リーについてはソフィアとムサシマルにも手伝ってもらい誤解が解けた。
俺は命拾いをしてホッとすると、話題が別の方にずれた。
「しかしさっきは驚いたわよね。アーちゃん。男嫌いのラムちゃんがキヨさんの言うことを素直に聞くなんてね」
ラムちゃん? 誰だそれ?
「ユリさん、その呼び方は好きじゃないって言ってるでしょう。アレックスと呼んでください」
アレックスはユリに抗議するが、さすがのアレックスも警備隊の先輩には強く言えないようで、困った顔をする。
「いいじゃない。アレックスなんて長いし可愛くないもの。アーちゃんだとアーちゃんと区別つかないし。それよりどう言った風の吹きまわしなの? 婚約者もいる身でいいの?」
ユリがぐいぐいとアレックスに詰め寄る。
婚約者? アレックスに?
「アレックスのフルネームね。アレックス・ラム・レッドって言うのよ」
「へ~。婚約者がいるのか?」
なんか意外だ。すっごく女遊びしてそうな容姿と行動なのだが、男の婚約者がいるのか?
いや待てよ。アレックスの事だ、婚約者が女性でもおかしくないぞ。
「アレックスは鬼人族でも有力なレッド家の長女なんだけど、商売で大成功しているスター家の長男のアータルって人と婚約してるのよ」
さすが昔からの知り合いらしく、レイティアは詳しく俺に教えてくれる。
さすがのアレックスも婚約者は男だったか。
「確かに僕は男の人はあまり得意ではないですが、だからと言って有効な意見を無視するほど心が狭い訳じゃないんですよ」
「へ~そうなの?」
ユリの興味が完全にアレックスに移ったようだ。
ユリは意味深な笑いを浮かべながらアレックスを見ている。
「だいたい僕の男嫌いはアータルのせいなんですからね。女と見れば見境なく口説こうとするのを、小さい頃から見せられるとこうもなりますよ。あっちだって僕のこと女だと思ってないでしょうしね。」
電撃、鬼っ子、ラムちゃん、女好き、アータル。何か引っかかる、記憶のどこか。頭が痛い。何か思い出してはいけない。非常に大きな力が俺の記憶回復を阻害している。俺は思い出すのをあきらめた。
「「ユリさん、アレックス様の前でアータル様の話をするのはやめていただけますか? と言うか鬼人族の前では。あれは鬼人族の恥です。スター家の生まれでなければとっくの昔に放逐されているんですから」」
まあアレックスに嫌われていることはレンとランにも嫌われていることは想像できたが、種族単位なのか? アータルとやらわ。怖いもの見たさで、逆に会ってみた気がしてきた。
「それにそもそもキヨは今回の依頼主ですよ。好きも嫌いも関係なく意見は尊重します。だいたい僕の好みど真ん中はレイティアですから」
あ、言うに事欠いてこの場の四人の空気を変えやがった。
「「レイティアめ~」」
他の人に聞こえないほど小さく呪詛をユニゾンで吐き始めた双子。
「何言ってるのよ。わたしたち友達としてよね」
慌てながらも少し照れているレイティアを不覚にも可愛いと思ってしまった。
「ア~レック~ス~! うちの可愛い妹をへんな道に引きずり込むんじゃないわよ~!」
俺の時以上に恐ろしい顔をしているアリシア。
「アレックスより俺の方がいいですよね、義姉さん」
「義姉さんって呼ぶなって言ったよね~!」
そんなこんなで騒がしい夜は更けて行った。