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第24話 レイティアの願い

 借りたハンカチを濡らして汚れを落としたが、汚れは落とし切れるものではなかった。

 顔に洗って気持ちを切り替える。

 戻るとサラは知らない男と踊っていた。

 レイティアはリタと話している。

 心配するレイティアに俺は慣れないダンスで疲れて転んだと説明した。


「ドジねぇ。それじゃ、私も踊ってくるね」


 リタはケラケラ笑いながら、ホールへ入って行った。


「俺たちも踊ろうか」

「ううん。わたしはもう満足よ。お腹も空いたし、出ましょう」


 俺に気を使ったのか、レイティアはわたしも疲れたわ、と外に出る。

 俺たちが外に出るとすっかり暗くなっていた。

 これから食事に行く人達なのか、通りに人が増えていた。


「こっちよ」


 レイティアが俺の手を強く握った。俺がどこにも行かないようにという風に……。

 俺たちは鳥肉とパイが美味しいと言う店に入った。

 八割程度客の入っている店は活気にあふれている。

 俺たちは、二階のテラス席に座ると、通りから楽しげな話し声と涼しい風が流れ込んで来た。

 俺とレイティアはワインをブドウの炭酸ジュースで割った物を頼む。

 レイティアは酒が強くないと聞いていたので心配だったが、少しくらいなら大丈夫よ、と悪戯っぽく言われては止められなかった。

 二人とも一息つくとレイティアが切り出した。


「ねえ、わたしの話を聞いてくれる?」


 一杯飲みきらずに酔ったのか、ほんのり頬が紅潮して可愛い顔に色気を加えていた。


「わたし達ね。両親がいないの」


 わたし達とはレイティアと姉のアリシアのことだろう。アリシアは遠征で長期間いないと言ってた。つまり、今晩、レイティアは一人?


「両親もどこか行ってるの?」


 レイティアは静かに首を振った。


「……死んだの。もう八年になるかな? この街がリザードマンの大群に襲われたの」


 街には警備隊がいるのでは? レイティアの母親が警備隊だったとしても、父親は?


「お母さんは警備隊だったの?」

「ええ、そうよ。その時に亡くなった警備隊は他にも大勢のいたの。それで、腕に自信のある男の人も戦いに参加したわ」

「それでお父さんも参加したんだ」

「ええ、そうよ。お父さんはいつも、お母さんとは嫁取り儀で結婚したんだって、自慢してたの」


 両親を思い出したのか、寂しげな笑顔。


「男の人としてはそれなりに強かったみたいなんだけど、それでも限界があるわよね」

「そうか、辛かったよね」

「もう、昔の事だし、二人とも街のために立派に戦ったって聞いてるからね。時々、寂しく思う事はあるけど、お姉ちゃんも、リタもいてくれるからもう慣れたわ」


 レイティアは喉を潤すためか、心を落ち着かせるためか、薄いワインをもう一口飲んだ。


「でもね。悲しくなかった訳じゃないのよ。わたしはね、そんな人を一人でも少なくしたいから警備隊に入ったのよ。警備隊ってね。魔法が使えることが必須条件の上に毎日、厳しい訓練も行ってるの。その上で必ず相手より数で上回るように指導されるの」


 レイティアは首を横に振った。


「うんうん、そういう事を言いたいんじゃないの。……危ないことをしないで! わたしは周りの人が傷ついたり、亡くなったりするのをもう見たくないの。さっき、何があったかは聞かない。もう終わったことだから……。でも、これからは何かあったらわたしを頼って! ねえ、お願い」

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