目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第63話 オオムカデモドキ

「生きてるわ!」


 オオムカデモドキに捕まっている人をレイティアも気が付いたようだ。

 アリシアさんかもしれない。

 幸いなことにオオムカデモドキはこちらに気が付いていない。

 レイティアにランタンを渡し、作戦を手短に伝える。

 俺はレイティアから離れ、槍を構えながら足踏みをしてオオムカデモドキの注意を引く。

 俺の足音に気が付いたのか、体をくねらせて無数の小さな足を動かしてこちらに来る。


 でかい! 対峙するとそのでかさに寒気を覚え、逃げ出したくなる。

 しかし、レイティアが捕まっている人を助けるまでは下手なことはできない。


 むやみに暴れられると二人とも川に落ちてしまう可能性がある。

 オオムカデモドキもこちらの槍を警戒してすぐには襲ってこない。


 獲物をすでにとらえている余裕からだろうか?

 オオムカデモドキが大きな牙をカチカチとならしながらくびを回して威嚇してくる。

 俺は襲ってこられないように槍をオオムカデモドキの頭の動きに合わせて回す。


「ストップ!」


 オオムカデモドキの動きがゆっくりとなる。

 俺は一気に間を詰め、その片眼を突く。

 オオムカデモドキが暴れだした。しかしレティアの魔法のおかげでその動きは緩慢だ。

 俺は落ち着いてもう片眼を突く。


 よし!


「キヨ! 危ない」


 オオムカデモドキは暴れてその尻尾を横殴りに俺にぶつけようとする。

 気が付いた時にはすでの目の前にあった。

 何とか槍で受けるが、体ごと持っていかれ壁にぶつかる。

 背中を打ちつけ、息がつまる。

 俺は言葉にならない叫び声を上げて、オオムカデモドキの横腹から槍を刺す。


 外殻は硬い!


 しかし、なんとか刺さる。

 そのまま槍を払いながら横に移動してオオムカデモドキの足を切り落とす。


 なかなかの切れ味だ。武器屋、いい仕事してますねえ。


 足を切られたオオムカデモドキは牙を剥きながら、糸を出そうと尻尾をこちらに向ける。


 狙い通り!


 俺は槍を床とオオムカデモドキのあいだに差し込みむ。


「おりゃ~!」


 テコの原理でオオムカデモドキをひっくり返す。

 体勢が崩れた上にこちら側の足がなくなっているオオムカデモドキは踏ん張ることが出来ない。


 バッシャン!


 オオムカデモドキが川に落ち、流される。


「上がってくるなよ」


 流されまいともがくオオムカデモドキを槍でつつき、川下に流されるオオムカデモドキを見送る。


「どうだ? 大丈夫か?」

「こっちは大丈夫そう。キヨこそ大丈夫?」


 ムサシマルの一撃に比べたら楽なもんだ。

 レイティアはロウソクの火で糸を焼いて、中の人間を助け出す。

 中から出てきたのは、エルフだった。


「ユリさん!? よかった。生きてる」


 回復薬を渡すとエルフは半分ほど飲んだ後、意識をなくすように眠った。

 呼吸はしっかりしているのでしばらくすれば目を覚ますだろう。

 その間に、俺たちも中断した食事をすることにした。


「レイティアはこのエルフは知ってるのか?」

「ええ、お姉ちゃんと同じ隊の人なの」

「と言うことはアリシアさんの行方も知ってる可能性があるのか?」

「おそらく……ね」


 アリシアさんは死んだ。と、このエルフの口から語られる可能性もある。

 だが、目を覚まさない事にはなんの情報も得られない。

 とりあえず、エルフが目を覚ますまで待つしかない。

 しかしこの先、敵が現れた時に俺たち二人だけでは戦力的に不安だ。


「なあレイティア、魔法を増やしてみないか?」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?