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第54話 ソフィアとの夜

 ソフィアが出会ってすぐの頃のようにモジモジとし始めた。

 嫌な予感がする。


「ご主人様。あたしに女の悦びを教えてください」


 やっぱり! そうきたか。


「わるいソフィア、今日見たように俺にはレイティアがいるんだ」

「……そうですよね。失礼しました」


 ソフィアはそう言ってゆっくりと部屋から立ち去ろうとした。


「なぜ?」


 俺の言葉にソフィアが止まった。


「なぜ、泣いている?」

「いえ、なんでもないです。気にしないでください」


 俺は思わずソフィアの手を掴んでしまった。


「わけを話してくれ」

「……あたしがワガママなだけなのです」


 ソフィアは涙をぬぐいながら言った。


「明日からどんな危険があるかわかりません。あたし達のどちらか、最悪どちらも無事に帰って来られないかもしれません。かといって一人、あなたの帰りを待つ苦しみはもっと嫌なのです。ですから……あなたに抱かれた思い出があれば、あたしはもう思い残すことはありません」


 この世界の生と死は隣合わせなのだろう。死を受け入れる覚悟がある分、生にしがみつき、ワガママとなる。


「……おいで」


 俺はソフィアを引き寄せると、抵抗なく柔らかな暖かい身体と心が俺の腕にすっぽりと収まった。


「ご主人様」


 何か言いかけたソフィアの唇をそっと重ねた。

 一度唇を離し、涙で濡れた頬を優しく拭き取る。

 ソフィアを俗に言うお姫様抱っこをしてベットに横たえた。


 目を閉じて待つソフィアに俺は話しかける。


「すまない。俺がしてあげられるのはここまでだ。ソフィアには感謝をしている。だけどそういう気持ちで抱くのは何か違う気がする」


 そう言って俺は部屋を出ようとする。


「で、でしたらせめて、一緒に手をつないで眠ってください。それだけで、それだけで十分ですから」

「それだけでいいのか?」

「……お願いします」


 俺たちは一つのベッドで手をつなぎ、たわいのない話をしながら、穏やかな夜を過ごした。

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