俺たちはムサシマル達が待つ酒場へ移動した。
まずは顔見せだ。
「俺の名前はキヨと呼んでくれ。今回の依頼人だ。指揮権は隊長に任せる。魔法は戦闘向きではないので説明は省く。剣やボウガンでの後方支援になる。こっちがソフィア、俺の従者になる。実戦経験はないが、魔法は物に振動を与える。対生物戦には役立てると思うが、こちらも後方支援だ。人見知りなので、慣れるまでこんな調子だが気にしないでくれ」
俺の後ろに隠れているソフィアの分も説明した。
「あら、たかだか振動でどう戦うんでしょうね、ラン」
「おかしいですわね、レン」
双子は可愛い顔のまま小声で嘲笑った。
「レン、ラン。質問は後にしてくれたまえ」
アレックスよ。お前はあれを質問ととるか。
「儂の名前はムサシマルじゃ。魔法は使えん。剣術をかじっとるぐらいじゃが、縁あって今回の件に参加しておる。よろしく頼む」
師匠よ、あれでかじってるくらいなら、どこまで行けば一人前になるんですかね?
「では、警備隊から。今回隊長を務めるアレックスだ。魔法は電撃系だ」
「「きゃ~。アレックス様!」」
アレックスの左右にへばりついているレンとランから歓声が上がる。
双子、うるさい!
「レンです。補助系の水魔法ですので後方支援です」
「ランです。風系魔法で前衛です。得意はハンドアックスです」
ハンドアックスというにはランの肩近くまである大きめの斧だ。
ランもレイティアとそう変わらない体形だが、扱いきれるのだろうか?
「知っている人もいるが、今後の事のために言っておく。僕とレン、ランは鬼人族だ」
アレックスはいつも深くかぶっている帽子をとるとそこにはツノが二本生えていた。
レンとランは結んである髪をほどくとその下から一本ツノが見えた。
「ほう、話だけは聞いていたがはじめてお目にかかるのう」
ムサシマルが興味深げに三人を見た。
「私はリタ。魔法は炎系でレイティアと同じマリー隊にいたときは前衛です。よろしく」
「じゃあ、最後にレイティア」
「レイティアです。動きを遅くする魔法で後方支援です。皆さんわたしの姉の救出に力を貸してくれてありがとうございます。わたしのたった一人の家族なんです。どうかよろしくお願いします」
レイティアは深々と頭を下げた。
アレックスがフォーメーションと基本的な各人の役割を説明した。
また、ムサシマルが買いそろえた食料品、水、武具、松明や油、マナ石そして回復薬などを確認をする。
食事をしながら地図でルートとおよそのスケジュールの確認をした。
これから移動しても夜までには着けない。
野営の候補地も決めて、俺たちは街を出発した。
まともに乗馬ができない俺のために二人用の鞍をつけてくれたレイティアの後ろに乗る。
俺はレイティアの細い腰に手を回してしっかりと体を密着させると、暖かな風が顔を打ち、景色がどんどん流れて行く。
馬に慣れていない俺は舌を噛まないように、また振り落とされないようにするのが精一杯だ。
俺たちの後ろには砂埃が舞う。
一時間ほど走り、水場を見つけると馬を休ませることにする。
俺以外の人間は馬の世話をしているが、俺は横になって休ませてもらった。
「キヨ~。大丈夫? まだ先は長いからね」
レイティアは飲み物を持ってきてくれた。
「わたしに体を預けて力を抜かないと先が持たないわよ」
「次はあたしと乗りますのでしっかり密着して下さいね」
二人はすぐそばにいるのに目も合わせず俺と話している。その不自然さがこわい。
馬の負担を分散させるために休憩ごとに俺は乗る馬を変えることになっていた。
しかし俺はソフィアと馬に乗るのを恐れていた。