「愛しい人?」
スメアゴルかよ。
「ああ、あの笑顔、仕草。可愛いじゃないか。そう思うだろう」
まあ、そこは同意する。
「それだけか? 単刀直入に聞くが、恋愛感情は?」
アレックスの様子を見ているとどうしても女だと言うことを忘れそうになる。
「恋愛感情か」
アレックスは焚き火に木をくべながら考え込んだ。
「なあ、少し昔話をしていいか?」
「……ああ」
「僕たち鬼人族は元々独自の街を持っていたらしい。らしいというのは、僕はあの街生まれだから親に教えられただけなんだ。街は色々な人種がいたとは言え、僕の両親と数名が街に移り住んだ時には鬼人族は一人もいなかったらしい。まあ、今でも数えるほどなんだけどね」
遠くでミミズクの鳴く声が響いた。
「知っての通り、僕たちはほかの人種から見ると凶暴で人喰いと思われていて、当時は今より偏見が強かったんだ。確かに肉食だし、酒を飲むと我を忘れて暴れる者も居るのは否定できないんだけどね。だから普段はツノも鬼人族であることも隠してるのさ」
今は出しているツノを触って言った。
「両親達は何とか街の人々に受け入れられるように、子供の僕たちにも暴力を硬く禁じたんだ。子供のころでも普通の大人以上に力があるからね」
そう言えばあの裏路地の出来事の時、片手で大人一人持ち上げてたな。それでランもあのサイズの斧をハンドアックスと言い切ったのか。
「なあ、キヨ。何をされても反撃の出来ない子供はグループの中でどうなるかわかるか?」
「悪ガキのいいマトだな」
アレックスはウインクをよこした。
「そう、何をしようが反撃しない者は群れの中でターゲットにされる。そうすると関係のない周りの子供も巻き込まれないように僕から距離をとる。孤独ないじめられっ子の出来上がりさ。……かと言って下手に手出しして怪我でも負わせようものなら一家どころか一族全て街から追放だ。八方ふさがりだよ」
アレックスは両手のひらを肩あたりにあげ、やれやれと言うふうに首を振った。
「自然と僕は人目につかず一人で過ごす事が多くなったのさ。そんな僕を気にかけてくれる人がいたから、今の僕があるんだけどね」
「レイティアか?」
「おしい! アリシア姉さんだ。アリシア姉さんはまだ小さいレイティアとリタの面倒を見ててね。近所だった僕にもいつも良くしてくれたんだ」
アレックスとレイティア、リタは幼馴染って訳か。
「そんな評判なのによく警備隊に入れたな」
「八年前のリザードマン襲撃事件に時に鬼人族の大人達は男も含めて全員参戦して活躍した結果、僕たちのことが認められたんだ」
レイティアの両親が亡くなった戦いか。
「じゃあ、何で今も鬼人族であることを隠してるんだ?」
アレックスは俺を指差した。
「君はどこから来た?」
あの街は流通拠点。一時滞在者も含め街の人々の入れ替わりは激しい方だろう。
「わかったかい。旅人を含め街の人々を守るのが警備隊の役割だ。そのためには街の人々とそれ以外にも安心を与え、信頼を勝ち取らねばならない」
アレックスは芝居かかったように胸に手を当てた。
「警備隊学校で一番初めに教えられるんだよ。そして繰り返し教えられるんだよ」
「それで結局レイティアはお前にとってどう言った存在なんだ?」