を貼って売り出すだなんて夢にも思わなんだからであーーる!!


「左様! つまり、この大根はほとんどヤオミちゃんと言って過言ではなし!!」


 繰り返し大根に接吻するオタク! なんか若干、茶色いのがポツポツついていたが……猫五郎はあれは泥なんだと思い込むことにした!


「なにがどうなってそうなるのか、さっぱり僕には理解できないんですが……」


「麻呂もでおじゃ……むむ! あの美少女のゴボウ! 麻呂好みの清楚系オリエンタル的なエキゾチックな美少女におじゃる! ほう♡

 待てい! 麻呂も金子きんすを出す…現在50万とな? 戯けるな! 安すぎるわ! 麻呂は500万出すででおじゃーる!!」


 突如として豹変して札束をだす大将軍! バブリーなセレブリティの登場に、オタクどころか販売員もびっくら仰天した!!


「止めて下さいよ! そんな事にし来たんじゃ……ってか、“商売の鬼”って、もしかしてこれで荒稼ぎしてるってだけじゃ……」


「む? 商売の鬼……だと? まさか“アルブス・アルボル”様の噂を聞いてここに来たのかい?」


 500万を受け取った顔色の悪い販売員が尋ねてくる!


「“アルブス・アルボル”?」


「ん? そうか。異世界での呼び名は違ったな。“タクゾウ・シラキ”様のことだ」


「“シラキ”? ま、まさか、さっきの糞かけジジイのこと…?」


「糞かけジジイとは失礼千万! 私たちの世界では、アルブスアルボル様と呼ばれている……魔界のゴッドだぞ!!」


「え!? ま、魔界の神…」


「そうだ! “美少女マシュマロ農法”を生み出した魔界の神だ!!!」


「えーー!!??」


 なんと、糞かけジジイの正体は鬼ではなく、魔界の神だったのであーーった!!

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