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第55話 ソフィアの両親

「おはようございます、ご主人様。朝ですよ。朝食前にお風呂をどうぞ」


 昨夜の事は夢だったかのようにソフィアが起こしに来た。武具まではつけていないがすでに街の外に行ける服を着ていた。

 外はまだ薄暗かったが、色々と準備が必要なため、起きなければならない。


「おはよう」


 俺はそういうと、脱ぎっぱなしにしていた寝巻きを着て風呂場に向かった。

 風呂から上がり、食事を済ませた。


「お嬢様をよろしくお願いいたします」


 ソフィアのメイドのロゼッタさんに見送られ、俺たちはソフィアの両親の家に向かった。



 俺たちは歩いて三十分かからないくらい場所にある豪邸に来た。

 門番はソフィアを見るとにこやかな顔で大きな門を開き敷地内へ招き入れる。

 左右に手入れの行き届いた庭に挟まれた石畳の道を通ると、ソフィアの家の倍以上広く、重厚な装飾をあちらこちらにちりばめられた歴史ある家屋が現れた。

 ライオンの口に輪っかがついたドアノッカーを叩くと中から執事服を着た男性が現れ、すぐに客間に通された。


「両親を呼んで来ますね」


 そう言ってソフィアは部屋を出て行ってしまった。

 凝った装飾を施した大きなふかふかのソファー。綺麗な緑の石でできたテーブル。壁には高そうな絵が飾ってある。贅沢でそれでいて全体の調和が取れている客間は素人目にも金がかかっていることが分かる。

 落ち着きなく部屋の周りを見ていると重厚なドアがノックされた。


「どうぞ」


 ソフィアが扉を開け、その後ソフィアの父親が、最後に母親が入ってきた。


「お初にお目にかかります。わたくし竜ヶ峰清人(りゅうがみねきよと)と申します」

「ええ、娘からお話は聞いていますわ。どうぞ、お座りください」


 母親はにこやかに笑って、座るようにうながした。


「まずはわたくしどもからお礼をさせていただきます。娘に魔法を習得させて頂き、ありがとうございます」


 そう言っても両親は俺に頭を下げた。


「いえ、たまたま私の能力が魔法を習得させる力を持っていただけです」

「あら、あなたはライセンサーなの?」

「詳細はお話し出来ませんが、ライセンサーよりも上位の者です」


 あらあらと驚く母親は本当に警備隊副本部長を務めたのかと疑うほど可愛らしく、物腰が柔らかかった。


「そうなの。ライセンサーの上位ってどんな事が出来るの?」

「申し訳ありません。奥様、今日はあまり時間がありません。詳しいお話はまた今度という事でお願いいたします。実は今日お時間をいただいたのはお願いがあってのことです」

「それはお金のことかしら?」


 母親の優しく笑っている瞳の奥が光ったように見えた。


「ええ、とある事情により早急にお金が必要なのです。お貸しいただけないでしょうか?」

「とある事情とは?」


 父親がここで初めて口を開いた。かかった!


「お貸しいただける可能性が無いのに理由をお話しすると、無駄に貴方達を巻き込んでしまいます。お貸しいただけるとお約束いただければ、私どもの目的を話させていただきます」

「あなたは私どもにお金を借りに来たのですよね」


 母親の丁寧な声の裏に凄みを感じる。


「ええ、ただお願いに上がったわけではありません、代わりと言ってはなんですが、私が持っている情報と引き換えではいかがでしょうか? その情報をどう使われようがそちらの勝手です」


 母親は少し考えて口を開く。


「それでいかほどご入用で?」

「二千万マル」


 ここからの交渉で一千万マル近く借りれれば、俺の勝ちだ。


「二千万マル!?」


 父親は母親の方を見る。

 母親は静かに目を閉じた。

 それを合図に父親は持っていた鞄を開けた。


「ちょうど二千万マルあります。足りてよかったわ」


 は!? なんでそんな大金があるんだ? ソフィア一家、おかしく無いか? いかん! ここで気圧されては主導権を取られる。


「ありがとうございます。非常に助かります。分割になりますが、必ず返済いたします」

「まず、五百万マルはお貸しすることを約束します。その他はあなたの情報とやらを聞いてから判断いたしますわ」


 母親はそれまでと変わらない調子で言った。

 五百万マルでは厳しい。一千万マルは欲しい。


「一千万マルでお話しします。使い方次第ではそのくらいの価値はあると思いますよ」


 母親は小さく息を吐いて、ソフィアを見る。

 ソフィアは静かに頷いてくれた。


「いいでしょう。娘の恩人ということを加味して一千万マルお貸ししましょう」


 最低ラインは突破した!


 俺は警備隊がゴブリン討伐に失敗したこと。そのためゴブリンがこの街を襲撃するかもしれないかもしれないことを手短に話す。


「お借りした金は取り残された、私の家族のいる警備隊の救助と情報収集に向かうための準備金に使わせていただきます」

「もしかして貴方達も一緒に行くのですか? ろくに攻撃魔法も使えないのに?」


 母親は呆れたように言った。


「当然です。私にも出来る事があるはずですから」

「まあ、ゴブリン達が攻めてくるとなると備蓄用の食糧に武具が必要になるかしら……。わかりました。残り一千万もお渡しします。ただし一つ条件があります」


 こちらとしては最低ラインは越した。聞くだけ聞いてみよう。


「条件とは?」


 母親は手を叩いて外に控えさせていたであろう使用人を呼んだ。


「実戦でこの武器の使い勝手を試していただきたい」


 細身のなんてことはない剣だ。特徴的なのは柄に石が組み込まれていた。


「これは魔法によって強化された武器です。あなた達のようにろくに魔法の使えない人間用に開発されたものなのです。まだ試作品ですが。柄のマナ石を触れば組み込まれた魔法が発動します」

「つまり被験体になれと」

「ええ、その通りですわ」


 まあ、俺としては武器が増えることはありがたい。


「わかりました。今回の件が終わったら報告に伺います」

「お願いします。あと、このお金を返さなくても良い方法もありますが、聞きますか?」

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