ソフィアが出会ってすぐの頃のようにモジモジとし始めた。
嫌な予感がする。
「ご主人様。あたしに女の悦びを教えてください」
やっぱり! そうきたか。
「わるいソフィア、今日見たように俺にはレイティアがいるんだ」
「……そうですよね。失礼しました」
ソフィアはそう言ってゆっくりと部屋から立ち去ろうとした。
「なぜ?」
俺の言葉にソフィアが止まった。
「なぜ、泣いている?」
「いえ、なんでもないです。気にしないでください」
俺は思わずソフィアの手を掴んでしまった。
「わけを話してくれ」
「……あたしがワガママなだけなのです」
ソフィアは涙をぬぐいながら言った。
「明日からどんな危険があるかわかりません。あたし達のどちらか、最悪どちらも無事に帰って来られないかもしれません。かといって一人、あなたの帰りを待つ苦しみはもっと嫌なのです。ですから……あなたに抱かれた思い出があれば、あたしはもう思い残すことはありません」
この世界の生と死は隣合わせなのだろう。死を受け入れる覚悟がある分、生にしがみつき、ワガママとなる。
「……おいで」
俺はソフィアを引き寄せると、抵抗なく柔らかな暖かい身体と心が俺の腕にすっぽりと収まった。
「ご主人様」
何か言いかけたソフィアの唇をそっと重ねた。
一度唇を離し、涙で濡れた頬を優しく拭き取る。
ソフィアを俗に言うお姫様抱っこをしてベットに横たえた。
目を閉じて待つソフィアに俺は話しかける。
「すまない。俺がしてあげられるのはここまでだ。ソフィアには感謝をしている。だけどそういう気持ちで抱くのは何か違う気がする」
そう言って俺は部屋を出ようとする。
「で、でしたらせめて、一緒に手をつないで眠ってください。それだけで、それだけで十分ですから」
「それだけでいいのか?」
「……お願いします」
俺たちは一つのベッドで手をつなぎ、たわいのない話をしながら、穏やかな夜を過ごした。