「それ以上やると、その男が死んでしまうよ。今なら、見逃してやる。とっとと失せろ!」
よく見えないが誰かが助けに来てくれたみたいだ。
助かった?
「なんだてめえもこいつみたいになりたいのか?」
二人は俺から離れ、助けに来てくれた男に詰め寄る。
まずい!
俺は身体中の痛みを無視して近くの男の後ろからタックルする。俺たちが地面でもみ合っていると、もう一人の男が悲鳴をあげて逃げて行く。
助けに入ってくれた男は、俺に覆いかぶさっている男の首根っこを片手で引っ張り引き離した。
構図が先ほどと逆の二対一となり、男はさっさと逃げて行った。
「大丈夫かね。キヨさんよ」
男は汗ひとつかいていなかった。
「ありがとうございます。あなたは!」
男ではなかった。朝と同じ様に帽子を深く被った美少年風な女性。
「確か、アレックス」
「おや、僕は君にその名前で呼ぶことを許した覚えはないがね。しかし、君も馬鹿な事をする」
その動きの一つ一つが芝居かかっている。
「力無き勇気はただの無謀だよ。自分の力を良くわきまえるべきだよ。今回で君のすべき事は力ある僕ら警備隊を真っ先に呼ぶべきだ!」
先程、男を撃退した時、こいつは魔法を使っていた様に見えなかった。魔法無しの技量でも男に勝るのだろう。そんな奴に言わせれば確かにそうだが、なんかこいつに言われると腹が立つ。
「悪かった。確かに俺は無力だ。次からはそうする。ちなみにあの女性は無事か?」
アレックスは帽子を深く被り直した。
「当然だ。我々の方で保護した」
「そうか、……ありがとう。助かった。俺はもう行っていいか?」
あまり遅くなるとレイティアが心配してしまう。
俺は服についた汚れをはたく。
「手当はしなくていいのかね?」
「大丈夫だ」
なんとなくこれ以上こいつに借りを作りたくなかった。
「そうか、それならせめてこれを持って行きたまえ」
そう言って白にバラの刺繍をしたハンカチを俺に渡す。
「レイティアが心配するだろうから、これで汚れくらい落としてから戻る事をお勧めするよ」
「……ありがとう。借りておく」
そう言って俺はアレックスに背を向け、ダンスホールに戻った。
「少なくとも勇気無き卑屈な者共よりは僕は評価しているがね」