「どういうこと? 急に魔法を増やすって。帰ってから魔法技術院へ行けってこと!?」
レイティアは危うく持っていたコップを落としそうになるほど、驚いていた。
「いや、俺が魔法を習得したっていう話はしたと思うけど、その魔法というのが他の人に魔法を習得させる魔法なんだ。実際、ソフィアはゼロから一つ持ちになった」
「それで……」
レイティアはソフィアの俺に対する態度の一因を理解したようだ。
「本当はもっと練習してからと思っていたんだけど。レイティアの魔法も強力だが、ほかのみんなと合流するまでは直接攻撃の魔法があった方が生存率が上がると思うんだ」
何とかオオムカデモドキは退けたが、魔法無し、剣技はぼちぼちの俺と支援魔法のレイティアだけでは厳しい気がする。
もともと魔法の数はレイティアのコンプレックスだったから、増やしたい気持ちはあるはずだ。
しかしそれが簡単にできるはずがないという疑いの気持ちもあるはずだが、それをどう払しょくするかがカギになる。
「そうなの! すごいじゃない。どんな魔法でも覚えられるの?」
あれ?
「レイティアが既に知っている魔法であれば問題ない」
「じゃあ、リタが使っているファイアボムを使ってみたいわ」
「どんな魔法だ? ファイアアローしか使ってるのを見たことがないな」
「はじめは小さな火種みたいなのが飛んでいくんだけど、対象にぶつかると人一人分ぐらいの大きさに爆発して炎で包み込むの。なかなか強力よ。ただしマナを結構使うみたいで、リタはファイアーアローの方を好んで使うわ」
「まあ、マナ石は豊富に持ってきてるから大丈夫だろう。分かった」
俺はバッグの中からマナ石を渡す。
「じゃあ、ファイアボムを習得させるよ。まずはリラックスして私の指を見て」
俺は第一階層のトランス状態へ誘う。そこからトランスと半覚醒を繰り返し、強いトランス状態を作り出し、第二階層のトランスへ誘う。
ここで集合的無意識体がまた出てくるかと身構えていたが、どうやら俺については承認されているようで出てこない。
「あなたは深い知識の海のなかでファイアボムの知識をつかみ、自分の引き出しの中にしまいます。これであなたはファイアボムを習得しましました。あなたは目覚めた後も必ずファイアボムが使いこなせるようになっています。必ずです」
そしてソフィアの時と同じようにこのこと自体を忘れることと、ある言葉によって瞬間的にトランス状態になれるようにして覚醒させた。
「おはよう、レイティア。どうだいファイアボムは使えそうか?」
「おはよう、キヨ。ちょっと待って」
レイティアは目をつむって何か思い出そうとしている。
「覚えてる! すごい! すごいはキヨ! 魔法使ってみる?」
レイティアは飛び上がりそうな喜び方でまるで新しいおもちゃを早く使いたがる子供のように魔法を使いたがる。
いやいや、こんなところで無駄に魔法を使う余裕はない。下手に使って敵を呼び寄せられても困る。
「いや、それは敵が出てきてからにしよう」
とりあえずこれで先を進むことが楽になるはずだ。
「ありがとう、キヨ。これでわたしも二つ持ちになれた」
レイティアの笑顔がまぶしい。
「それに今もキヨが頑張ってくれたからお姉ちゃんを助けに来ることもできた。本当にありがとう」
興奮したレイティアの顔がすぐそばに来た。
少し引き寄せればその唇がすぐそばに……。
レイティアもそっと目を閉じる。
「ん、うう~ん」
保護したエルフは目を覚ました。