俺はソフィアの腰に手を回した。
レイティアとは違い程よい肉が腕を優しく包み込むような感覚。体を密着させるとあの夜何度も嗅いだ成熟した女性の甘い香りが鼻腔をつき、俺の男の部分が起きてしまう。
落ち着け、俺!
「あん。もっと強く抱きしめてください」
俺が密着するとソフィアが小さく呻いた。
あん、じゃないよ。
何度かの休憩を挟み、野営地に着いた頃には日が暮れかかっていた。
真っ赤な夕日を楽しむ様子もなく、みんなが馬の世話をしている間、俺は食事の準備をする。準備と言っても鍋に湯を沸かし、野菜や干し肉を入れたスープを作るだけだ。それと持ってきたパンを食べる。およそ一週間分の食料を準備しているが、量を計算してなるべく腐りやすいものから食べる。どちらかと言うと味は二の次だ。
水は近くの川から汲む。
飲み水は布で濾(こ)した後、別の鍋で煮沸を行なって冷ます。
全てムサシマルに狩りの時に教えてもらったことだ。
暑い中走る馬に岩塩を舐めさせ、休ませる。幸いな事に馬が食べられる草はそこら中に生えていた。
翌日は日の出と同時に出発することになった。
見張りは二人一組で行うことになり、まずはレイティアとソフィア、リタとムサシマル、レンとラン、最後は飯係である俺とアレックスとなった。
「戦力と相性を加味して決めた」
アレックスの一存で決められた。言いたいことがありそうな顔をした人間が俺を含めて三人ほどいたが、みんなぐっと飲み込んだ。
心配があったが、俺が今やるべきことはみんなの足手まといにならないようにしっかりと体力を回復させる事だ。
虫対策も兼ねて、布に包まり横になる。
何かあった時にすぐに動けるように剣を抱いたまま。
明日の今頃には救出作戦は進行中の筈だ。平穏な今日を思うとなんだか実感が湧かない。
パチパチと焚き木の音がえらく大きく聞こえる。
眠ろうと思えば思うほど眠れない。
どのくらい経っただろうか、眠気がゆっくりと俺を侵食していき、遠くに話し声を感じながら深闇の世界へ誘われた。
「起きろ」
俺は押し殺した声と体を揺さぶられて目を覚ました。
「!!」
思わず大きな声を出しそうになる口を押さえられた。
「僕だ。アレックスだ」
目を覚まし、あたりを見るとレンとランはすでに眠っている。
アレックスは防具をつけ、準備が終わっていた。
おそらくぎりぎりまで俺を寝かせてくれていたのだろう。
時間の感覚がわからなくなっているが、おそらくあと二、三時間もすれば日の出なのだろう。
俺は脱いでいた胸当てを急いでつけながら、周りを見るとレンとランはぴったりくっついて寝ていた。
こう見るとレイティアにきつく当たっているのがウソのようだ。
レイティアとリタは二人で近くに眠り、その横にムサシマル。ソフィアは俺のすぐそばにいた。
俺は汲み置きしてあった水を鍋に入れて湯を沸かす。
「どうやらあの二人はあまり仲良くはなれなかったようだね。まあ、一晩でどうこうなるとは思っていなかったがね」
アレックスは周りを哨戒したあと、俺が入れた紅茶を受け取りながら言った。
「あの二人とはレイティアとソフィアのことか?」
「ほかに誰がいるんだね」
あの組み合わせはそう言うことか。
「まあ、ソフィアの性格からしてなかなか難しいだろう」
「おや、僕にはあの子はああ見えて譲れないところはしっかり主張すると見たがね。それよりも子猫ちゃんの方が最終的に自分の主張を押し殺すクセがあるから本当の意味で心を開くのは難しいと思ってるんだけど……。二人っきりであればそこら辺も出てくるかと思ったんだけどね」
そう言えばアレックスと二人っきりでゆっくりと話すのは初めてだ。
「なあ、アレックス。お前にとってレイティアはなんなんだ?」
「そうだね。一言で言うと愛しい人かな」