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第6話 禁忌の神社へ

 問題の神社へ乗り込むのか。「小鳥遊の一族には気をつけろ」という漁師の忠告を思い出した。蓮は儀式に反対しているが、それは表面上かもしれない。


 ダメだ、先入観はすべてを狂わせる。小鳥遊一族については、実際に会ってから判断すればいい。


 竹林の小道を抜けると、ひたすら真っ直ぐに歩き続ける。桟橋を越えて、しばらくすると急峻きゅうしゅんな小山に行き当たる。


「ここの頂上に神社、つまり、僕の家があります」


 小山には木製の階段が設置されている。しかし、朽ちかけていて注意しないと足を踏み外しかねない。


 もしかして、賛成派は島の中では少数なのか? 信仰者が多ければ、経済的に困ることはないだろう。


 蓮が苦笑いする。


 どうやら、表情に出ていたらしい。


「加賀さん、気にしないでください。先に言うと、神社自体もボロいです。表現を変えれば趣があるとも言えますが」


「まあ、蓮には悪いけれど神社が潰れれば、『火送り』自体なくなるんだけどね」


「まあね。少なくとも僕は継ぐつもりはないよ。たぶん、兄さんが継ぐと思うよ。儀式に熱心だからね」


 蓮には兄がいるのか。


「ねえ、蓮のお父さんは神社にいる?」


「この時間ならいるはずだよ」


 瑞樹は何やら言いたいことがあるらしい。なんとなく想像できるが。


 階段を進むと脇に薪が置かれている。


「これは……?」


「儀式に使うためです。『火送り』では、夜通しで火をつけますから」


「なるほど。しかし、依代を焼くだけにしては量が多くないか?」


 キャンプファイヤーができそうな量だ。


「理由はいくつかあります。依代は神輿みこしのようなもので運ばれるんです。そして、それごと焼きます。でも、最近は違います。儀式当日に亡くなった方を火葬します。つまり、今年は瑞樹が死ぬ前提で準備が進んでいるんです」


 蓮はため息をつく。


 俺にも痛いほど分かる。家族が幼馴染の死を何とも思っていないなんて、どんな気分だろうな。


「見えてきましたよ。ほら、あそこに鳥居があるでしょう?」


 朱色が剥げかけた鳥居が目に入る。いよいよ敵地だ。俺はバックからするりとカメラを取り出した。


 因習をやめさせる以上、どんなひどいものだったかを後世に伝えるために写真を撮っておく必要がある。これが、俺のスタイルだ。


「あ、加賀さん。おすすめしませんよ、写真を撮るのは。幽霊が写るとかではなくて、家族が嫌がるんです」


 そうは言っても、配信者としては写真がないと信頼性がなくなる。


 その時だった。鳥居の前に一人の男性が現れた。


 直感が「蓮の父親だ」と告げている。まるで、蓮の未来の姿を見ているかのようだ。


「そこの男。カメラをしまえ。ここから先は神聖な領域だ」


 仕方ない。無理すればカメラがパーになりかねない。以前、他の村で写真を撮っていた時、村民に壊されたことがある。


「蓮、その男は何者だ? そんな友人はいなかったと思うが」


「えーと、観光客だよ。歴史ある神社を見たいって言ったから、案内してるんだ。父さん、うちのことについて詳しく話をしようよ」


 蓮のやつ、配信者と言えば追い返されると気づいて誤魔化そうとしているな。ありがたいことだ。


 蓮の父親は疑うように見てくるが、追い返す材料がないと思ったのか「そうか」とポツリと呟くだけだった。


「ついてきてください。神社の中で何を見ても平静を装ってください。お願いしますよ」


 蓮が小声で忠告する。


 嫌な予感がする。おそらく、鳥居をくぐれば後には引き返せない。この先に恐ろしいものが待っていようとも。

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